第108話 新しいルール由
長いテーブルは、ぎっしりと埋まっていた。
全員が同じ表情をしていた。
──死を悟った人間の顔。
アウレリアは、たった十分で十年老けたような顔をしている。
セレネは聖杖を命綱みたいに抱きしめている。
カエルの眼鏡は完全に曇っていた。
ロナンは壁を見つめながら、リリア以外の神へ祈りを捧げている。
ルナ、フレイ、ローグという原初たちですら、処刑待ちの兵士のように姿勢を正していた。
彼らの正面に座る“脅威”は二つ。
──私。
──そしてクッキーを食べながら上機嫌に鼻歌を歌う《カオス・リリア》。
創造と永遠が、心配そうな保母のように私たちの間に座っていた。
場の空気を一言で言うなら、
「あの子がくしゃみしただけで全員死ぬ」
アウレリアは両手をテーブルに叩きつけた。
「り、リリア……皆で話し合って……」
深呼吸。
そして──
「あなたは禁止です!!」
「……は?」
「……は?」
私とカオス・リリアが同時に瞬きする。
全員、雷でも落ちたみたいに身体を震わせた。
「禁止って……何を?」
立ち上がったセレネが聖女然と宣言する。
「あなたの“危険度MAXスキル”の使用を、今後一切!!」
ロナンが指を突きつける。
「一つたりとも! 絶対に!!」
カエルが震える紙を掲げた。
「ぼ、僕が数えた限り……“形而上の戦争犯罪”に分類されるスキルが六十七個……
どうか……どうか自重してください……!」
ダリウスが読み上げる声は震えていた。
「禁止スキルは以下の通り。
――虚数虚無。
――不可避なる超越(緊急時以外)。
――真虚無。
――深淵の王妃。
――魂喰らい。
――現実の相。
――神々の王。
――オールスター・デス。
――完全死神。
――因果支配。
――時空の女神。
――そして特に──」
彼は爆弾を見る目で私を指さした。
「宇宙論的構造への《無限複製》の行使は禁止!!」
セレネが必死でうなずく。
「前にあなた、無限時空構造をコピーしましたよね……?
あれのせいで……まだ私、たまに痙攣します……」
ローグが手を挙げた。
「あと《ロジック・ブレイカー》も。
あれ、俺の魂が半分消えかけたからね?」
カオス・リリアがニヤッとした。
「でも面白かったよね?」
全員
「面白くない!!!」
私は手を挙げる。
「ちょっと待って。私の“通常スキル”でも全能宇宙レベルなんだけど──」
「知らん!!」
テーブル全員が叫んだ。
アウレリアが真っ赤な顔で立ち上がる。
「リリア! 私はあなたを愛してる! でも言わせて!
あなたの“通常スキル”が神界を誤って消滅させるレベルなの!
それなのに──」
震える指で私を指した。
「その上位である原初スキルなんて、もう理不尽の概念そのもの!!」
全員、深くうなずく。
カエルが泣きそうな声で言う。
「あなたのスキルは……ハイゾーンを書き換えたり……
宇宙論を抹消したり……
ソースを、上書きできるんです……
ソースですよ!?
階層そのものを作った存在ですよ!?」
リラが小さく呟く。
「それを……光魔法みたいに扱わないで……」
ルナが私の肩に手を置く。
「主よ……皆の言う通りです。
あなたは第一女神の本質を有し、既知の原初を超えました。
その力は……本来、誰も持つべきではないのです……。
お願いです。
この多元世界のために……節度を……」
ローグがうなずく。
「正直、俺も怖いんだよ。君の力。」
フレイがため息をつく。
「《虚数虚無》ひとつで、物語構造が歪むのよ。
さっきのくしゃみで創造が三つ法則を書き換えたし。」
創造はお茶をすすりながら言う。
「ええ、本当にめんどくさかった。」
永遠はくすくす笑う。
「左側の無限翼がちょっと潰れちゃったし〜」
全員
「何やってんだあああああ!!」
アウレリアが指揮官のように立ち上がる。
「よって、我々は──」
突然、照明が落ちる。
スポットライトが当たる。
ロナンが黒板を掲げた。
【リリア・フォスター安全管理プロトコル】
第一条:多元世界が滅ぶ時以外、原初級スキル禁止
第二条:宇宙論・法則・無限構造の複製禁止
第三条:《虚数虚無》は17宇宙以内で使用禁止
第四条:《無限複製》は創造か永遠の監督下で行うこと
第五条:カオス・リリアは24時間監視対象
第六条:リリアは何かする前に“宣言”し、周囲に避難時間を与えること
第七条:新スキルのテストは、全域避難計画が整ってから
カオス・リリアが手を挙げる。
「却下。私は私のしたいことをする。」
全員
「するなああああああ!!」
私は両手をテーブルについた。
「……わかった。
みんなの言いたいことはわかる。
私の力は危険で……
確かに強すぎて……でも──」
みんなが緊張して身を乗り出す。
私はため息をつく。
「……それでも不公平すぎない!?
見たでしょ! “通常スキル”でも全能宇宙級なんだよ!?
本気のスキルなんて……使わせてくれてもよくない!?」
アウレリアが優しく抱きしめる。
「禁止にしたいわけじゃないの。
ただ……あなたに生きてほしいの。
多元世界にも無事でいてほしい。
私たちも……“存在”も……ね?」
ルナが額を合わせる。
「愛しています、主よ。
だから……あなたがまたつまずいて創造を壊す前に……止めます。」
「一回だけなんだけど!?!?」
創造が咳払い。
「その一回で二十七層世界が崩壊したのよ。」
カオス・リリアが笑う。
「最高だったけどね。」
私は腕を組む。
「……わかったよ。
じゃあ、通常スキルだけ使う。」
その瞬間、全員が崩れ落ちた。
カエルは糸の切れた人形のように倒れ、
セレネは泣き、
アウレリアは震えながら微笑み、
フレイ、ローグ、ルナ、セラフィナ、創造、永遠が一斉に息を吐く。
──カオス・リリアだけは違った。
彼女はニッと笑った。
「じゃあ私は逆をするね。」
全員
「やめろおおおおおおお!!!




