美少女の練習見学
「おい、また見てるぞ。」
石川広大は同じ野球部にして同級生の川上新太に
声をかけられた。
今年4月を迎え中学二年生となった広大と新太は
小学生の頃からの友人である。
広大は小学三年生の時にこの街に引っ越し、その時に同じクラスとなったのが新太だった。
広大は引っ込み思案という訳ではなかったが、
愛想が少々が悪かった。小学三年生というと幼児ではないが、まだ8〜9歳の子供だ。話しかけても表情の変化が見えづらく不機嫌にすら見える。そんな広大を怖がって皆近づいて来ないため友人はなかなかできなかった。
しかし、新太だけは積極的に広大に話しかけ続けた。新太はクラスの中ではかなり人気者の部類に入っており友人は多かったため、なぜ新太が自分にそこまで構うのか理解できなかった。ただ、新太が話しかけ続けてくれた甲斐もあり新太だけでなく次第に他のクラスメイトとも打ち解け、何不自由なく小学校生活を送る事ができた。愛想が悪いものの元来照れ屋な広大は口に出さないが新太にはとても感謝している。
「またか・・・。」
野球部の練習中である広大と新太の視線の先には、
上下に学校指定の黒いジャージを見に纏った少女がいた。4月も既に中頃ではあったが授業が終わり現在17時が過ぎようとしているこの時間帯である事を考慮すれば妥当な服装である。
「去年の12月頃だったかに野球部の練習を覗いているのを初めて見かけてから、ホントにしょっちゅう居るな。」
彼女と同じクラスである野球部員がいる事からある程度その素性は分かっている。
彼女の名は石橋菜々子。陸上部に所属しており短距離走・障害物短距離走を主に専門にしているらしい。彼女には川端由香里という同じクラスの親友がいるらしくが基本的には気さくで誰とでも普通に
喋れるタイプ、といった所が大体の情報である。
ただ、野球部の練習を見ている理由は謎のままである。彼女と同じクラスの部員に理由を聞くように
せがむ部員も居るが、流石にそれは聞きづらいらしく拒否し続けている。
容姿は見たままをそのまま表現するとサラッとした黒髪のロングヘアーで運動部に入っているとは思えない程に色白な肌、整った目鼻立ちをしており、
客観的に見て美少女、と言ったところか。
菜々子が度々野球部の練習を見ていることは当然、広大と新太以外の全部員も認識しており、その端麗な容姿から皆いいところを見せようと浮き足立っている。
菜々子が練習を見ている際に普段通りにプレイしているのは広大と新太、それに三年でキャプテンの田中くらいのものだ。
田中いわく、菜々子が練習を見ているのは野球部の練習場所から50メートル以上離れたところで特に邪魔されている訳ではなく、寧ろ見られている事をモチベーションにしている部員もいるから特に問題ないとの事だ。
「なあ広大。俺、石橋さんが野球部の練習を見る時の条件というか、法則に気づいたかもしれない。」
唐突に、かつ小声で広大にしか聞こえないように新太は話し始めた。
「多分、広大が投球している時だ。」
「・・・はぁ?」
新太が言うにはここ最近何か法則性が無いか観察し始めたらしくその中で菜々子が見ている時に5回連続で広大が投球練習、または紅白戦で投球していたと言うのだ。
「その法則性が本当かどうかはともかく、俺にだけその内容を伝えてくれた事には感謝するよ。そんな事、他の部員に知れたら袋叩きだからな。」
これは紛うことなき本音である。広大自身、菜々子の事を客観的に見て美人だと思いつつも菜々子自身にそれほど興味は無かった。しかし、部内で無用な争いが起こる事は避けたい。
「お前こそ、練習中にそこまで観察してるなんて実は石橋さんに気があるんじゃないのか。」
「馬鹿言え。確かに広大の言うとおり客観的に見て美人だとは思うが、あそこまでレベルが高いともはや土俵が違うというか、見てるだけで十分だよ。」
「確かにな。」
広大は投手兼外野手だが、既にチームのエースであり、一日のうち投手としての個別練習に大きく割かれる事が多かったため新太の言ったことは特に気にも留めなかった。
中1、中2と別のクラスで今まで話したことは一度もない。来年同じクラスになったとしても必要になった時にしか話さないだろう。広大はそう思っていた。
しかし、新太の言ったことが間違いではなく今後石橋菜々子、その友人の川端由香里とも深く関わっていくことになろうとは、この時想像もしていなかった。
はじめまして、筆者の邪馬誠です。この作品が初投稿です。拙い点が多々あるとは思いますが、ご容赦ください。また、普段はサラリーマンであるため投稿頻度は不定期としか言えませんが一人でも多くの読者さまに目にして頂けるよう努力していきたいと思います。
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