第107話 私のスキルがとてつもなく優れている理由
カラハウスは静かにゴゴゴと揺れながら平原を走っていた。
穏やかな朝の風が窓を撫でる。
……穏やか。
あまりにも穏やか。
つまり──「十分以上の平和=そろそろ事件」の合図だった。
今日の事件?
それは私。
正確には、
私の背後で浮かんでいる巨大ホログラムのスキル一覧である。
私の混沌バージョン──カオス・リリア──がマナクッキーを噛みながら、棒でパーティメンバーをつついて歩く。
「ねえアウレリア、つんつん〜」
「や、やめなさい! どうしてここにいるのよ!?」
「この宇宙、気に入ったんだよ。雰囲気が最高。
それに私は“無限多元宇宙に存在するどのリリアよりも強い”。
だからここに住む。」
アウレリアが固まる。
「……は!? ドッペルゲンガーって、役目が終わったら帰るんじゃないの!?」
私は手を挙げた。
「いや、その……旧スキル《パーフェクト・ダブル》はもうないの。
進化版の《超越なる分体》は、“完全に独立した私”を作る。
つまり、もうコピーじゃない。
恒久的なグレムリン増殖バージョンなんだよね。」
カオス・リリアがクッキーを掲げる。
「グレムリン女神ばんざーい!」
創造はお茶を啜りながら言う。
「実は昔、別の分岐世界で彼女の“知能が高いバージョン”と戦ったことがある。
私が力の5%を使わなければ、少し手こずっただろう。」
カラハウス全員、青ざめる。
リラが震えながら囁く。
「しょ……5%……? そ、それ反則じゃ……?」
カエルは壁をずるずると滑り落ちた。
「無理。ジュネーブ条約に訴えよう。」
銀河レベルの魔力を持つ不死の吸血姫セラフィナですら、
“クトゥルフがヨガを始めたのを見た人”みたいな顔になっていた。
「……で、リリア。
殺意マシマシの自分バージョンまでできた今……
あなた、スキルいくつ持ってるの?」
私は頬をかく。
「えーっと……ニャ?
今の私のスキル数、出してくれる?
私が説明するのもう無理。」
ニャが光の粒となって現れる。
「了解! フルスキルインデックスを表示します!」
FWOOM!!
巨大なホログラムが展開され──
全員、息を止めた。
全員。
フェンリルも。
エリーゼも。
家具でさえも。
平然としているのは創造と永遠だけ。
ローグとフレイは顔を見合わせていた。
「まあ、そうだろうな」
「予想通りね」
アウレリアの瞳孔は砂粒サイズ。
セレネの祈祷書は発火。
カエルは精神的悲鳴を上げ、
ダリウスは「メアリーのもとに帰りたい…」と呟いていた。
スクロールされるスキル欄。
延々と続く禁忌の名。
“見てはならない存在”の説明文。
【無限複製】
あらゆるもの──能力から“存在原理”までコピーし、
原典の概念限界を超えて完全化する。
普通コピー不可能なもの、存在しないもの、
“本来ありえないもの”すら対象。
【真なる元素王国】
既知・未知すべての元素の本質に対する完全支配。
形而上の構造を構成する要素そのものを操作可能。
【創世炉体】
身体は常に創造の境界に存在。
無限の始源エネルギーを生成。
概念でも非概念でも破壊不能。
【宇宙機織り】
現実の織機から“糸”を生成。
宇宙、領域、運命、肉体、存在を書き換える布を織る。
【特異点創造】
好きな性質の特異点を生成。
時間線の重力法則を書き換えたり、
神々を情報塵に崩壊させる。
【超越なる分体】
無限多元宇宙すべての“リリア”より強い分体を生成。
カオス・リリアがポーズを決める。
「はい、それ私。フィクションの頂点。」
【概念流マナ】
毎ナノ秒ごとに“起源を書き換える”無限マナ。
【無限知覚】
知覚不能なもの、知覚拒否するものすら知覚する。
【概念魔法創造】
存在法則、物語構造、ジャンルコードすら書き換える魔法を生成。
【全視未来視】
可能、不可能、反可能、無定義領域すべてを視認。
【無限武威】
理論上の上限が存在しない力。
【完全習得】
あらゆる技術・領域を即時絶対習得。
セレネ、失神。
ローグは拍手。
「いいじゃん。テーマ性ある。」
フレイうなずく。
「優雅ですらあるわね。」
アウレリアは震えた。
「こっ……これはスキルじゃない……作者権限!!」
ニャが瞬き。
「ここ、まだ第一章です」
全員
「ぎゃあああああああ!!」
死霊系スキル
