川端由香里はやべー奴
「お初にお目にかかります。私は光が丘西小学校出身の川端由香里と申します。陸上部に所属しております。好きな食べ物はパクチー。趣味は菜々子ちゃんをからかって楽しむことです。以後お見知りおきを。」
「・・・。」
「・・・。」
広大は空いた口が塞がらない。親友の菜々子ですら予測していなかったのかポカーンとしている。
職場体験の前のグループワークということで、まずは自己紹介から始めたのだが、これでは自己紹介ならぬ事故紹介である。
(石橋さんの親友の川端さん・・・石橋さん以外とはあまり話さず、社交的な感じじゃないと聞いていたが、かなりやばい、うん、やばい。)
「ゆ、由香里!いきなり何て自己紹介してるのさ。石川くんも大分引いてるよ!?」
「冗談です。私は人付き合いが苦手ですので、こうやって最初に引かれておいて、やばい奴だと思わせることで人払いしてるのですよ。」
「普段そんなことしてないでしょ!というか人付き合い苦手な人は最初に引かれておくとか、そんな高度なことすら思いつかないよ!」
由香里は客観的に見て、菜々子と同じく美少女であった。艶のある銀色に輝く髪をしている。銀色の髪ならどこかロシア系の血統かと思えば顔立ちはどこから見ても日本人。そして何より特徴的だと思ったのはこのような自己紹介をしておきながらニコリと笑いもせず表情を一切変えない落ち着きっぷり。
「・・・冗談ですよ、菜々子ちゃん。」
やはり、由香里の表情は変わらない。100人・・・いや、1万人いれば1万人全員が彼女のことを変人だと思うだろう。由香里の言うとおり、初対面でこんな自己紹介をすれば確かにやばい奴と思われ、人が離れていくかもしれない。だが・・・
「フッ・・・ははは。」
「?」
広大は堪えきれず笑い声をあげた。由香里ほどではないだろうが広大も普段、表情が変わる事は少なく
少々のことでは笑わない。ここまで笑ったのはいつぶりだろうか。
そんな広大を菜々子は不思議そうな顔で見る。
「どうしたの、石川くん。」
「いや、気にしなくていい。ただ、二人は本当に仲が良いんだな。」
「えっ?」
「分かるよ、川端さんの素っ頓狂な自己紹介に対して面食らいながらもすぐにツッコミを入れてる。そんな掛け合い、かなり付き合いが長くないと出来ないと思う。」
「そ、そうかな。えへへ。」
このようにして存在こそ知っていたものの、ほぼ初対面の女子と和やかに話している状況に広大はふと不思議な感覚を覚える。
広大は正直言って女子が苦手だった。元々苦手だった訳ではない。正確には広大自身も覚えていないが、小学校高学年あたりの時には苦手意識を持っていたと記憶している。
小学生時代、愛想の悪い広大であったが顔は同級生の男子と比べてもかなり良い方で運動神経もずば抜けていた。そのためクラスメイトと打ち解けてから女子に人気が出るまでそれほど時間はかからなかった。
最初の方は複数の女子からバレンタインデーにチョコを貰っていた程度で広大自身も満更ではなかった。
ただ学年が上がり小学五年生になった辺りだろうか、広大に告白し、付き合いと言い出す女子が出始めた。広大は当時、好きな女子は特にいなかった。
そもそも小学生で付き合うってなんだよ・・・とは感じつつも態度を保留にしておくのも良くないと思ったため女子からの告白は全てその場で断った。
断ると泣きながら走って逃げ出す奴、その場に崩れ落ちながら大号泣する奴、反応は様々だった。
すると周りの女子たちは口々に言うのだ。
「今好きな子いないんでしょ?だったら付き合ってあげなさいよ。」とか
「うわー〇〇ちゃんかわいそー、広大くん最低。」
広大を攻め立てる女子たちの発言に広大自身、正当性のカケラも感じなかったもののあの時は子供ながらに広大の心を嫌というほど抉った。
当時広大を攻め立てた女子の中には後になって広大に謝りにきた者もいた。しかし中には中学生になった今でも広大を敵とみなす者も存在している。
広大は今ではさほど当時のことを気にはしていないが、今でも女子に苦手意識が残っていることは自覚しており、自分から女子に話しかけることは殆どない。また、体育の授業などでもあまり目立たないように意識して手を抜いている。
現在、広大の通っている中学校は一学年6クラスと少子化が問題視されている現代においてはかなり大所帯の学校である。というのも1クラス約30人、
一学年合計約180人のうち半数は広大の通っていた光が丘東小学校、残り半数は光が丘西小学校の卒業生にて構成されている。
菜々子と由香里は光が丘西小学校出身ということもあり広大の小学生時代など知らなかった。菜々子と普通に話せたのも由香里が西小出身だと話したことも多少は影響しているかもしれない。
「さあ、菜々子ちゃんの番ですよ。さっさと自己紹介して下さい。」
「あれだけボケて私にツッコませておきながら酷くない!?」
広大は再び始まった二人のボケとツッコミを心地良さげに聞きながら、
(この二人となら友達になれるのかもしれないな、いや、それは期待しすぎか)などと考えに耽っていた。
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