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序章：保健室の陰謀論

（保健室のドアを開ける音）

「……はぁ」

風見暁は溜息をついて保健室のドアを押し開けた。午後の日差しが窓から差し込み、薬棚のガラス瓶に当たって虹色に反射する。机の上には「霊力測定器」と「魔導バイタルチェッカー」が並んでいて、電子時計の文字盤が突然「13:07」から「???」に乱れた。

「……今日も変な機械だらけだな」

暁は肩をすくめて椅子に座ると、白衣の裾がひらひらと揺れる人影に目をやった。先週転校してきた保健教諭の星野リカ先生だ。彼女の右眼には機械義眼がはめ込まれており、青い光が不気味に明滅していた。

「暁くん、定期検診の時間よ～」

星野先生はニコリと笑って近づいてくる。その笑顔にはどこか計算高さを感じるが、暁はそれを指摘する勇気はなかった。

「えっと……今日は何の検診ですか？」

「特別サービスよ～」

星野先生は突然左手を差し出した。その手にはUSBチップが握られており、青白い光が暁の顔を照らす。

「こ、これは……？」

「運命を変える魔法のチップよ～」

「運命を……変える？」

暁の声が震えた。星野先生の機械義眼がギュッと縮み、瞳孔に「星律界」のマークが浮かび上がる。

「適合率99.7%……完璧ね」

「ちょっと待ってください！勝手に他人の運命を変えるなんて……！」

「唐突に未知デバイス貼り付けて犯罪フラグですよ！」

暁が椅子に仰け反ると、星野先生は前のめりになり、白衣の襟がはだけた。薬棚の「竜胆草エキス」が落下し、床に散らばった。

「暁くん、動かないでね～」

星野先生の機械義眼から青い光が放射され、チップが勝手に暁の後ろ首に飛びつく。暁のアホ毛が逆立ち、星野先生の機械義眼からデータの洪水が噴出した。

「ジーッ……」

チップが後ろ首に埋め込まれる感覚とともに、暁の頭の中がざわざわと鳴り始めた。視界の端っこが歪み、保健室の壁が溶けてゆくように見えた。

「な、何が起こってるんだ……？」

「成功よ～」

星野先生は満足そうに笑い、右手に操作パネルが現れた。その画面には暁の名前と「第307回目の輪廻」と書かれていた。

「第307回目……？何の話？」

「それは……秘密よ～」

星野先生は看護帽を直し、機械義眼が優しいモードに戻った。

「明日からよろしくね～暁くん～」

そう言って星野先生は保健室を出ていった。暁は椅子に座り込んだまま、後ろ首に埋め込まれたチップの感触を確認した。

「……夢じゃなかったんだ」

暁が立ち上がろうとした瞬間、保健室の窓が突然割れた。外からは学園の校庭が見えるはずだったが、そこには見知らぬ山並みが広がっていた。

「え……？ここは……？」

暁が窓の外を凝視すると、山の上に巨大な門が建っていた。門には「星律界」のマークが刻まれており、不気味なオーラを放っていた。

「星律界……？聞いたことあるけど……」

暁が思い出そうとした瞬間、後ろ首のチップが再び光り始めた。頭の中がざわざわと鳴り、視界が真っ白になった。

「……っ！」

暁が目を開けると、保健室に戻っていた。窓は割れておらず、電子時計の文字盤も正常に戻っていた。

「夢……だったのか？」

暁が後ろ首を触ると、チップの感触は消えていた。しかし、頭の中には確かに「星律界」のマークが浮かんでいた。

「……何が起こったんだろう……」

暁が保健室を出ようとした時、机の上に置かれた「虚数安定剤」の瓶が目に入った。ラベルには「第4次元生物用」と書かれており、暁の胸騒ぎが加速した。

「……この学園、何かおかしいぞ」

暁が保健室を出ると、廊下には変な噂話が飛び交っていた。

「聞いた？仙術科の紫苑ちゃんがまた霊力暴走したらしいよ」

「魔導科の実験でプールが凍ったんだって！泳装の子たちが氷像になったらしいぞ！」

「学生会の白銀さんが锁魂腕使って追っかけてるらしいけど……」

暁は廊下を歩きながら、チップのことを考えていた。星野先生の正体は何なのか？チップに隠された秘密は？そして「星律界」とは一体……？

「……俺、何か大きな事件に巻き込まれてる予感がする」

暁が教室に戻ると、犬塚が待っていた。

「暁！保健室行ってたんだろ？何かあった？」

「……ああ、ちょっと変な検診を受けただけだ」

暁は犬塚に事情を話す気にはなれなかった。チップのことは秘密にしておくべきだと直感していた。

「変な検診……？星野先生、何か怪しいことしてないよね？」

「……んー、何とも言えないな」

暁が机に座ると、後ろ首がかゆくなった。チップが埋め込まれた場所が、何か熱くなっているような気がした。

「……もしかして、俺の運命、本当に変わっちゃったのか？」

暁がそう思った瞬間、教室の窓が突然割れた。外からは学園の校庭が見えるはずだったが、そこには見知らぬ山並みが広がっていた。

「……まただ」