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新しい女神  作者: ジュルカ
星の山の弧

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第114話 女神の狼

私の刃が白狼の爪に触れた瞬間――

魂の世界が揺れた。


私の内側、私の領域――その“魂景”が、ひび割れ始めた。


幻でも反射でもない。

こいつは“本物”だった。


そして――恐ろしく強い。


白い彗星のように尾が薙ぎ払う。


BOOOOM――!!


私は吹き飛ばされ、宙に浮かぶ記憶結晶へ突っ込んだ。

砕け散った破片には、私の前世、初めての戦い、初めての友……

いや――俺のじゃない記憶まで混ざっていた。


「……なんだよこれ……!? 俺の記憶じゃない……!」


狼はお構いなしだった。


再び突進してくる。


私は剣を構えた。


「《ソウルストライク》!!」


刃が毛皮に触れた――


何も起きなかった。


反動も、傷も、擦り跡すらない。


「は? なら――《ウォーターボルト・スラッシュ》!! 《エンバーヴォイド》!! 《シンギュラリティ・ストライク》!!!」


斬撃、術式、重力破断――

次々と叩き込むが、


全部、無効化。


雨粒のように、毛皮に触れただけで消えていく。


こいつは、原初級どころじゃない。


ローグを超え、

ザックを超え、

アビスキングすら超える――


存在そのものが“根源”に近い。


狼が咆哮する。


GROOOOOOOOOOOOOAR――!!


宇宙が崩壊するような衝撃音。

魂景が裂け、地形が粉々に砕け散る。


膝が折れ、耳が鳴り、

唇から血が落ちる。


倒れそうになった。


――が、踏みとどまった。


「……まだ……だ……!」


私は剣を地面に突き立て、体を固定する。

凄まじい圧が押し寄せる中、歯を食いしばってマナを放出し、結界を張り――


耐えろ。

耐えろ。

耐えろ――!!


咆哮が止んだ頃には、私は肩で息をしていた。


こんな疲労……

人間だった頃以来だ。


「マジか……俺、まだ疲れるんだな……」


狼が再び跳ぶ。


私は飛び上がり、着弾をかわす。


BOOOOOOOM!!!


大地が大爆発のように割れ、

石と記憶の欠片が宙に舞う。


私は漂う残骸を足場に走り、跳び、滑り、かわす。


しかし――

攻撃はすべて受け流され、

術式はすべて圧倒され、

恐れた分だけ狼は強くなる。


それでも、私は止まらなかった。


これまで戦い続けた日々。

死んだ回数。

抱えた痛み。

守った仲間。


全部が、胸の奥で燃え上がる。


「――俺は……絶対に、諦めない!!!」


私は跳躍し、剣を掲げる。


刃に小型ブラックホールが収束する。


「俺は――自由である!!

《シンギュラリティ・ストライク》!!!」


剣が狼の頭蓋へ直撃する――


KAAAAAAAAAAANG!!!


魂景の空が裂けた。


衝撃の残像が何十枚も走り、

漫画のコマが破り捨てられていくように世界が震える。

爆発が地平線すら消し飛ばし、記憶の山々を粉砕した。


煙が晴れる頃には――


狼はいなかった。


私は膝をつき、荒い呼吸を繰り返した。


何年ぶりだろう、

こんな“本気の疲労”を感じるのは。


「はぁ……やりすぎた……」


ふらつきながら、小屋へ向かう。

唯一残った、安定した構造物。


扉をノックした瞬間――

意識が闇に落ちた。


――そして。


「あれ……?」


目を開ける。


だが、カラハウスではなかった。


柔らかいベッド。

木造の静かな部屋。

窓から暖かい光。

お茶の香り。


そして――鼻歌。


視線を向けた。


――凍りつく。


白髪。

黄金の瞳。

星布のように淡く輝く衣。

静かな微笑み。


知っている顔だった。


「目が覚めたのね」と彼女は言う。

「ほら、お茶を淹れたわ」


心臓が止まる。


「お、お前……!! 白い虚無で俺を転生させた女神!!!」


彼女はくすっと笑った。


「ええ。ようやく“ちゃんと”会えたわね」


喉が鳴る。


ずっと聞けなかった問いが、胸の奥から溢れた。


「……本当なのか?

あなたは……第一女神?

自由の神?

“外側”から生まれた存在……?」


彼女は動きを止めた。


微笑みが消える。


手が滑り、カップが床で砕ける。


彼女は静かに歩み寄り、

ベッドの隣に腰を下ろし、

まっすぐ私を見た。


「……そう。気づいてしまったのね」


「いや、あんなSCPみたいな狼が出てきたら気づくわ!!」


「ああ……アレクスね。私の護衛ペットよ」


「ペット!? 殺されかけたんだけど!?」


「新しい“器”を試すのが好きなのよ」


「その“器”って何――」


そこで言葉が止まった。


彼女は静かに続けた。


「パーフェクト・コピーは、あなたが望んだもの。

私はただ、それを渡しただけ」


「いや、でも――あなた自身の起源までコピーするとは思わなかった!」


彼女は息をつき、表情を和らげた。


「そこが問題だったの。

あなたは能力ではなく――

“私の起源本質”をコピーしたのよ」


「……は?」


「それは“種”になったの。

私の最後の一片。

外側へ還ったあとに残った、唯一の断片」


血の気が引く。


「じゃあ……あなた、死んだのか?」


「死んだわけじゃない。“終わった”のよ。

物語が閉じ、存在が溶けたの。

わずかな欠片だけが残った」


「……それを、俺がコピーして……」


「そして――完璧にしてしまった」


手が震える。


声が揺れる。


「じ、じゃあ……進化の時に聞こえた声も……

俺の力が原初すら超えている理由も……?」


彼女はそっと、私の頬に触れた。


「ええ。

あれは私。

あなたを通して、再び目覚めたの」


息が止まった。


「あなたが私を蘇らせたの、リリア。

残響でも、化身でもない。

私そのものとして――第二の誕生として」


私は震えながら彼女を見る。


「なんで……俺なんか……

ただのアニメ好きの男だったのに……」


彼女は首を振り、微笑んだ。


「違うわ。

あなたは“自由”を願った。

私がかつて持っていた、最も大切な概念を。

それを継げる人。

私すら願えなかった自由を望める人」


黄金の瞳に、誇りの色が宿る。


「あなたは新しい女神、リリア・フォスター。

私の起源を抱く者だから」


喉が震えた。


「じゃあ……あなたは本当に――

第一女神……」


彼女は悲しげに、しかし優しく微笑んだ。


「あなたを救った女神は――

他でもない、私よ」


世界が静まり返った。


真実が――すべて繋がった。


この狂った宇宙の構造も、予言も、選ばれた理由も、

現実を壊すスキルの根源も――


全部――


ここから始まった。


彼女から。


そしてこの瞬間から。


この“真実”から。

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