第106話 ストロム駆逐艦
第二試練の領域へ足を踏み入れた瞬間――
空気が震えた。
金属を擦るような、冷たく鈍い轟音が大地を走り抜ける。
直後、
ドォォォォンッ!!!
雷鳴を“殴りつけて”作り出したような衝撃が響き渡り、
大地がびくり、と身震いした。
セレーネがマントをぎゅっと握りしめる。
「な、何この存在感は……?」
ルナが一歩前へ出る。
両手を後ろで組んだまま、変わらぬ平静。
「“嵐滅ぼし(ストーム・デストロイヤー)”。
十二の大神獣の一柱。
神々の大半が生まれる以前の時代から存在する存在。
天界と魔界を――一撃で粉砕できます」
全員が固まった。
天界と魔界。
どちらも“階層世界”として独立している領域。
それを一撃で砕けるというのは、
もはや「強い」ではなく――
宇宙の秩序への脅威 だ。
ロナンが小声で呟く。
「……なぁ、ヘラクレスを宇宙ステロイドで10倍強化したら、ああなるって話だよな?」
フレイでさえ目を細め、
ローグは完全に“面白いおもちゃ見つけた”顔をしている。
私はというと――
緊張しすぎて地図を逆さに持っていた。
そして、霧に包まれた石野の中央へ辿り着いたとき――
それは現れた。
黒曜金属で形成された、雷鳴をまとった巨像。
高さ200メートル以上。
山塊ほどの戦鎚を構えた、人型の巨神。
ナリが震えながら言う。
「こ、これは……さすがに“像”ですよね……?」
その瞬間――
バリバリバリバリバリィィィッ!!!
雷が天を裂いた。
巨像の胸部が古代の紋章で光を放つ。
大地が震え、
巨像が――
立ち上がった。
生きた嵐。
その声は、雷震そのもの。
『星の願いを望む者よ――
我を超えよ。
敗れるならば……貴様の存在は消滅する』
全員がそろって一歩後退した。
ロナン:「無理。絶対無理」
カエル:「奴隷商に戻ろう!? あっちの方がまだ安全だった!!」
アウレリア:「誰が戦うの!? リリア!? ルナ!? フレイ!? ローグ!? 誰でもいいから代わって!!」
ダリウス:「お、俺は無理だ……メアリーに二度殺される……」
セレーネ:「天界を砕く鎚なんて、受け止められるはずが……」
全員が互いの顔を見る。
そして――
運命に導かれたように、
じゃん、けん、ぽん。
全員、パー。
全員の視線が、私に集まる。
私は微笑んだ。
そして前に出る。
「私が戦うよ」
アウレリアが即座に腕を掴む。
「リ、リリア! こいつは違う! 力が……桁外れすぎる! FINAL BOSS の領域だよこれは!」
だが創造が、アウレリアの肩にそっと手を置いた。
「彼女を信じなさい。これは“彼女の”試練です」
ローグも笑いを止めた。
嵐滅ぼし自体も、戦士が戦士を認めるように、巨大な頭を傾ける。
私は歩み出る。
風がコートを揺らし、
剣が青光を宿す。
「試練を越えるために巨神と戦うなら……
望むところだよ」
嵐滅ぼしの胸がより強く輝く。
『よかろう、新しき女神よ。
その力――見せてみよ』
巨鎚が振り下ろされる。
大地が爆裂する。
BOOOOOOOOOOOOOOOOM!!!
その衝撃で山が吹き飛び、
雲が霧散する。
皆がルナの結界の後ろで身を伏せる。
アウレリアが絶叫する。
「リリアァァァァァ!?!?」
だが――
粉塵の中。
巨大な鎚の“頭”の上に――
私は立っていた。
無傷で。
フェンリルが口を開けたまま固まる。
「……は、は……槌の上“乗ってる”……!?」
巨神が鎚を振り上げる。
私はその上を走り――
跳ぶ。
槌が流星のように横薙ぎに迫る。
空中で足を鎚の平面につけるように着地し――
蹴り――
宙返りで肩の上へ。
嵐滅ぼしが見上げる。
『速い』
巨腕が上がる。
数千の雷柱が放たれた。
いずれも“雷竜神”を殺すだけの威力。
KRRRRRRRRAAAAAAAAAAAAAASH!!!
世界が白く染まる。
全員が悲鳴をあげる。
アウレリア:「リリアァァァァァァッ!!!」
だが。
暴風雷鳴が消え去ったとき――
中心に立っていた。
笑いながら。
私。
両手いっぱいに雷柱を“ビー玉”のように持って。
「――真元素王域」
手を握る。
BOOM。
すべての雷撃が、私の中に吸い込まれた。
ナリが即死したような顔で倒れた。
セレーネ:「ど、どうやって……!?」
創造が淡々と答える。
「リリアはすでに“上位領域”と等価です。
原初ではなく、“概念層ひとつ”を代表しているのです」
全員の顔色が蒼白になる。
リラが呟く。
「……そんな……次元の存在に……?」
でも彼らは知らない。
私はまだ――本気の10%も使っていない。
首を鳴らす。
「じゃ、ウォームアップはここまで。
ここからは遊ぼうか」
私は“もうひとりの自分”を召喚する。
カオス全開の分身。
彼女がぴょこんと現れ、伸びをしながら叫ぶ。
「やっと! 神級の像ぶっ壊せる~~っ!!」
嵐滅ぼしが目を細める。
『分身で勝てると思うな』
分身はニヤリ。
「分身じゃないよ。
あたしはこいつの“悪ガキ部分”」
飛び上がり――
巨人の顎にパンチ。
ゴッ!!!
巨頭が横に吹っ飛ぶ。
嵐滅ぼし、よろめく。
全員沈黙――
ローグが爆笑。
「ハッハッハ!! 本体じゃなくて“悪ガキバージョン”で殴るとか最高だな!!」
フレイも唸る。
「……すごい……」
巨神が咆哮し、
宇宙級の雷嵐を呼び起こす。
『耐久試練――
“嵐核”――解放』
老神すら消す暴風が迫る。
私は前へ進む。
髪が浮き、
視界が青光に染まる。
「リミットレス・コピー――」
瞳が蒼く光る。
「――“完全嵐”。」
嵐滅ぼしの技を模倣し、
十倍に強化して放つ。
二つの嵐がぶつかった。
世界が震えた。
雷が空を割き、
大地が悲鳴を上げる。
分身は巨人の膝へドロップキック。
衝撃が嵐を割る。
私は巨人の背後へ回り――
青雷を宿した剣を構える。
「じゃあ……そろそろ終わりにしようか」
斬る。
完璧な軌跡の、元素光の斬撃。
嵐滅ぼしは静止し――
ゆっくりと跪いた。
鎚が霧散し、
身体の光が――“敗北ではなく”――敬意として沈んでいく。
『試練合格。
この領域の大神獣すら凌ぐ力……見事』
巨頭が深く垂れ下がる。
仲間たちは、
“リリアがドライヤーで宇宙を吹き飛ばした”かのような顔をしていた。
アウレリアが駆け寄り、肩を掴む。
「リ、リリア! 大丈夫!? 火傷!? 感電!? 蒸発!? 原子崩壊は!?!?」
私は彼女の頭をぽんぽんと撫でた。
「平気。ウォームアップだし」
全員:「ウォームアップぅぅぅぅ!?!?」
嵐滅ぼしの最後の声が響く。
『新しき女神よ……
汝こそ星山へ至る資格あり』
そして背後の巨大な門が、ゆっくりと開く。
第三の試練が――待っていた。




