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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

人並みに嫉妬くらいします

作者: 伊都香//

その日は土砂降りの雨で、朝から気分はよくなかった。


一限から苦手な教授の授業が続いて辟易としていた。


廊下を歩いているとふざけていた男子生徒にぶつかられ舌打ちをされた。


食堂で大好物のシュークリームが品切れになっていた。


友人からだらだらとノロケ話を聞かされた。


だから、いつもなら平気で聞き流せる奴らの声がやけに耳障りだった。


「千影、このあとカラオケ行こうぜ」


「え、私も行きた〜い」


「うちも〜」


彼らの中心にいるのは異様なほどに顔立ちの整った男だ。


柊 千影。

アイドルとして紹介されても遜色ない程の圧倒的なオーラと完成された美貌をもち、この大学で一番モテる男。


「相変わらずキラキラしてんなぁ。目ぇ潰れそう」


そう言って眩しそうに目を細めながらやってきたのは友人の菊地だ。


「…もうノロケ話は聞かないからな」


「昼休みは悪かったよ。今度はお前の話沢山聞くから、許してくれ」


少しバツの悪そうな顔をした菊地に、小さくため息をつく。


「残念ながら、聞かせられるほどのノロケはない」


「嘘つけ。普段これだけ牽制されてるのにラブラブじゃない訳ねーじゃん」


「独占欲が強いわりに釣った魚には餌をやらない主義なんだよ、あいつは」


「イケメンはいいよなぁ。俺なんか、紗奈ちゃんに嫌われないように必死なのに」


その言葉はひどく俺の心に引っかかった。


『俺以外の男と二人きりで出かけるな』


あいつがそう言ったから長い間我慢してきたが、


「もう疲れたな…」


「ん?なにが?」


「…菊地、今から遊びに行かね?」


その言葉は案外するりと出た。


「嫌だよ。お前、彼氏ついてくるじゃん」


「いや、二人でどっか行こうぜ」


「え?あの約束なくなったのか?」


「そんなとこ」


「マジか。じゃあ、おすすめの店連れて行ってやるよ」


そう言うなり歩き出した菊地の背中を追う足取りは、ここ最近で一番軽い気がした。


















家に入るとリビングに明かりがついているのが見えた。


「まだ起きてるのか…?」


リビングを覗くと、千影がテレビでバラエティ番組をみていた。


「ただいま」


声をかけるが、千影はテレビから目を離さずに無反応だった。



やはり怒っているのか。


いや、単純に俺に興味がないだけか。


静かに自室に向かおうと背を向けると、


「俺以外の男と二人きりで出かけないって約束したよな」


そう言う千影の声は温度のないものだった。


「柊だって遊びに行ってただろ」


自分でも驚くほど低い声がでた。


千景の美しい形の眉がわずかに寄り、なにか言われるより前にリビングを出る。



千景に嫌われないことを第一に考えてきた。


約束を破った上こんな態度をとったから、今までの努力は全てが水の泡になってしまった。


それでも、ここ最近で一番気分が良かった。















「馨」


スーツケースとボストンバッグをもって靴を履いていると、名前を呼ばれた。


どんな声優よりも彼の声が好きで、彼に名前を呼ばれる度に堪らなく幸せな気持ちになっていたことを思い出す。


「今までありがとう」


千景の顔を見ると決意が鈍りそうな気がして、そのままドアノブに手をかける。


その瞬間、馴染みのある香りに包まれた。


「馨、俺を捨てないで」


明らかに鼻声のそれに耳を疑って振り返る。


千景の腕の中にいたことで、彼の真っ黒な瞳と至近距離で見つめ合うことになった。


しかし、その視線はすぐに逸らされる。


「ちょっと束縛がきつい部分もあるかもしれないけど」


「ちょっと?」


「…馨が好きだから」


こちらを伺うような瞳は、かつて少し緊張した面持ちで告白してきた学校一のモテ男のものと重なった。


「…束縛を今の半分くらいにしてくれるなら、考え直す」


「するよ、我慢する」


「あと、菊池に嫌がらせするのをやめること。あいつは友達だから、信用してほしい」


「わ、かった」


「何も変わらなかったら今度こそ別れるからな?」


「……………………うん」


普段からは想像できないほどの弱々しい様子に、自然と頬が緩む。


ちゅっ


口の端にキスをすると、千景は目を見開いて固まった。


今まで俺からキスしたことがなかったから驚いているのだろう。


「俺も千景ほどではないにしろ、人並みに嫉妬するっていうのは覚えておいてくれ」


照れくさくて視線を宙に彷徨わせながら言うと、途端に唇を塞がれた。


唇を軽く重ねるだけの戯れのようなキス。


それでも彼の愛を感じて、小さな幸せを噛み締めるのだった。










お読みいただき、ありがとうございました!


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