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白雪姫になるための魔法  作者: sin
長い長いプロローグ
8/10

07

翌朝。

目覚ましの五分前に目が覚めたアリーシャの目覚めはかなり良かった。

体内時計は正確に機能しているようだ。

朝の身支度をして、アメリカの家族から来ていた応援メッセージに返事をして、朝食を済ませて、作ってもらったお弁当を持って、バクバクと(うるさ)い心臓を落ち着かせるために深呼吸をして、アリーシャは、何度かした忘れ物チェックの後、彰浩(あきひろ)と一緒に家を出た。

玄関まで見送りに来てくれてたホストファザーとホストマザーの(たけし)恭子(きょうこ)は、アリーシャと同じくらい緊張した顔で、頑張ってと行ってらっしゃいを言ってくれた。


彰浩(あきひろ)の運転で高校までたどり着くと、アリーシャと同じように保護者に車で送られて受験会場に来ている学生がちらほらいた。

校門前で迎えに来る時間を約束して別れると、アリーシャはもう一度深呼吸をして、他の学生と同じように受付をし、受験会場まで足を運んだ。

周囲は皆学生服で、私服でいたのはアリーシャだけだった。

廊下に荷物を置くロッカーがあって、教室に持って行けるのは鉛筆と消しゴムだけで、席は番号で指定があった。

試験開始までは参考書を自席で読むことが出来るようだったので、アリーシャも周囲に(なら)って予習をした。

その後しばらくして試験官が入ってくると、荷物をしまうように指示され、試験の説明の後、いよいよ試験が開始された。

一斉に問題用紙を開く音、鉛筆を走らせる音、時計の針の音、試験官の足音、アリーシャの心臓のバクバクという音。

無音というには騒がしい試験時間をめいっぱい使って問題を解き、見直しをして、理解できる問題を噛み締め、手ごたえを感じ、そして午前中の試験を終えた。


一時間のお昼休憩を挟んで、午後にも試験が待ってる。

作ってもらったお弁当は非常に可愛らしく、そして美味しかった。

食事を終えた後の周囲は、同じデザインの制服を着ている者同士で集まって喋っていたり、各々で予習をしたりと様々だった。

受験で合格をもらったら、ここにいる子たちはアリーシャの同級生となる。

そう考えるとなんだか不思議な気分だったし、話をしてみたい気分にもなったが、声をかけた子が不合格で会えなかったり、考えたくもないがその逆のパターンがあったらと思うと、怖くて誰とも話すことが出来なかった。


午後の試験が始まり、アリーシャは本日何度目かの深呼吸と共に試験に挑んだ。

ずっとずっと不安で仕方なかったし、何度だって悪夢を見たが、いざ目の前にした試験問題は、理解できる問題が多く、アリーシャの努力が報われていくのを感じた。


こうして全試験は三時前には終了した。

全てやり遂げ、彰浩(あきひろ)に迎えを頼んだアリーシャは、校門前でなんだかふわふわした気持ちで迎えを待っていた。

試験の感想をアメリカの家族にメールしている間に、彰浩(あきひろ)が迎えに来てくれ、助手席に座った時、アリーシャは自分が非常に疲れていたことを自覚した。

そのことを彰浩(あきひろ)に言えば、受験で緊張している中で頭を使って問題を解いたから、疲れて糖分が不足しているのだろうと言われ、帰り道の途中で、今日もコンビニに寄って、コンビニスイーツの定番プリンを奢ってもらった。


家に帰ると(たけし)恭子(きょうこ)は仕事のためにいなかった。

アリーシャが訪日した当日は休みを取ってくれていたみたいだが、基本的に二人は土日以外仕事でいない。

彰浩(あきひろ)は大学が春休みの間はバイトや友人と遊ぶ時間以外は家にいるという。

アリーシャが滞在中はアリーシャの観光案内のために予定を開けてくれていた。


アリーシャの滞在日数は、後四日残っていた。

正確には最後の一日は飛行機の中で過ぎるので、三日の滞在となる。

明日は平日なので、アリーシャの予定には彰浩(あきひろ)が付き合ってくれることになっており、大まかに秋葉原でアニメグッズを買いたいと決めていた。

お弁当箱を洗って、リビングのこたつで買ってもらったプリンに舌鼓を打ちながら、明日の詳細プランを話し合い、絶対に手に入れたいグッズリストを作っていると、いつの間にか夕方になっていた。


先に仕事から帰ってきたホストマザーの恭子(きょうこ)に受験が終わったことを労わられ、アリーシャも作ってもらったお弁当に感謝と、お仕事お疲れさまと伝えた。

その後、恭子(きょうこ)が夕飯の準備に取り掛かったので、アリーシャも夕飯の準備を手伝いたい気持ちがあったが、日本食は作ったこともないし、家でも料理なんてほとんどしたことがなく不慣れだったため、テーブルを拭いたり、食器を配ったりしかできなかったが、恭子(きょうこ)はアリーシャの手伝いに喜んでくれた。

