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白雪姫になるための魔法  作者: sin
長い長いプロローグ
9/11

08

空港に迎えに来てくれていた父と、アリーシャは自宅へと帰った。

騒がしい空港、広い道路、一週間しか離れていなかったのに、懐かしく感じる父の横顔を見て、アリーシャはアメリカに帰ってきたことを実感した。

自宅に着けば弟も母も出迎えてくれて、久しぶりの家族団欒(だんらん)に、アリーシャの心はほっとした。

荷物を置いて一息したのも束の間、早速お土産の開封タイムとなった。

弟は約束していたアニメグッズに飛びつき、アリーシャのぬいぐるみまで手を出しそうになったため喧嘩をした。

母は日本の便利グッズを見ながら、アリーシャに都度これは何に使うのと聞いては驚き、とても楽しそうだった。

父は既に日本のお菓子を手に取り開封して食べていた。

特に油で揚げたおせんべいを気に入った父は、家族が騒いでいる間にこっそりと自分用に確保していたことに、家族の誰も気付かないでいた。

アリーシャが日本で過ごした時の、たくさんの経験を話題に、日本で買ったレトルトのカレーと、パックのご飯で夕食となった。

日本の料理だというのに洋食と呼ばれる部類のそれは、母の作ってくれたおかずともよく合って美味しかった。


その日の夜。

アリーシャは自分の部屋で日本で撮った写真を眺めながら、日本で過ごした短い期間を思い出していた。

日本観光は本当に楽しかったし、写真のほとんどは観光した場所の物だったのだが、順番に写真を表示していたアリーシャの手は、一枚の写真の前で止まっていた。

それは写真に写っている建物の中では、どうしようもなくシンプルな建物で、そしてアリーシャのずっと昔からの憧れの場所でもあった。


高校の正門。

アリーシャは、まだ花開いていない桜の木に、この木の花が開く頃にもう一度戻ると誓った。

あの日、同じ年頃の子たちと、今までずっとやってきた勉強の全てをぶつけるテストを行ってきた。

誰と会話することもなかったし、楽しかったわけでもない。

何なら少し胃が痛いくらいであった。

とても緊張していて、とても苦しい時間だった。

大丈夫大丈夫と、何度も自分に言い聞かせて、何度も何度も問題を見直して、時間いっぱい、息が詰まるような思いをしながら解いたテスト問題。

間違いなくもう二度とやりたくないはずなのに、何故かその時間を思い出すと、愛おしさすら感じてしまう。

アリーシャは表示していた写真を閉じて、深呼吸をして立ち上がった。

時差ボケのせいかまだ眠くない。

だから少しだけ勉強をして眠るつもりだ。

受験はゴールではない。

アリーシャは日本へ行き、あの場所で高校生をやるのだから。


***


非常に眠い朝を迎え、アリーシャは日常へと戻った。

バスに乗り、ハイスクールに通い帰ってくると、つい先日、日本にいたのが夢みたいだったが、家にある自分用に買ったぬいぐるみや、ホームステイ家族がアリーシャの家族へとくれたお土産の可愛らしい湯呑や箸が飾ってあるのを見て、日本に行ってきたのだと実感する。


合格発表までの数日間、アリーシャは生きた心地がしなかった。

カレンダーにバツ印を付ける度、言いようのない不安が胸を渦巻いた。

日本で買った合格祈願のお守りを握りしめて、何度も何度も(すが)るように祈った。


そして、ついにその日がやってきた。

合格発表である。


合否は高校のホームページにアクセスして確認することが出来る。

そして、時差の関係で発表は夜になる。

夜にならなければ更新されないことを、頭ではわかっているのに、アリーシャはその日、気が付いたら高校のホームページにアクセスして、更新がないか、何度も何度も確認していた。

