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白雪姫になるための魔法  作者: sin
長い長いプロローグ
7/8

06

翌日、朝の七時にパッと目が覚めた。

とても頭が冴えている、爽やかな目覚めだった。

体を起こして、左右を見たアリーシャは、ここがアメリカではないということに気づくのに、少しだけ時間を必要とした。

起きて、身なりを整え、朝食を頂いた後は、アメリカの家族から来ていたメールに返事をして、部屋に閉じこもり勉強をした。


試験は明日に迫っていた。

昼食に呼ばれるまで引きこもって勉強をしていたアリーシャに、午後大学の授業がないからと家に帰ってきた彰浩(あきひろ)が、昼食後に受験会場でもある高校を見に行かないかと誘ってくれた。

根を詰めすぎるのはよくないと、過去の経験から学んでいるつもりだったし、日の光を浴びて体内時計を調整するのも大事ではあるし、何よりも学校に興味があったので、アリーシャはその提案に乗った。


昼食後、彰浩(あきひろ)の出してくれた車に乗って、アリーシャは試験会場である高校へ向かった。

合格したら自分の足で通う通学路だと思うと、なんだか不思議な気分だった。

車で十分程度、高校の近くだという公園の駐車場に車を止めて、そこから徒歩で向かった。

関係者ではないので、高校の駐車場には駐車できないのだという。

明日は車で送り、入口近くで降ろしてくれるそうだ。

歩いて着いた先にあった高校は、本当に普通の高校だった。

周囲の住宅に比べて広い敷地に大きな建物がいくつか建っていて、外にはグラウンドやテニスコートがあって、入口側に回ると大きな校門があって、本当に普通の、アニメで見たことがある学校の入口で、アリーシャは静かに感動していた。

彰浩(あきひろ)の提案を受けてここまで来てよかった。

もし何の覚悟もないまま、明日この光景を目にしていたら、平常心で試験に挑めたか怪しいところだっただろう。

学校の中には教室があるし、試験に挑む学生は制服で来るだろうから、そっちも覚悟しておくといいと彰浩(あきひろ)にアドバイスを受けるまで、アリーシャは全くテストを受ける周囲の環境まで気が回っていなかった。

アリーシャはあのアニメでよく見る、一人ずつの椅子と机の用意されている教室で、アリーシャと同じ年代の日本人の子たちと、高校受験を行うのだ。

今更ながらアリーシャはこの現実に眩暈がするほど緊張し始めた。

明日、いよいよ本当に、アリーシャの人生が決まる分岐点に立つのだ。

緊張で固まっているアリーシャに、彰浩(あきひろ)は校門前にある木々が桜だと教えてくれた。

この花が開く頃に、きっともう一度ここに来れると言ってくれたが、下手をすればあの桜が花開くのを見ることが出来ず、日本を去ることになるという事実が、アリーシャを余計に緊張させた。


緊張させてしまったお詫びにと、彰浩(あきひろ)は帰りにコンビニでお菓子を買ってくれた。

家に帰るとそのお菓子を広げながら、大学生の彰浩(あきひろ)が勉強を見てくれるというので、リビングで一緒にテスト勉強を行った。

時間の配分を意識して、時計を確認すること。

チェックシートはわからなくてもすべて埋めること。

時間が許す限り、見直しを行うこと。

何度も繰り返した受験の心得を胸に、テスト問題を行って、合格点を叩き出した。


所で、ホームステイ先の後藤家のリビングは掘りごたつとなっていた。

床に座る習慣のないアリーシャでも、和モダンのおしゃれな空間の掘りごたつに、座椅子を用意されて座ってみれば、一段低くなっている足元に、普通に椅子に座っているような感覚となり、問題なく受け入れることが出来た。

だが、(しばら)くしてこのこたつはとても危険だと身をもって知った。

足元からだんだんと体を温めてくるそれは、非常に心地よいぬくもりで、体がリラックスし、眠気を誘ってくる。

こたつの外に出ようにも、外は寒く、出るにはその寒さに耐える覚悟がいる。

こたつには魔物がいる。

そういえばそんな話を聞いたことがあると、アリーシャは心の端っこで思い出していた。


その後、夕食の時間まで勉強をし、夕食を頂いた後、風呂に入ってリラックスしたアリーシャは、明日の準備を手早く済ませて、家族にメールを送った後、少しだけ勉強して、早めに就寝することにした。


明日はいよいよ受験本番だ。

夜遅くまで復習したい気持ちはあったが、寝不足は判断力を低下させる、受験最大の敵だと、ホームステイ先の家族に説得され、おとなしくいうことを聞くことにした次第であった。

そうしてベッドに横になってはみたが、そう簡単に眠れなかった。

目を(つむ)りながら、アリーシャは今までの人生を振り返っていた。

十歳で気づいた現実。

時間をかけて説得した両親。

日本語を勉強するために費やした時間。

応援してくれた家族。

掲示板で出会った顔も知らない大人たち。

どんな困難を前にしても、アリーシャはこの夢だけは諦めないでここまで持ってきた。

明日、その努力が試される日だ。

大丈夫、大丈夫。

その言葉を呪文のように心の中で繰り返し、アリーシャは不安を無理やり殺して眠りについた。

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