そうこうしているうちにホストファザーの(たけし)も帰宅し、夕食となった。

夕食の席では、アリーシャの受験の話や明日の予定の話をして和やかに終わり、その後後片付けを手伝い、お風呂を頂いて、部屋に戻って、そして勉強机に座って、テキストを開いて、そして気づいた。

受験はもう終わったのだと。

もう受験勉強をしなくていいのだと。


アリーシャの部屋のテレビは、動画配信サービスに登録されており、好きなだけドラマやアニメをやらを見てもいいと言われていた。

スマートフォンにもゲームや動画、アプリなどの誘惑がたくさんあった。

それでもアリーシャは、二十分だけ、もうやらなくてもいい受験勉強をやった。

受験は終わった。

後は結果を待つだけだ。

受験した理由は、日本の学校で青春したいという、ちょっと不純な理由だったし、アリーシャはどちらかというと勉強が好きというタイプではなかった。

でも、もし受かったら、日本で高校生をやるわけで、結局勉強は大事だ。

絶対に嫌だけれど、もし、万が一受験に落ちていたとしても、いままでしてきた勉強は絶対に無駄なものではないし、これからも役に立つものだ。

今まで必死にやってきた“勉強をする”という習慣を、この機会に辞めてしまう気にはなれなかった。

だからほんの二十分だけだけれど、集中して勉強をした後、アメリカの家族にメールをして、そして、観たかったアニメの映画を観てから眠りについた。

久しぶりに観たアニメの感想は、圧巻の一言だった。

今まで以上に日本がより近くなったアリーシャにとって、今までとちょっと違った見方が出来たような気がして楽しかった。


翌日。

プラン通りの秋葉原観光で一日を終えた。

時間通りやってくる電車、聳え立つビル群、忙しなく動く人々、綺麗な道路、くらくらするような都会の狭い道を抜け、弟に頼まれていたフィギュアや、自分用のぬいぐるみを買い、ゲームセンターではしゃいで、クリームたっぷりのクレープを(かじ)って帰ってきた。

東京を異世界の都市だと思っていた幼かった自分に教えてあげたい。

東京は本当にあったのだと。


その翌日は家族全員がお休みだったので、日帰りで世界遺産を見に行こうということになっていた。

世界遺産として登録されている日光東照宮は、関東圏内にある世界遺産の一つで、かの江戸幕府を開いた徳川家康の墓所でもある。

四百年以上前に建てられたというその場所の見どころは、本殿だけではなく、美しい参道、大きな木々に囲まれた五重塔、いたるところで見られる細やかな彫刻などなど、どれもこれも観光客で賑わっている最中でも、人を圧倒させる何かを感じさせる、煌びやかで雄大な建築物だった。

四百年前と言ったら、まだアメリカはまだ独立していないし、メイフラワー号がアメリカに到着したとかがそのくらいの頃ではないだろうか。

日本が江戸幕府という武家政権で統一されている頃に、イギリスでは宗教的迫害からアメリカに移住を決意した人々が船を出していたということになる。

そしてそこからもっと長い時間をかけて、アメリカは独立まで漕ぎ着けることになる。

こうして比べてみると、本当に日本の歴史とは長いものだ。

そうして参拝した東照宮でも、たくさんの写真を撮って、先日買ってもらった御朱印帳に御朱印を頂いて帰った。


あっという間に終わってしまった世界遺産観光の翌日は、家族へのお土産を買う一日となった。

スーパーで売っているような、日本では当たり前のお菓子やレトルト食品、百均の便利グッズ、ちょっとしたところに並んでいるガシャポン。

そんなにたくさんの予算はなかったが、それでも十分なお土産を購入することが出来た。


そうして迎えたその次の日が、アリーシャの帰国の日となった。

あっという間の一週間だった。

本当にあっという間に帰国の日となってしまった。

アリーシャが買ったお土産とは別に、ホームステイ先の家族の皆が、アリーシャにお土産を持たせてくれた。

それを持ってアリーシャは、帰国の便にと乗った。

来た時と同じように、目には一杯の涙をためていた。

この一週間、情緒不安定なくらい、たくさん涙を流した。

一週間も会えていない両親に、早く会いたいという気持ちと、日本を離れたくないという気持ちでぐらぐら揺れながら、飛行機の中で、最初に寄った神社で買った合格祈願のお守りを握りしめ、受験合格を祈った。

受験を合格してもう一度、あの場所に帰れるようにと。

長い長い飛行の中で、食事をしたり、睡眠をとったりして、ようやくアリーシャはアメリカへと帰ってきた。

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