──死神が辞表を出すレベル。
神性スキル
──第一神のみが持つ力。
時間系スキル
──因果支配、時空女神など。
深淵系スキル
──虚数宇宙、真虚無。
原初進化スキル
──混沌生成、理破壊。
そして最大の問題児──
沈黙。
圧死する沈黙。
ダリウスが膝から崩れた。
「……メアリー……祈って……俺、核兵器と旅してる……」
カエルは頭を抱えた。
「これもうスキルリストじゃない。戦争犯罪。」
セレネは呟く。
「神々ですら……もう語彙がない……」
ナリは三十二回人生を見返した顔をしていた。
アンナは無邪気に拍手。
フェンリルはささやく。
「……予言、こんなの聞いてない……」
アウレリアがそろりと近づいてくる。
「リリア……? 愛しい女神……?」
「なに?」
「あなた……クシャミで宇宙消したり……しない……よね?」
カオス・リリアが代わりに答える。
「するよ!! 普通にありえるよ!!!」
全員絶叫。
創造は腕を組んで冷静。
「これは自然です。
“元・人間”が原初となれば、能力は概念テーマに収束します。
リリアのテーマは“無限の自由”。
だから階層を突破したのです。」
永遠がうなずく。
「予想通り。納得。だけど恐怖。」
フレイため息。
「高次領域が崩れなかっただけ立派よ。」
ローグは笑った。
「あとで手合わせしよ。遊びで。」
アウレリアが私の袖を掴む。
「するなああああ!!!」
私は肩をすくめる。
「まあ……これで私がどれだけ普通じゃないか、わかったでしょ?」
全員
「スキル見る前から知ってたわ!!!!!」
カオス・リリアが私に抱きつく。
「ほらほら! これぞフィクションの極み! 混沌を抱きしめよ!」
悲鳴がさらに大きくなる。
創造が穏やかに微笑んだ。
「さて。皆のパニックも終わったことですし──
第三試練へ向かいましょうか?」
永遠がうなずく。
「山は近い。深淵王もまた。」
空気が張り詰める。
私は一歩前に進んだ。
「行こう。
何が来ても──
一緒に立ち向かう。」
カオスな私が前方を指差す。
「星々の山へ!!」
悲鳴、歓声、愚痴、祈り。
いろいろ混ざった声を背に──
私たちは進む。
一緒に。
沈黙。
魂だけ静かに抜け落ちたような、そんな沈黙。
そして――
「よし、ニャ! 続きもちゃんと出して! みんな知る権利あるし!」
全員、即座に叫んだ。
「知りたくなああああああい!!」
もう遅い。
ニャが小さなホログラムとして浮かび上がり、しっぽを揺らしながら言った。
「ご要望通り、リストの続きを表示します」
背後ではカオス・リリアが悪魔みたいに笑い、ポップコーンを待つ観客のようにワクワクしている。
アウレリアが私の肩を掴んで揺らした。
「り、リリア! お願い止めて!! 前のリストだけで死ぬところだったのよ!!」
「無理。ニャは私の魂コアと同じ権限持ってるから。」
全員:
「やめてえええええええ!!」
ニャがウィンク。
「それでは《死霊権能スキル》から再開します!」
【死霊系権能スキル】
【オールスター・デス】
「使用者は全次元の“あらゆる死”を統治する。
肉体死、魂死、物語死、象徴死、形而上死、
可能性の死、時間線の死、
そして“本来死なないものの死”すら含まれる。
死そのものも使用者に従う。」
創造と永遠以外、その場に崩れ落ちた。
ロナンは吐き、
セラフィナは“宇宙の熱的死を見た人”の顔になっていた。
【トータル・デスゴッド】
「使用者は死の体系の絶対頂点となる。
存在していないもの、
存在の外にあるものすら、
どんな枠組みからでも消去できる。」
カエルが震える声でつぶやく。
「セ、セレネ……ぼくら、歩くデリートボタンと旅してるんだけど……」
セレネは祈りの速度を二倍にした。
【真なる不死王】
「すべてのアンデッド、疑似アンデッド、反生命、反死、
重層魂体、概念レヴナントを無限支配する。
アンデッドは本能で跪く。」
アンナはナリの腕に倒れ込んだ。
【カースクリエイター】
「どんな対象にも働く呪いを作る。
概念、物語、運命、記憶、
“論理を持たない存在”にすら作用。」
ダリウス
「い、違法だろそれ……」
【ソウルゴッド】
「最下層の魂から至高神の魂まで、
全魂構造を操作可能。
再構築、上書き、融合進化、消滅ができる。」
フェンリル:精神崩壊中。
【死神の意思】
