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新しい女神  作者: ジュルカ
星の山の弧

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116/180

第116話 アビエス王の訪問

最初に耳へ届いたのは――

焚き火のぱちぱちという音だった。


次に聞こえたのは――

“この世界のものではない”低い唸り声。


アレックスとの魂の戦いの余韻がまだ身体に残っていて、

第一女神の声が脳裏に残響している。


けれど――夜気が、おかしい。


冷たすぎる。

重すぎる。

まるで“世界そのもの”が息を潜めているようだった。


そして――


「……目覚めたか、小さき火花よ」


葬送の鐘のような低い声が、キャンプ場を揺らした。


全身が硬直する。


闇の中から、何者かが“歩み出た”。


足音はない。

気配もない。

ただ、現れた。

まるで“現実”が遅れて彼を思い出したように。


黒の王装を纏い、

影の墨のような長い髪を揺らし、

砕けた黒曜石の冠を戴き、

瞳は――死にゆく星の光。


ニャが叫ぶ。

だが、解析は追いつかない。


【警告:データなし。存在の定量化が不可能】

【一致:アビス・キング】


血が凍る。


「お、お前……アビスキング……?」


彼は笑った。


「“アビスキング”などと単純化するな。

私は原初の王――お前の“第一女神”が、存在の黎明で滅ぼした者だ」


そして――動く。


動いていないのに、近づく。


一瞬前まで20メートル先にいたのに――

次の瞬間、私の耳元で囁いていた。


「久しいな……新たなる女神よ」


魂が拒絶する。

私はソーラーフレアで視界を焼き、後方へ跳ぶ。


剣を構え、息を荒げる。


彼は――瞬きすらしない。

ただ、木剣を振り回す子どもを見るかのように、愉快そうに私を眺める。


「お前の転生は面白い。

だが未熟だ。

第一女神はまだ目覚めていない」


彼が手を上げた。


――世界が砕けた。


キャンプは消えた。

森も、空も、地面も。


代わりに現れたのは――

滴る闇が渦巻く、巨大な黒のドーム。


彼の“領域”。


ニャが絶叫する。


【危険:この領域での生存確率 0.0004%】

【推定被害:概念消去】


彼は、ただ私を見る。


悪意も、憎悪もない。

ただ……興味だけ。


「見せてみろ。

“本当の力”を使えぬ、お前がどこまで戦えるか」


歯を食いしばる。


「……いいよ。望むなら――!」


私は突っ込む。


剣が空を裂き――そして彼を斬る。

いや、影の残像を。


胸骨に、指が触れる。


――触れたただけで。


BOOOOOOM――!!!


身体が弾丸のように吹き飛び、

闇の壁に叩きつけられた。


肋骨が砕ける音。

痛みが爆発する。


「っ……!」


どうにか構えた瞬間、背後から――


CRACK――!!


蹴り上げられ、空へ。


世界が回転する。

何かが折れた。

多分、全部。


だが終わらない。


今度は上空から――

顔を掴まれ、地面へ叩き落とされる。


KRAAAAA-THOOOOOM!!!


クレーターが生まれ、領域が揺れる。


視界が白く瞬く。

頭蓋が割れ――再生し――また割れる。


転がろうとした瞬間、髪を掴まれ持ち上げられる。


「まだ本来の力を使っていないな」


「つ、使えないんだよ……! “みんな”との約束で……!」


「子どもたちか。

来たるものを何も知らぬ愚か者だ」


投げ捨てられた。

死体のように地面を転がり――


それでも、私は立った。


ふらつきながら。

血を流しながら。

ほとんど意識もないまま。


「……私は……まだ……負けない……」


「鬱陶しい」


彼が手を上げる。

闇が槍となる。


「《アビス・デストロイヤー》」


投げられたそれは――


私の胸に直撃した。


――世界が白く弾け飛んだ。


音のない爆発。

果てが見えないほど広大な破壊半径。


そして――


塵が晴れた時。


私は――立っていた。


限界の身体で。

揺らぐ魂で。

ほとんど視界もなく。


それでも、“倒れなかった”。


アビスキングの目が見開かれた。


「……まだ生きているのか」


私は血を吐き、笑う。


「倒れるのは……あんたを殴ってからだ……」


初めて――彼が眉をひそめた。


その時、彼の身体に“亀裂”が走る。


ニャの声が響く。


【警告:アビスキングの“物理層留在”が限界。

完全な力を保持できない】


彼の姿が、神のノイズのように揺らぐ。


「……ちっ。長くは居られんか」


――好機。


私は目を閉じた。


全予視界オール・フォーシーン・サイト》が発動する。


動き。

可能性。

確率。


その“ただ一つの隙”を見つけた。


動く。


速く。

速く。

もっと速く――!!


時間が歪む。

空間が割れる。

概念が軋む。


限界という概念を置き去りにし――


私は“そこ”へ辿り着いた。


拳に《無限のバウンドレス・マイト》を収束。


「みんなのために――

――この世界のために!!!」


CRAAAAAACK――!!!


拳が炸裂した。


黒い雷が奔り、

領域がガラスのように砕け、

アビスキングが何層もの空間を突き破って吹き飛ぶ。


彼は実体世界へ転落し、

虚無の血を吐きながら地面に転がる。


私は――崩れ落ちた。


息も絶え絶え、

生命もほとんど残っていない。


それでも、意識を保っていた。


アビスキングは震える手で立ち上がり、呟く。


「……私に、一撃……?」


信じられないという声。


「この状態の私に、傷をつけるとは……」


ふと、私を見ると――

微笑んだ。


「さすが“第一女神の器”……実に、完璧だ」


そして一歩、近づく。


私の喉へ手を伸ばし――掴んだ。


世界が暗く沈む。


最後に耳へ届いたのは――


「さあ、新女神よ。

星々の山まで――私を導け」


アビスが私を呑み込み――


私は、消えた。

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