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修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね  作者: 星井ゆの花(星里有乃)
外編

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03


 遺跡の周辺には小さな集落が存在していて、しばらくの間は拠点として使うことになる。

 以前は野盗が多かったらしいが、ある日を境に数が減ったらしい。平和になった青空市場には、冒険者向けの携帯食や水が販売されており、遺跡調査には好環境だった。


「さてと、水も食糧も調達出来たし。2日くらいは遺跡の方に潜ることになるけど。ハンナは大丈夫そう?」

「ええ。それに、遺跡内部で先に調査しているグループがあるという話だし。向こうにもベースキャンプはあるだろうから。そんなに心配していないかな」

「まぁ、先行団体と一緒に行動するわけではないけど。ベースキャンプは共有になるだろうね。集落拠点と遺跡内拠点の2拠点って感じだよ」


 シスターハンナは夢の中では何度もギルドクエストをこなしているとはいえ、実際に現場に出るのは初めてだろう。カナリヤとの違いはその部分だが、今回は先行集団もいるクエストのため、そこまで気追わずに済んでいる。



 メインの調査は聖女セシリアが使ったとされる儀式部屋の把握だが、中でも周辺で起きた出来事を記録するディスク機能を調べて欲しいとの要望が記されていた。


「ディスク機能ですか、この地図通りなら右の通路を行けばあるはずだけど」

「コロシアムを管理するための装置が、今では周辺地域を記録してしまっているそうだよ。いろんな部屋にディスクは点在しているらしいから、ひとつだけでも回収出来ると良いね」


 先行で遺跡内で調査していたグループと合流し、情報交換をする。


「ディスクを探しているなら、右奥の道が繋がっているらしいんだが、修道女の記憶らしくてね。プロテクトがかかってるらしくて、男衆には閲覧出来ないんだよ」

「そんなものがあるんですか……その記録はカナリヤさんや私が回収しても?」

「ああ。解析もそちらにお任せするよ」



 数多くあるディスクの中でも、珍しい男子閲覧禁止の記録映像。教えてもらった道は、確かに大柄な男性には厳しい細さで、それだけでも男性を避けているような気がした。


 あるところまで進むと、パッと景色が明るくなり白い部屋が広がっていく。


「ここは……古代遺跡と呼ぶにはあまりにも未来的だわ。このモニターは、誰かが映っている?」

「ああ。この映像の女性は……間違いない! ルイーゼ・ルードリッヒ嬢だ」



【遺跡周辺の記録・ルイーゼ1】


 ある日、遺跡周辺に住む貧しい少女が僅かな食糧を手に共同住宅に帰ろうとすると、野盗が純朴そうな栗色の髪の少女を狙った。

 食糧を奪うことも目的なのだろうが、真の目的は少女自身だった。攫って奴隷として売り、その一生を奪うつもりなのだろう。


「いやぁ! 誰か助けてっ」


 華奢な少女の腕は、あっという間に野盗に捕まり、拘束されてしまう。


「へへへ。こんなところで、誰も助けなんざ来ねーよ、お嬢ちゃん。くくく、さあどうする? このまま金持ちのオッサンに売るか、オレ達がちょいと味見するか」

「離してっ。痛いっ!」


 一人の野盗が少女を後ろから羽交締めにした。涙をこぼす少女は哀れだが、通りすがりの者たちは誰もが目を伏せた。


(まったく、見て見ぬふりを決め込んで……自警団が来るまで時間稼ぎしないと、この子が危ない)


 少女を匿うように上等の馬車が一台停まった。


「随分と乱暴なのね。今時、人攫いなんて流行らないわよ」

「チッ……邪魔をするんじゃねぇよ。って、なんだぁ? オンナじゃねぇか、しかも都会のご令嬢ってところか。随分と、上玉と来てる」

「ひひひ……純朴な田舎の娘と、都会の綺麗なご令嬢……セットで高く売り捌こうぜっ。もちろん、手ェつけてからなぁっ! ギャャハハハハッ」


 気高く美しいご令嬢、即ちルイーゼ・ルードリッヒ嬢は、軽蔑の意を込めて野盗を睨みつけてから強力な黒魔法を展開する。


「闇の叡智よ、空間を歪ませるチカラよ……」

「は? な、なんだぁ腕が突然! 千切れるぅぎぎやぁあああああっあああ!」


 ルイーゼ嬢は、赤毛の魔女の異名を持つほど、絶大な魔力を誇っていた。この世界において、空間を操る魔法は上位魔法の部類。

 少女を羽交締めにしていた野盗の腕は千切れたのではなく、黒魔法で作った歪んだ空間に巻き込まれて、居場所を失っているだけだ。ある意味、千切れるよりも絶望的な痛みが走っているだろう。



 すぐに駆けつけた自警団に野盗は捕まり、少女は無事に解放された。


「お嬢さん、大丈夫だったかしら?」

「はっはい! 高貴なお方とお見受けしました。私のような貧民のために、本当にごめんなさい」

「ふふ。もうすぐ、貴族ではなくなるの。この先にある修道院に入る事になっているわ。だから、そんなに萎縮しなくて平気よ」


 この日を境に、ルイーゼ・ルードリッヒとしての記録は消えているらしい。おそらく、聖女セシリアとして活動を始めたのだろう。


 存在ごと消されたはずのルイーゼ・ルードリッヒや聖女セシリアの記録は、古代遺跡のシステムを介して現代にきちんと保存されているのであった。


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