減量したいボクサーにホットケーキを
とある閉店後のカフェで、一組の兄妹が顔を合わせていた。
「お兄ちゃん、チャンピオン防衛おめでとう!」
「フフフ、余裕だよ。天才だからな」
本田|悟の二五才のプロボクサー、デビューから全試合KO勝ち。最年少で世界チャンピオンとなった天才だ。
そんな悟の悩みの種は、――妹だ。
「じゃあ行くよ。今回の新作ホットケーキ」
「おう、……お手柔らかに」
二〇才の妹、天音はお菓子職人、両親が経営するカフェで看板メニューのホットケーキ作りを任されている。
悟は月に一度、新メニューの試食に付き合っている。
「一皿目は黒蜜苺大福ホットケーキ!」
「……いただきます」
ふっくら生地のホットケーキの間に、薄いお餅が挟まっている。フカフカとモチモチ、相反する触感が共存してる。
苺の甘酸っぱさとケンカしないよう、独自にブレンドした黒蜜ソースのほろ苦さに加え、ホイップクリームのマイルドな口当たり。それらが見事に調和している
「さあ、まだまだあるからね。新作ホットケーキ」
悟が一皿たいらげると、天音は満面の笑みで次のホットケーキをキッチンから持ってきた。
「今回もまた、ずいぶんたくさん作ったんだな」
「いやぁ~、最近なんだか創作意欲が止まらないもんだから。あれ? もしかして、もうお腹いっぱい?」
「……いや、いけるけど」
一時間後、合計五皿のホットケーキをたいらげた悟は、罪悪感にさいなまれつつ岐路に立った。
「……はあ、またやってしまった。今夜も寮まで、走って帰りますか……」
体重制限のあるボクサーにとって、太ることは仕事にとって致命的。
ましてや、甘いものは天敵といっても過言ではない。
しかし、かわいい妹が一生懸命に作ったホットケーキを断るわけにはいかない。
試食を引き受けた次の日からは、過剰摂取したカロリーを燃焼するべく、過酷なトレーニングに励む悟なのであった。
一方そのころ、天音は一人店内に残り、ある人に電話をしていた。
「もしもし、トレーナーさんですか? 今回も言われた通りにガッツリ食べさせましたよ! お兄ちゃん強すぎるせいで、すぐサボりますから、こうやって追い込まないと真剣にトレーニングしないんですよねぇ。困ったものですよ」
妹たちの思惑によって、自分がチャンピオンの道へと導かれていることを、悟はまだ気づいていなかった――。
一カ月と少し振りの投稿です
これまであらすじだけを書いて終わりにしていた
短編でしたが、これからはオチも意識して
ちゃんと完結するように心がけよう思います