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新しい女神  作者: ジュルカ
星の山の弧

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第103話 その アビスキングの記憶

あらゆる現実の層のさらに奥底。

人界よりも深く、魔界よりも深く、概念多元宇宙の層すら超えたその先に――

本来“存在してはならない”場所があった。


虚無そのものの死骸から築かれた王国。


滅びた宇宙の骨から打ち鍛えられた王座。


闇ですら踏み入ることを恐れる領域。


深淵王国アビサル・キングダム


ここでは、空は黒と赤の渦巻く傷口のように裂け、

腐敗した霧が溶岩の悪夢のように滴り落ちていた。


大地は生きて脈打ち、

骨の山脈、血を流す海、

虚無肉の触手に縛られた浮遊島がゆっくりと呻いている。


そしてこの冒涜的な王国の中心部――


“そいつ”は座していた。


深淵王アビス・キング


その身体――いや、“身体”と呼べるならば――

崩壊する星々で形作られた巨人の影。


胸には光を永遠に呑み込む大穴が空き、

後頭部からは死した多元宇宙の根のように

捻じれた虚無の角が伸びている。


彼が息をするだけで、周囲の下級深淵種は塵と化した。


彼は古代そのものだった。


破壊よりも古い。


創造と戦い――敗れた存在。


だが今――


その王が、王座から立ち上がる。


世界が震える。


その声は、音を消し去る囁き。


「……星山マウンテン・オブ・スターズ


言葉だけで空間がねじれた。


消え去った時間軸の皮で織られた黒い外套が揺れ、

彼の歩みと共に王座の間は亀裂を生じ、

深淵王国全層へ震動が走る。


部屋の中央には“傷”が浮かび、

その内部に星山の幻像が揺らめいていた。


虚像であるはずなのに、

天上の光が深淵へ溢れ出す。


その光は、王の存在を焼いた。


だが――耐える。


腕を伸ばす。

腐蝕した星屑のような爪が光を掻き毟る。


ついに……

数十億年の果てに……

第一戦争の後……

原初たちに封じられ……

存在の半分を失いながらも……


彼は“場所”を見つけた。


飢えと憎悪の混じった声で呟く。


「――ついに……永劫の果てに……

我から逃れた願い。

今こそ……我が物となる」


彼は巨大な黒曜の門へと向かう――


だが、その背後で影が揺れた。


「……父上」


絹と嘆きのような声。


深淵王の足が止まる。


ゆっくりと振り返ると、

そこには跪く女がいた。


月光のように白い肌。

虚無のように黒い髪。

優雅に反り返る二本の深淵角。


暗紫の瞳は哀しみを宿し、

黒いヴェールに半ば隠れている。


深淵王女ニリス。


王に唯一膝を折らない存在。


「……ニリス」

王は低く唸る。

「立て」


それでも彼女は跪いたまま。


「父上のお力が動いたのを感じました。

王国を出るおつもりなのですね」


その声はあまりにも柔らかく、

この王国には似つかわしくない。


「……おやめください」


影に満ちた王の顔が歪む。


「我に命ずるか」


「忠告いたします」


ヴェールが揺れ、

その下で震える瞳が露わになる。


「今の御身では……

物質界へは出られません。

原初の封印はまだ完全には解けていない。

外へ出れば力は大きく損なわれ……

敵に気づかれます」


両手を生きた床に押しつけながら言う。


「……山には辿り着けません」


王は笑った。


“現実”がひび割れた。


「小娘。

我はお前の百万倍の年月を待った。

願いは……我のものだ」


「父上……違うのです。

他にも向かう者がいます」


「知るか」

王の声は深く響く。


「……彼女は守られています」


王が止まる。


影が震え、室内がより暗くなる。


動きが遅すぎるほどゆっくりと

王は娘の方へ顔を向けた。


「……誰に、“守られている”?」


ニリスは息を飲む。


「新たなる原初……

ルナ、永遠、フレイ、ローグ……

そして――」


言うだけで危険な名。


「……創造です」


王座の間が爆ぜた。


虚無肉の壁が裂け、

現実がノイズと化し、

永劫の闇が怯えて震えた。


王は微動だにしない。


ただ、止まった。


沈黙が世界を呑み込む。


――次の瞬間。


深淵そのものが悲鳴を上げた。


国全土が歪み、

叫び、

腐敗し、

数えきれない深淵獣が消滅し、

空が真っ二つに割れた。


なぜなら――


深淵王が“思い出した”から。


創造。


ただ一度も勝てなかった相手。


第一戦争以前から自分より上に立つ存在。


自身の本体を引き裂き、

深淵へと封じた女神。


そして宣言した者。


――「次に目覚めれば、《源》ごと消し飛ばす」と。


王の爪が軋む。


暗黒が液体反物質のように流れ落ちる。


「……創造が……また邪魔をするか」

怒りを押し殺した声。


「いや……守っている」


ニリスは後ずさる。

王のオーラが爆発する。


「父上――!」


「“複写の女神”……

創造の新しい玩具か……」


声が、時を腐らせるほどに低く響く。


「……そして新たな兵器か」


ニリスは首を振る。


「違います、父上。

彼女は……進化しています。

ルナすら超える可能性を持った存在……

深淵ですら恐れる力を」


王の双眸――崩壊する二つの銀河――が細められる。


「……創造は“代わり”を作るつもりか」


「代わりではありません」

ニリスは囁く。


「後継者です」


闇が止まる。


王のオーラが真空のように凍りつく。


「後継……?」


ニリスは目を伏せる。


「初代女神。自由の神。

父上の本体を滅ぼした存在。

預言では……

彼女は新たな器を通じて再臨すると」


そして告げる。


「その“器”こそ……

父上が殺そうとしている少女です」


耳をつんざく沈黙。


次いで――


深淵王の笑いが国を揺らした。


「ハァァァハッハッハッハ――!!」


笑いは咆哮へ変わり、

憎悪が空を裂く。


「戻るというのか……

あの忌まわしき娘……

我を封じた女神の意志を……

小娘が継ぐと?」


王のオーラが跳ね上がる。


虚無の鎖が背中から伸び、

島々が崩壊する。


ニリスは震えながらも言葉を絞り出す。


「父上……

創造にも、初代女神の転生体にも……

勝てません。

最盛期ですら――敗れたのです」


王は笑いを止めた。


爪がゆっくりと床を引き裂き、

歪んだ時間の煙を上げる。


「……敗れたのは、奴が反則を使ったからだ」


「父上――」


「“外側”の力を使った。

名のない力。

誰も扱うべきでない力を」


怒気が世界を侵す。


「そして今……

その力を別の者に与えようとしている」


王は黒曜の門へ向き直った。


「弱まろうが……

死のうが……」


声は氷より冷たくなる。


「少女を星山へなど行かせぬ」


ニリスの表情が恐怖と絶望に染まる。


「父上……!」


王は歩み出る。


深淵王国全土が揺れる。


「残った存在を賭ける価値はある」


腕を掲げると、

黒炎が爆ぜ、

腐蝕した恒星で作られた巨大な剣が顕現した。


遠方の深淵獣が数千体、

剣の存在圧だけで死滅する。


「創造がまた干渉するか」


影が広がり、王座の間を飲み込む。


「ならば今度こそ――

奴の“玩具”ごと消し去ってくれよう」

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