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二月に入ると、一度裁縫の時間はお休みとなった。
というよりも、部活動が二月の中旬で一度お休みになる。
言わずもがな、期末テストの期間だ。
二月の下旬から三月の頭にかけて行われる期末テストが終わったら、春休みに入って、四月に新入生が入って、そして白雪姫のオーディションが行われる。
そう考えると今からでも緊張してしまうが、まずは期末テストである。
昇降口に未だに貼られている演劇部入部募集のポスターを見て、期末テストを考えていた頭がまた部活の方に持って行かれそうになったが、考え事をして足が止まっていたアリーシャに、急に声をかけてくる人がいて、思考が戻ってきた。
「よかったら応援してください」
そう言って渡された紙を反射的に受け取り、手にしたそれを眺めてみれば、それは生徒会選挙立候補者のチラシだった。
***
「いや、ぜーんぜん知らんわ」
昼休みにいつものメンバーで席を囲んで昼食をとっているときに、アリーシャは生徒会選挙に出ている先輩について尋ねてみたら、凛子から帰ってきた答えがそれだった。
「青木先輩は知ってるよー、かっこいいって噂になってたから」
美緒莉のいう青木先輩は、今日アリーシャがチラシを貰った候補者ではない人のようだ。
「候補者は青木先輩と、三原先輩と浦崎先輩の三人。浦崎先輩が紅一点で、青木先輩は確かに顔がいいと人気が高いね」
「流石詳しいね冴」
冴はちゃんと立候補者について知っていた。
アリーシャは生徒会選挙が行われること自体全く知らなかったので、冴の情報収集能力に感心した。
「冴は候補者の誰がいいとかあるの?」
折角だからその情報収集力で集めた話を聞いてみたくて、アリーシャはそんな話を振ってみた。
「そうだねえ、来年度の部活動に予算を一番くれる人がいいかなあ、もうだいぶ決まっているんだろうけど」
帰ってきたのはそんな返答ではあったが。
「あたしは青木先輩かな。顔がいいんでしょ、生徒会長の話とかで前に出てきたとき目の保養になりそう」
「私も青木先輩に入れようかなー」
凛子と美緒莉の票は顔だけでその青木先輩に入りそうだ。
「まあぶっちゃけ一年の女子の半分くらいは青木先輩に入れると思うよ、顔がいいからね」
「それっていいのそれで」
「まあいいんじゃないかな。ガチの政治選挙ではやめてほしいけどね」
冴は苦笑して続けた。
「その顔のいい青木先輩は結構お調子者で、皆にやってみなよって言われたから立候補しちゃった系男子で、責任感はあまりなく、学校にはよく遅刻しているお寝坊野郎ですね」
「よく知ってるねー」
「ちょっと先輩の話を聞けばすぐよ、割と噂されてるし」
そのちょっと先輩の話を聞くという行動力が凄いのだとアリーシャは思った。
物理的に二年生や三年生のある教室は階が違うため、会いに行こうと思わなければ会うことなどそもそもあまりない。
「で。おそらく一年の女子の三割くらいが、同性だからという理由で票を入れそうな浦崎先輩は、コミュ力高めの真面目系で、男子からも人気があり、それ故真面目じゃない女子には疎まれてる感じの人だね」
今の説明を聞く限りだと、アリーシャの天秤は浦崎先輩の方に傾いている。
「それで最後にアリーシャがチラシを貰ってきた三原先輩は、青木先輩の出馬が決まった時に先生から、進学に有利になるしどうと声を掛けられ、半強制的に出馬が決まった教師一同の本命。本人はやると決まったからには真面目に取り組むタイプだったみたいね、これ配ってたの本人だけじゃなかったし、人望もあるのかも」
「かもってことは、流石に冴も三原先輩のことまでは知らないんだね」
「そうだね、聞こえてくるのはメイン悪口だから、三原先輩はあんまり話題に上がってないし、知らないことの方が多いかなあ」
アリーシャは冴のこの発言で、冴は先輩方に話を聞きに行っているのではなく、先輩方の話声に耳をそばだてているのだと悟った。




