表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/21

05


 噂が立つのは驚くほど早く、数日後にはコルネード王都にまで、ルイーゼ嬢がアランツ王国入りをしたことが話題になっていた。


『ねえ、聞いた? アランツ王国のマリウス様とルイーゼ嬢の噂。とても楽しそうに、立食パーティーでお話しされていたとか』

『ルイーゼ嬢、修道服でノーメイクなのに女神様のような美貌だったそうよ。綺麗な人はお化粧しなくても、輝いてるのね』

『せめて我が国の聖女ミカエラ様も、無駄にお化粧品やドレスにお金を掛けずに、慎ましくしてくれたら財政も楽なのに……』


 アランツ王国とコルネードはさほど遠い距離ではないため、立食パーティーに参加していた外交関係者が話を漏らしたのだろうと推定された。

 嫌疑をかけられて追放までされた公爵令嬢こそが聖女で、自分達が信じていた聖女の方はハリボテだったのかとも疑ってしまう。


『防御壁魔法が使えなかったんだっけ? ミカエラ様は』

『らしいわよ。魔法学園に在学してる時は、ルイーゼ様ほどではないけどそれなりに魔法学も優秀だったのにねぇ』

『この2年間、遊び過ぎて全く魔法の訓練なんかしてないだろうし。腕が落ちてるんじゃないか』


『代わりの聖女が見つかれば良いが、よりによって地母神に誓って追放させたルイーゼ嬢が聖女だからなぁ。いろいろ思うところはあるけど、もう少しミカエラ様に頑張ってもらわないといけないのかね』


 けれど、国民全体がそのハリボテに依存していたため、今更無かったことにする勇気もなく、ただ時が過ぎて聖女ミカエラの流行が落ちるのを待つばかりだった。

 ミカエラの人気が落ちると困る者も一定数存在した。聖女専用の住まいである聖女の館の管理に従事する者や、ミカエラを相手に高いドレスや宝飾品を売る行商人。パーティーを主催する貴族や聖女の威光にあずかって自分たちの名誉を引き上げたい者たちだ。


『ミカエラ様の人気が落ちてしまったら、我々の暮らしも危うくなってしまう』

『そろそろ遊び飽きてるだろうし、誰か一人に定めて結婚していろいろ誤魔化して頂きたいものだ』

『魔族の襲撃が再び来るかも知れないし、武器商人にでも転職して、方向転換を考えるとするか』



 * * *



 コルネード王国の聖女の住まう館で開催されている午後の小さなお茶会は、聖女ミカエラを中心に男達が今後を話し合うというもの。

 だが、空気は重苦しい。なんせ今回の件で最も立場が危うくなっているのが、聖女ミカエラだ。


「聖女ミカエラ様、ルイーゼ嬢は聖女として急成長し今ではアランツ王国のゲスト聖女として活動を始めたそうです。ミカエラ様もそろそろ真価を発揮していただかないと」

「まぁミカエラ様が聖女だってことは、魔族もじゅうぶん知っていたわけだし。特別な対策を取ってチカラを封じているのかもよ。兄上との仲がダメでもまだ僕がいるし、王族入りはできるから安心してね」


 困ったようにミカエラに進言するのは、若き賢者リチャード。銀髪緑色目のイケメンで、王都の魔法使い達の憧れの人である。第三王子のコナーはミカエラを庇っていたが、もし兄と婚約破棄になった場合は自分がお下がりで聖女の夫という立場をもらおうと考えている策士だ。


「どちらにせよ、聖女としての祈りが使えないとそのうち称号は剥奪されるだろうがな。まさか、この非常時にチカラを使えなくなるなんて、騎士団のメンバーも疲労が溜まっている。なんとか巻き返しを図らなくては」


 聖女のチカラが全く使えないことに焦りを感じているのは、騎士団長のギリアムである。


 不自然なほどミカエラと距離が近く、昼間のホストクラブのような雰囲気のお茶会。

 何を隠そう彼らは乙女ゲーム『聖なる祈りは乙女と王子を結ぶ』に登場するメイン攻略対象だ。


 この乙女ゲームは、聖女ミカエラとして異世界転移した主人公が、悪役令嬢ルイーゼのいじめに耐えながら、世界を魔族の手から救うというもの。しかし、現実は少しばかり違っていて、ルイーゼは意地悪などしていないし、ミカエラは好みの男を物色したいだけの悪女で聖女としての素質は低いようだった。


「けど、我が国の聖女認定協会が直々に選んだ聖女だよ。国の権威を考慮しても、早々剥奪は厳しいよ」

「騎士団としては、魔法使いたちに防御を依頼して時間稼ぎしている状態から早く脱却したい。もし、キミが本物の聖女様なら、いずれこの国の城壁を強固で安全なものに変えてくれると信じてる」


 冷たく言い放ち、席を立つバッカス王子と騎士団長ギリアム。

 あまりの展開に、ミカエラはふるふるとピンク色のドレスのスカートを握りしめて怒りを堪えていた。


(一体、何がどうなってるのよ。この異世界は! ヒロインは私なのに、あの悪役令嬢がアランツ王国の王子様とフラグを立てるなんて許せない! ぶち壊して、今度こそ亡き者にしてやるっ)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