「パッシブ法則。
“リリアが死ぬべきと決めたものは”必ず死ぬ。」
アウレリア:寿命10年減少。
【神性権能スキル】
ニャは容赦なく続ける。
【真なる神性】
「どの宇宙論にも属さない純粋全在的神性。
下位神性をすべて上書きする。」
【天界律】
「神性と天界法則を好きに書き換える。」
【真なる絶対声】
「奇跡、運命、因果、神託すら上書きする声。
口にしたことが“真実になる”。」
フレイでさえ肩を震わせた。
「……創造、これ事実上の神爆弾よ。」
創造
「正しい。」
【神々の王】
「説明不要。
自分より下位のすべての神々を束縛する。」
ローグ
「つまり、俺たちより上ってこと?」
創造
「彼女より上なのは、私と永遠、そして第一女神だけ。」
全員:さらに絶望。
【リアリティの相】
「一時的に“現実法則そのもの”を体現する。」
セレネ:二度目の昏倒。
【時間・存在系スキル】
ニャの目がキラキラ。
「次は時空セクションです!」
全員
「やめてニャああああ!!」
もう遅い。
【時空の女神】
「すべての時間、すべての時間線、並行現実、
空間の全層、超空間、虚空間、虚数空間、
反空間まで完全支配。」
永遠でさえ瞬きした。
「……外側回廊に届きかけているわね。」
カオス・リリア
「イエエエエエエス!!」
【因果支配】
「因果律の最高権限。
原因・結果を消去、改変、再配置、上書きできる。
無限現実に跨って。」
アウレリア
「じ、じゃあ彼女が“起きる”って言ったら……起きるの?」
ニャ
「起きます!」
【真なる巻き戻し&改変】
「なんでも戻す。
なんでも作る。
なんでも置き換える。
なんでも書き換える。」
カエル
「なんで存在するんだよおおお!!」
【深淵スキル】
ローグが覚悟を決める。
「よし来い、ニャ。」
ニャにっこり。
【深淵の王妃】
「深淵法則、腐蝕層、虚無種、反存在、
“底の真理”すべてへの絶対優位。」
ローグ
「ホーーーリーシッ……!?」
戦闘狂の彼ですら後退。
【魂喰らい】
「神々、時間線、システム、物語、
概念すら喰らう。
吸収したものは無限エネルギー化。」
セラフィナ
「無理。絶対戦わない。」
【虚数宇宙】
「想像の中に宇宙を作る。
しかしその宇宙は“現実”。
監視不可。」
【真虚無】
「存在以前、非存在以前の原初虚無の支配。
原初でさえ抗えない。」
ルナが凍る。
「ちょ、ちょっと待って……ってことは……」
創造
「ええ。原初を殺せます。」
全員の魂が抜けた。
【原初進化スキル】
最後の章。
禁忌。
ニャがドラマチックに照明を落とす。
【真なる転生】
「存在階層を超えて転生できる。
記憶も力もそのまま。」
【真陰陽】
「二元を調和/破壊する。
矛盾法則の融合も可能。」
【宇宙の意志】
「下位宇宙の意思を自動上書き。」
【完全円環】
「完全無限の再帰構造。
消去不能の安定性。」
【混沌生成】
「矛盾と不可状態を任意発生。」
ローグ
「キターーー!!混沌スキル!!」
【理破壊】
「論理を無効化。
枠組みを破壊。
不可能を通常化。」
フェンリル:泣いた。
【不可避なる超越】
「常時・不可停止の進化。
限界に触れた瞬間、自動的に突破する。
永遠に。」
創造
「これが最危険。
最終段階は私でも予測不可能。」
永遠
「同意。」
【虚数虚無】
「本来存在しない力。
“虚無が存在しない時に存在する虚無”。
“矛盾以前の矛盾”。
外側の断片に等しい。」
部屋が静まり返る。
呼吸も。
鼓動も。
思考さえも止まった。
原初たちすら凍りつく。
ルナが後ずさる。
「主……これは……原初の上……
高次領域のさらに……
あなた……あなたは……」
創造がルナの頭に手を置く。
その笑みは優しく、しかし重かった。
「リリアは“普通の原初”ではありません。
彼女は第一女神の器。
論理も創造も永遠も外側から来た存在に形作られている。
だからこそ――
スキルリストもそれを反映するのです。」
全員、
“二足歩行の黙示録キャンディー”を見るような目で私を見る。
私は瞬き。
「……ごめん?」
全員が一斉に叫ぶ。
「謝るなあああああああこの宇宙災害!!」
カオス・リリアが敬礼。
「このパーティ、二度と平和は来ませーん!」
こうして、
禁断のリストは完成した。
精神ダメージ?
永久。




