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新しい女神  作者: ジュルカ
星の山の弧

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第104話 心を抱きしめて

カーラハウスのカーテンの隙間から、朝日が差し込んでいた。


……だが、誰一人起きていない。


創造レベルの、拷問一歩手前の修行を受け、

肉体的にも精神的にも魂的にも、全員が瀕死の疲労状態。

原初たちですら半分寝たままだ。


ただひとり、男が動いた。


ダリウス。


寝癖だらけの髪を掻きむしりながら、ぼそっと呟く。


「……げ。背中いてぇ。ローグの筋肉バケモノめ……」


眠気半分、魂半分抜けたまま、よろよろとトイレへ向かう。


――ジョロロロ……


「はぁぁ……やっと平和。神もいない。修行もない。ドラゴンもいない……」


手を洗い、ため息をつきながら出てきた――


その瞬間、固まった。


……リーン、リーン……。


壁の水晶が光っている。

通信水晶だ。


ダリウスはあくびをしながら手に取り、顔をこすりつつ応答する。


「もしもーし……?」


水晶が一閃する。


聞き慣れた声が響いた。


『ダリウス? ダリウスなの?!』


その瞬間、彼の目が見開く。


「……フィービー!?」


像が鮮明になっていく――

短い濃青髪、明るい瞳、旅装束を着た少女。


フィービー。

例のガラ騒動で知り合った、あの元気すぎる冒険者だ。


『わぁっ! 本当にダリウスだ! 久しぶりー!』


ダリウスは、ここ数日で初めて笑った。


「フィービー! お前、オレのこと忘れたのかと思ってたぞ」


『忘れるわけないでしょー! 長い依頼終わったばかりなんだよ、ほら!』


水晶の向こうには砂漠のオアシス、テント、仲間らしき冒険者たちの姿。


『探索隊に入ったの! 古代迷宮も見つけて――えへへ……』


彼女は頬を染めた。


『……か、彼氏ができました』


ダリウスが固まる。


「……彼氏?」


『優しいし、強いし、料理上手だし、寝る時に足温めてくれるし――』


「ちょい待て!? 情報量!!」


苦笑しつつも、肩を揺らす。


「……でも、よかったな。ホントに。頑張ったじゃねぇか」


フィービーは満面の笑み。


『ダリウスの方は? 噂だけ聞いたよ?

神とか、魔族とか、原初とか、ドラゴン真っ二つにした女の子とか――』


ダリウスは盛大にむせた。


「お、おう……まぁ、その……いろいろあってな……」


『すっごい疲れてる顔してるよ……大丈夫?』


ダリウスはしばし黙り――そして、重く息を吐いた。


「……正直? 分からねぇ。

毎日、修行して戦って……死にかけて……それを何度も繰り返して。

それにパーティの面倒も見なきゃいけないし……

新入りが死なねぇよう気を張って、

ガキどもに飯食わせて、

ロナンがまた台所燃やさねぇよう見張って……」


『台所燃やしたの!?』


「あぁ。二回だ。ついでに厩舎も燃えた。話したくねぇ」


二人は吹き出す。


そしてフィービーが静かに尋ねた。


『ダリウス……家族は?』


笑みが消え――

部屋の空気がすっと冷える。


彼は、自分の手を見つめた。


「……しばらく、連絡してねぇ。

金も送ってねぇ。

嫌いになったとかじゃねぇ。

ただ……」


喉が詰まる。


「怖いんだ」


フィービーが瞬く。


『怖い?』


「ああ。

情けなかったって言われるのが。

もう見捨てられたんじゃねぇかって思うのが。

家を出た時、オレは“誰かを守れる男”になるって決めたんだ。

立派な冒険者になって帰るって。

だけど――」


彼は両手を広げて見せる。


「今のオレは……神や原初と旅して、

時空ごと消す化け物と戦って……

家に帰ってどう説明すりゃいい?

“父さん母さん、今週三十回ぐらい死にかけました!”って?」


乾いた笑いが漏れる。


「責任に……溺れそうなんだ」


フィービーの声は柔らかかった。


『……ダリウス』


水晶の向こうの彼女は、まっすぐに彼を見ていた。


『家族が欲しがってるのは、完璧な英雄じゃないよ。

私が知ってる、あの優しいダリウスだよ。

泣いてる私を助けてくれた人。

お腹空かせた子にご飯分けてあげた人。

ロナンが“ガキ扱いすんな”って怒鳴っても、

傷を手当てしてくれた人』


ダリウスは手でこっそり目をこする。

……埃のせいだ。きっと。


『全部ひとりで背負わなくていい。

仲間に頼って。

力を借りて。

そして……家族に手紙を書いてあげて。

声聞くだけで喜ぶよ』


ダリウスは震える息を吐く。


「……お前、強くなったな」


フィービーがほっぺを膨らませる。


『ちょっと! 最初から大人だったし!?』


「はいはい。俺は実はドラゴンの王だぜ」


『え!?』


「冗談だよ」


『ダリウスこういう冗談やめてってば!!』


二人は笑った。


久しぶりに――胸が軽くなった。


フィービーは優しく微笑む。


『ダリウスはすごいよ。

迷っても、疲れても。

私は信じてる』


胸の締めつけがほどけていく。


「……ありがとな、フィービー。

今の、めちゃくちゃ沁みた」


『じゃあ約束。

今日ちゃんと家族に手紙書くこと!』


「……ああ。書く」


『よしっ。

じゃ、今度神様たち紹介してね。私が泣くか気絶するか試そうよ』


「ははっ……いいぞ」


通信が切れた。


ダリウスは水晶をしばらく見つめ――

ほっと息を吐く。


「……よし。書くか」


踵を返した――


その瞬間、十メートル跳ね上がった。


「ぎゃあああああああああああ!?」


廊下の影から半分寝ぼけた頭で覗いていたのは――


リラ

ロナン

カエル

アウレリア

セレーネ

ナリ

フェンリル

ルナ

セラフィナ

フレイ

ローグ

エリサ

アニー

創造

永遠


――全員。


ロナンが死んだ目で言う。


「ブラザー……人生で一番甘酸っぱい会話だったぜ」


リラが涙目で拍手する。


「ダリウス……ステキだったよ……!」


セレーネは号泣。


「なんて……健気なの……!」


アウレリアが鼻をすすりながら言う。


「辛い時は言え。私たちが隣にいる」


ルナは厳かに頷く。


「ミストレスを守る者……その仲間も我々が守る」


創造は紅茶を啜りながら、


「ようやく、この集団にまともな情緒が生まれましたね」


ローグはニヤつく。


「良い話だったぞ、坊主」


ダリウスは両手で顔を覆う。


「……お前ら……いつからそこに居た……?」


「“怖いんだ”のとこから」

全員が答える。


ダリウスは絶叫し――


そして。


少しだけ笑った。


久しぶりに、

自分がひとりじゃないと思えたからだ。

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