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そんなこんなで一週間、試行錯誤を繰り返し、なんとかアリーシャは七種類の衣装デザインを仕上げることが出来た。
悩んだ分、自信があるものもあれば、最初の方に簡単にやっつけてしまったシンプルなデザインの方に物足りなさを感じたりもしているが、作ることを考えればこのくらいシンプルな方がむしろ良いのだろうと折り合いをつけている。
同じくデザインを担当している凛子も出来上がったという連絡が来ていたので、今日の部活動は凛子とアリーシャ、脚本を担当している真由美と顧問の原先生の四人で、裁断室での打ち合わせとなった。
そうして迎えた放課後、三人で集まって裁断室に向かい、三回のノックと共に真由美がその戸を開けた。
「失礼します」
「ひゃあーストーブありがてー」
「わあ、失礼します」
戸を開けると、中で原先生がストーブを付けて待っていてくれて、室内は以前来た時と違いとても暖かかった。
飛びつくようにストーブへ向かう凛子に続き、アリーシャも暖を取りにストーブへと向かった。
二人がストーブに飛びついている間に、ちゃんと開けた戸を閉めた真由美が最後にストーブのところまでやってきた。
「うあああああああったかぁあい」
「こっちは北側だから、夕方は特に寒いよねー」
三人がストーブの周りに集まっているのを見て笑い、原先生はそこから一番近いテーブルがある席に座った。
「ほら、落ち着いたらこっちに来てデザインを見せなさい」
ストーブの前から動こうとしない三人に苦笑しながら、原先生はテーブルを軽く叩いて行動を促した。
原先生に初めにと言われて出すことになったのが七人の小人のデザインだった。
凛子とアリーシャは、各々鞄から書類の入ったクリアファイルを取り出し、その中から七人の小人のデザインをテーブルの上に出して広げた。
アリーシャの考えた小人のデザインは、シャツとズボンと、尖がった帽子と大きめの靴というシンプルな物。
凛子も似たようなデザインを考えてきたようだったが、帽子の代わりにフード付きのポンチョを着せるような形になっていた。
二つのデザインをまじまじと見ている原先生と真由美を前にして、アリーシャはこれ以上ないくらいに緊張していた。
一週間、自分なりに努力はしたものの、小人のデザインは早めに切り上げてしまったものだし、見れば凛子のデザインの方が良いように見える。
ダメだっただろうかという不安と、どれでももしかしたら褒めてもらえるかもしれないという期待がせめぎ合って、心臓がバクバクと脈打っていた。
「二人ともシンプルだけど、ちゃんと考えてきたってわかるデザインだね。頑張ってきたと思うよ」
原先生の言葉に、いつの間にか俯いていた顔を上げ、凛子の方を見ると、どうやら先程までのアリーシャと同じように緊張していたようで、凛子もアリーシャの方を見て、安心したように笑った。
「脚本担当の佐藤はどう思う」
「私もそう思います。どちらのデザインも世界観にも合わせてくれているので、後は裁縫する側がどこまで作れるかっていう所だと思います」
「そうだね。じゃあ作る側の話をしていこうか」
原先生が身を乗り出して、机に置かれたデザインを、各々デザインした人の方へ向け、指をさしながら説明していく。
「まず靴は無理かな。裁縫でどうこうできるもんじゃないし、段ボールとかくっつけてそれっぽく見せてもいいんだろうけど、教師として、安全面で許可できないな。いつもの上履きか、屋内用の運動靴でここは我慢してね」
その言葉を聞いて、三人は小さく頷いた。
デザインを描いてみてと言われて描いてはみたが、確かに靴を作るのは難しそうだ。
「それで小人の服だけど、全部作ってたら時間も足らないだろうし、衣装を作るのが目的ではないから、ボトムは制服のズボンやスカートを利用するか、それっぽい私服を持ち込んで着てもらうのが一番だと思う」
「ええ、いいんですかそれは」
「いいのいいの、裁縫部じゃなくて演劇部なんだから、多少の手抜きは許してもらわないとね」
制服や私服を使うという発想にアリーシャは驚いて声を出していた。
なんだか勝手に最初から最後まで、自分たちの手で作らなければいけないと、そう思い込んでしまっていた。
「ぶっちゃけ私服オッケーなら、小人はそれぞれそれっぽい私服持ってきてもらう?」
「いや、流石にそれは現代が過ぎる。それぞれ持ってきてもらったら、統一感がなくなると思うし、私は反対」
