表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/21

01

今年最初の投稿です。読みやすい長さで10話前後を予定してます。


 コルネード王国王太子バッカスの元婚約者、公爵令嬢ルイーゼが、婚約破棄の末に辺境の修道院送りとなったのは王都でも有名な話。異世界より現れたという聖女ミカエラを新しい婚約者にするため、麗しいルイーゼのことが邪魔になったのだ。

 とある夜会の日に、ルイーゼは大勢の貴族達の前で聖女への悪質な嫌がらせという嫌疑をかけられて、そのまま追放となった。


「えぇいっ! 公爵令嬢ルイーゼ・ルードリッヒ、貴様が聖女ミカエラに嫉妬して暴力行為からよからぬ噂まであらゆる嫌がらせをしていたことは俺の耳にも届いている。貴様のような女は、我が国を統べる地母神の名において追放だ! 二度と祖国の土を踏むことは叶わぬだろう」

「その婚約破棄、了承いたします。けれど、私は自分自身の名誉において決してミカエラに嫌がらせなどしておりません。地母神がこの国から追放しても、心ある神様がいずれ私の無実を証明してくれます。辺境の修道院が何かあったら受け入れてくださると……私はそこに行きます」

「ふんっ。言い訳ばかりしおって。いずれ神がお前の悪行を裁くだろう」


 一見すると亜麻色に見える髪を揺らして、ルイーゼは寂しくパーティー会場を立ち去った。実はルイーゼの髪色は光に当てるとダークピンクになるが、それでは聖女の髪色と認められず、聖女認定から早々に弾かれた。

 バッカスは金髪の前髪をかき上げて、新たな恋人となる聖女ミカエラの肩を抱き寄せる。異世界より現れたという噂と、この国では珍しいピンク色の髪というだけで、伝説の聖女だと認定されているミカエラ。


(ふん! 中途半端な髪色の悪役令嬢に勝ったわ)


 かつて聖女認定を受けた際に、ミカエラは大衆に向かって大々的に自分が聖女であるとアピールしていた。


『皆さん、もう安心して! 私がこの国の聖女、そしてヒロインのミカエラよ。私をモデルにした物語【聖なる祈りは乙女と王子を結ぶ】は異世界で大人気なの。どんな困難があっても乙女ゲームのシナリオ通りに進むからよろしくね!』


 しかし、大きな災厄でも起こらない限り聖女が誰であるかなんて分からない。異世界で流行っているという物語も、転移者や転生者以外は知る術もないが、その場の勢いで聖女信仰は高まっていった。

 かねてより『物語の悪役令嬢』と呼ばれていたルイーゼ追放も、異世界シナリオ通りであるなら致し方ない、そのような見解だった。


 実家の公爵家を出て国境を越えると、地母神を祀る団体の長が待ち構えていて、羊皮紙を一枚、彼女の目の前に差し出した。馬車から半ば無理矢理降ろされて、国境管理の部屋に連れて行かれたルイーゼは、契約書にサインを迫られる。


「さて、ルイーゼ嬢。貴女は国外追放の儀式を地母神の前でしなければなりません。地母神に誓って、二度と祖国の土地を踏まないと約束するのです」

「形式的に国外に追放するだけでなく、精霊の類との儀式を踏んでまで、祖国とのご縁を切らさせるのね」

「可哀想ですが、聖女なくしてはコルネードは成り立たない。聖女に危害を及ぼす存在とされる貴女を、もう二度と国内の領地に入れるわけにはいかないのです。ご家族にもしばらく会えませんが、妥協して家族に辺境まで来てもらうと良いでしょう」


 辺境まで来てもらうと、簡単なことのようにいうが、追放された者に会うには多くの手続きがいるだろう。幸い、公爵家が頑張って交渉したおかげで、修道院への仕送りは寄付という形で許可されたらしく、しばらくの生活はフォローしてくれるそうだ。


 血判を押して、儀式が終わる。

 ルイーゼはこの日を持って、故郷コルネード王国の土地を踏めなくなった。



 * * *



「ルイーゼさん、せっかく貴族だったのに爵位は剥奪されるのかしら。乙女ゲームのシナリオだと、修道女エンドのラストはよく分からないのよね」

「愛しい僕のミカエラに酷いことをしたんだ。本当は修道院入りなんかで許されるはずないけど、地位を全て捨てて奉仕活動だけして生きるなら、邪魔にはならないさ。コルネード王国地母神と誓わせて、二度とこの国の土地を踏めないように、契約済みさ」

「くすくす。まだ若いのに、社交界から追い出されて清貧な一生を送るなんて可哀想!」


 可哀想なんて、微塵も思っていないのは二人の表情から見て誰もが理解出来た。けれど、聖女信仰により腐敗した国にいるより修道院で困っている人達に奉仕した方が、生きている意味があると考える者も多く、修道院行きを止める者は少なかった。


 時折、思い出したようにルイーゼ嬢の話題が人々の間で上る。


「ルイーゼ嬢とはもう二度とお会いすることは無いのだろうな。今振り返っても、あの日の夜会は酷かった」

「仕方がないよ、地母神の名まで使って追放契約したんだ。美しいご令嬢だったが、今では辺境の修道女。二度と、祖国の土地を踏むことは出来ないだろう」

「ミカエラ様を崇める聖女信仰のために、ドレス代やら宝飾代やら国家が出しているけど。商人達からすればルイーゼ嬢がいなくなった穴埋めを、ミカエラ様がしてくれるから気にならないんだろうなぁ」


 その晩の出来事は2年経った今でも語種になっているが、そろそろ風化していくだろうと誰もが思っていた。


 真の聖女が、よりによって追放したルイーゼ嬢であることに気づくまでは。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
大きな災厄でも起こらない限り聖女が誰であるかなんて分からないというのにどういう基準で聖女認定さるのでしょう? 誤認定したら国が亡ぶので王子の直感や自己申告で決まるということはないと思いますが。
彼女が婚約破棄され追放される様子は……もう共感するしかありませんね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