第100話 トレーニング開始
太陽が黄金の刃みたいに空を切り裂き、草原に昇る。
今日は、ただ星山へ向かう旅路の一日じゃない。
“全ての終わり”を止めるための訓練が始まる日だ。
私も。
原初たちも。
不死者たちも。
皆まとめてだ。
《凡人の訓練──原初指導編》
最初に進み出たのは、ダリウスとロナンだった。
拳を握り、心を整え……
待っていたのは、混沌の原初・ローグ。
まるでパンクライブからそのまま出てきたようなジャケット。
狂気をコーヒー代わりに飲んでそうな笑み。
「よぉ坊主ども。
強くなりたいんだろ?
じゃあ──死ぬ覚悟しろや」
「ちょっ──」
「言い方!?」
遅かった。
ローグが地面に手をつけて――
BOOOOM!!!
草原全体が溶け、混沌エネルギーの異界アリーナに変貌する。
重力がひっくり返り、
山が出たり消えたり、
現実の裂け目が獣みたいに唸りながら周囲を巡る。
ローグはゲラゲラ笑った。
「十二時間生き残ったら半神にしてやるよ。
死んだら?
お前らが弱かったってことだ」
ダリウスとロナンの悲鳴を背に、訓練開始。
……生きて帰れよ。マジで。
フレイの領域──魔法の本質
次は、カエル、セレーネ、リラの三人。
彼らを待つのは生命と死の原初・フレイ。
銀河を髪の毛の先でくるくる巻きながら、上空に浮かんでいた。
「魔法は力ではありません。
意志。
魂。
そして“あなたが認めたくない自分”そのもの。
限界を壊しなさい……壊せないのなら、あなたが壊れなさい。
私は凡人を甘やかしません」
カエルはゴクリと喉を鳴らし、
セレーネは呼吸を整え、
リラはしっぽを膨らませる。
フレイが片手を振る。
空が真っ二つに割れ、
生命が無限に咲き誇る“陽”の海と、
死が万物を喰らう“陰”の海が渦巻く。
三人の修行が始まった。
アウレリア vs ルナ──神すら超える剣
アウレリアは、空間と時間の原初・ルナと対峙していた。
半神剣聖 vs 原初。
勝負にすらならない相手だ。
ルナの声は冷たく鋭い。
「もしエリサが真なる神へ至るのなら……
あなたはその先へ進まねばならない。
“昇神”──
神性の限界を超えた存在へ」
アウレリアは息を呑む。
だが迷わず剣を構えた。
「いいでしょう。
限界なんて壊してみせる。
神ですら、私を恐れるほどに」
ルナの時空オーラが発動する。
空間が歪み、
時間がひび割れ、
現実が幾何学の悪夢に折り畳まれる。
そして地獄の剣稽古が始まった。
永遠の訓練──無限の未来
一方、永遠はアニーとナリを連れていた。
ナリは震え、
アニーはぽかんとしている。
永遠は天使みたいに可愛い笑顔を浮かべた。
その笑顔が一番危険だ。
「それじゃあ〜……
二人とも“無限の未来”を同時に体験してね♡」
「は!?!?」
黄金の渦に飲み込まれる二人。
千の自分。
万の人生。
億の未来。
全部いっぺんに流れ込む。
アニーの竜気は新星のように爆裂し、
ナリの盗賊本能は神域にまで高まった。
永遠はぱちぱち拍手。
「わぁい! 死ななかった! えらいえらい!」
……たぶん大丈夫だろ。たぶん。
フェンリル vs 無限狼
フェンリルの訓練はシンプルだった。
ローグとルナが言ったのは、たった一文。
「狼から生き延びろ」
フェンリル「狼って何の──」
GRRRRRRRRRRRRRRRR
数万頭の氷狼がどこからともなく出現。
フェンリル「無理無理無理無理!!」
セラフィナ──血の聖女、覚醒へ
セラフィナは木陰で静かに目を閉じていた。
魔力が膨らむ。
かつてザクに捕らわれた過去。
二度と同じ目には遭わない。
血が渦巻き、
大地が割れるほどの殺気を吐き出す。
「誰にも二度と縛らせない……
神にも、虚無にも、運命にも」
創造すら彼女を一瞥して呟く。
「面白い……この吸血鬼は、独自の超越に至るかもしれませんね」
私の訓練──創造の小宇宙
そして──私。
創造が手を上げた。
優しい波動が広がり――
世界が“消えた”。
転移でも、歪曲でもない。
消滅。
気づけば私は“無”にいた。
空もない。
地もない。
音も色も時間も空間もない。
存在の量子すら存在しない場所。
創造だけが立てる領域。
そこに、私。
創造は銀河の髪を靡かせながら浮かぶ。
「ようこそ、リリア・フォスター。
ここは私の訓練領域。
原初ですら、私が許さねば立てない場所です」
私はゴクリと喉を鳴らす。
怖くない。
怖くないぞ。
……うん、やっぱ怖い。
でも拳を握った。
「創造。
準備はできてる。
やろう」
創造が手を伸ばした。
その瞬間――
現実が砕け散った。
壊れたんじゃない。
割れたんでもない。
“砕けた”。
宇宙鏡が永遠に爆ぜるみたいに。
法則、概念、宿命、次元、時間──
存在の破片が渦を巻く。
創造が言う。
「第一課題。
“自分という概念”を制御しなさい。
原初の本質は物質でも精神でも霊魂でもない。
概念そのもの。
“自分の存在アイデア”こそが真の形。
それを掌握しない限り──
深淵の王に書き換えられます」
彼女が指を弾いた。
概念の塊が星になり、
竜になり、
宇宙になり、
“私”になり、
また別の“私”になり、
さらに百の“リリア”が生まれる。
無数の“私”が周囲に立つ。
創造は微笑む。
「さぁ、第一課題。
本物の“あなた”はどれですか?」
背筋が凍る。
ニャが脳内で警告を鳴らした。
【警告:概念過負荷レベル7】
【ユーザーの存在定義が揺らいでいます】
【即時の感情アンカー推奨】
「わ、私は……私だ。ただそれだけ──」
創造が首を振る。
「それでは足りません。
あなたはもう原初。
“自分”を定義できなければ……
深淵の王が代わりに定義しますよ」
心が震える。
でも、拳を握りしめ──
オーラが燃え上がる。
「私は、リリア・フォスター!!!
自由の女神!!!
“無限複写”の原初!!!
家族を守る者!!!
虚無だろうと誰だろうと──
私を決めつけさせるかぁぁぁ!!」
周囲の“私”が全て溶けた。
概念が私の宣言に従う。
創造が嬉しそうに微笑む。
「よろしい。
では第二課題。
──私と戦いなさい」
私は固まった。
「……え?」
創造が手を上げる。
銀河が渦巻き、
小宇宙が震え、
彼女の瞳が超新星より眩く光る。
「戦いなさい、リリア。
“女神”という概念すら超えるまで」
胃が落ちる音が聞こえた。
「ちょ、ちょっと待っ──」
「始めましょう」
背後で星が爆ぜ──
創造が消えた。
私は叫んだ。
そして、本格的な地獄の訓練が始まった。