凛子の提案に真由美は首を振った。
確かにそれっぽい服を持ってきてと言われて持ってきた服が、個人によって個性が出たら統一感はなさそうだ。
そももそい小人っぽい服というものが、どういうものか困りそうではあるが。
「そうだね、だからトップスは全員制服のポロシャツに統一して、こっちは上に着るベストとかポンチョとか、マントみたいなのを作って統一感を出していこう」
原先生の方針を踏まえ、二人のデザインを見ながら、四人で小人用のデザインを話し合った結果、ベストと小さなマントと帽子を作るという形でデザインが決定した。
「帽子は百均とかでパーティー用の三角帽子が売ってるから、それを買ってきて、それに合わせて縫った布をかぶせればそれっぽく見えると思う」
アリーシャはそんな創意工夫のアイディアを聞いて、発想の豊かさに驚き、日本の百均の便利さに少し嫉妬した。
残りのデザインもそうやって、二人のデザインを並べていいとこ取りをしながら、作る必要のない場所を吟味しつつまとめることが出来た。
昼休みに特攻して絵里と彼女の友人の亜沙美に相談した白雪姫のデザインは、ほぼアリーシャのものが採用されて、とても嬉しかった。
逆に力尽きて適当になってしまった王子のデザインは凛子がデザインしたものが主軸となった。
白雪姫と王子の衣装の色を合わせるというのは、凛子も真由美も考えていたようで、作る際は同じ布を使うことになった。
お妃様の黒い布は、濃い紫の布も使いつつ、結局黒い布は冴に予算を分捕ってもらい買ってもらおうということになった。
紫は悪くなかったが、やはり魔女といえば黒いイメージが強いのだ。
特に老婆の姿で紫のローブは違うのではないかという意見が出たのは、まあ仕方がないことだろう。
「はい。じゃあ今日はここまでにしようか」
なんとか全部のデザインについての話し合いが終わると、原先生は終了を促した。
「次は今日決まったデザインのお披露目と、型紙の作成になるのかな。部長とその辺相談してきなね。裁縫を始めるなら私も放課後開けるから、予定が決まったら教えて」
「わかりました。先生、今日はありがとうございました」
「はーい、原ちゃん先生ありがとねー」
「はい先生。型紙って大きさ決まってないのに作れるんですか?」
型紙を作るということは服が作られるということだ。
そのためにデザインをしたのだし、今日の話し合いもしたのだから当たり前ではあるが、本当に形になると実感するとわくわくした。
そして、形になるということは、大きさが決まってしまうということで、それは役者によってサイズが変わるのではと、当然の疑問が湧いての質問だった。
「流石に主役級は採寸するけどね、小人のマントとかなら練習も兼ねてフリーサイズになるように作ってみてもいいんじゃないかな。小人役って言うくらいだから、そこまで大きな子がやることはないんだろうけど、最悪合わなかったら追加で作れるシンプルなデザインだから、裁縫に慣れるという意味でもやってみていいと思うよ」
「なるほど、わかりました」
衣装を仕立てることを楽しみにしている、美緒莉や夏海も、本格的な衣装作りとなると未経験なところが多くあるだろう。
そう考えれば一度練習をしてみるのも悪くはないだろうし、アリーシャも簡単なものを教えてもらえるとなるなら、ちょっとやってみたいと思うところもあった。
衣装デザインの打ち合わせが解散した後、真由美が部長の冴にデザインが決定したことを連絡してくれた。
その後、アリーシャが家に帰宅した頃に演劇部のグループチャットに明日の部活は裁断室で行われることが連絡事項として回ってきた。
ついでにこのグループチャットは、演劇部創始者グループとは別物で、最近入部した夏海たちや、顧問の原先生の参加もあるが、ほぼほぼ幽霊部員の悠紀の名前はなく、現状女子だけのグループチャットとなっている。
どうやら明日は型紙の作成となりそうだ。
アリーシャは口角を上げてグループチャットのメッセージにリアクション用のアイコンをチェックして閉じた。
こちらは連絡用で極力必要なメッセージを流さないのがルールとなっている。
夕食後にホームステイ先の家族と、眠る前にアメリカにいる家族に、今日アリーシャがデザインした衣装のデザインが演劇部の舞台で使われる衣装の一部に採用されたのだと報告した。
全部が全部採用されたわけではないが、自分が考えたものが形になるということが、とても嬉しく、どうしても二つの家族に報告をしたかったのだ。