その日の夜は、食事を終えた家族が、神妙な顔をしてリビングに待機していた。

テーブルの上に置かれたノートパソコン。

その前に待機するアリーシャ、時間になったら鳴るようにタイマーをセットしてパソコンの隣に置いてある。

父は室内をふらふらと歩き回り、母はアリーシャの隣で一緒に祈ってくれていた。

弟は興味なさそうにソファで(くつろ)ぎながらゲームをしていたが、たまにちらちらと視線を向けてくるので、リラックスしているふりをしてくれているのがまるわかりだった。

父の歩き回る足音と、時計の針の音が響くだけの静かな空間で、急激に鳴り響いたアラームの音に、アリーシャは心臓が飛び出るくらい驚いて、覚束(おぼつか)ない手でアラームを止めた。


時間である。

アリーシャがアラームを止めている間に、父も弟もアリーシャの後ろに来てパソコンの画面を覗き込んでいた。

開いていたホームページを更新すると、さっきまでなかった合格発表のリンクが表示されており、アリーシャはそのリンクを震える手で開いた。

日本語は読めなくても、数字は勿論読める家族たちは、表示されたページから、アリーシャの受験番号を探した。


あったと大きな声で叫んだのは、なんと弟だった。

誰よりも先にアリーシャの受験番号を見つけて、その場所を指さしている。

アリーシャは、怖くてゆっくりとしか見れなかった番号を、弟の指先に注目して確認した。

一桁ずつ何度も、手元の番号と表示された番号が間違いないかを確認して、何度も何度も確認して、そしてようやく間違いないと確認できると、アリーシャは思わず立ち上がって叫んだ。

泣きながら家族と抱き合って合格を噛み締めていると、アリーシャのスマホに合格おめでとうと、ホームステイ家族からメールが届いた。

アリーシャの受験番号は、ホームステイ家族にも伝えてあった。

今日という日を気にしてくれていた事実に、アリーシャの胸はいっぱいになった。

ひとしきり騒いだ後、ホームステイ家族にお礼のメールと、アリーシャは日本語を教えてくれた美奈(みな)と、未だにお世話になっている掲示板の大人たちにも、合格の報告をした。

美奈(みな)からのメールはすぐに届いたし、非常に喜んでもらえた。

掲示板の方は、反応にしばらく時間がかかったが、後に十歳の頃の夢を叶え、日本の高校に通う子がいるという事実に、お祭り騒ぎになった。


翌日、ハイスクールにも合格の報告をし、アリーシャは本格的に日本留学の準備に入った。

本格的な荷造りをして、お世話になった人たちに挨拶をした。

特にミドルスクールでアリーシャのために数学の問題を作ってくれたトーマス先生には、どうしてもお礼が言いたくて、わざわざ父にお願いをして送ってもらい学校まで挨拶に行った。

彼はアリーシャの夢を馬鹿にせずに聞いてくれた数少ない大人の一人だったし、周囲からは怖くて厳しい先生だという認識ではあったが、アリーシャのためにわざわざテスト問題を作ってくれるくらいには優しい先生だった。

合格の報告をすると、淡々とよかったですね、おめでとうございますと言ってくれたが、彼の眼鏡の奥でその瞳が涙で濡れていた。

アリーシャはそれを見ないふりをして、笑顔でお礼を言ってきた。


そうして、めんどくさい手続きを終えて、ようやく日本へ留学することになったのは、三月の初めの頃だった。

入学は四月になるが、制服の採寸やら、教科書の購入やら、入学説明会やらが控えているため、三月の旅立ちとなった。

アリーシャの旅立ちに、また家族は全員空港まで見送りに来てくれた。

家族の協力があったからこそ、アリーシャは夢を叶えることが出来た。

そしてその家族はこうしてアリーシャを見送りに、空港まで来てくれている。

アリーシャは本当に、自分は恵まれていると改めて実感した。

留学の間の三年間、会えなくなる家族に感謝のハグをして、アリーシャはいっぱいいっぱいの笑顔で、行ってきますを言った。

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