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1-2 一回目(後編)

性行為を強要しようとする場面がございます。ご注意ください。

 外れだと温くなった紅茶を啜る。カップを置く音が部屋に妙に響いた。横目で見る必要もないので首を捻り夕衣の方へ向く。口元を緩ませながら相変わらずスマートフォンを眺めていた。

 期待していた映画は全くの外れだった。最初の激しい戦闘シーンがピークで後は冗長に主人公が敵地で暗殺対象を探して車を運転しているだけの映像がひたすら流れていた。首を戻せば何度も使い回されたサングラスをかけオープンカーを乗りこなす主人公の顔面のアップをまた見せつけられる。この映画、予算がなかったのだろうか。

「う……ん」

 夕衣が小さく呻き、テーブルと俺の背が揺れる。足を前に突き出すように崩し、背もたれにしていた彼女自身のベッドに体重を預けた。

 スカートがずれ、ストッキングを履いた脹脛が露わになる。ストッキング越しに彼女の白い皮膚から透けた青い血管が確認できた。俺が数合わせという体で参加した合コンに、本当に欠席者の代わりにやってきた彼女が「ビール頼まれましたよね」と店員から受け取ったジョッキを差し出す。手の甲に透けていた血管の青さに「肌、白くて綺麗ですね」と返したのが始まりだった。今考えればオレンジ色の照明の影響もあったのだろう。だが俺の口説き文句に固まって頬を染めていた彼女に“脈あり”と判断してから半年かけてようやく恋人となれた。

 夕衣は丸めていた腰を伸ばすように肩を後ろに引く。大きめの、窮屈な下着に抑え込まれても存在を主張する胸が俄かに揺れ、白い喉元が強調された。

 ぞくりと背筋が震え、下半身に熱が集まった。

 半年に加えて三カ月。ようやく首を縦に振った時に済ませたかったキスだって一カ月待ったのだ。“清楚さ”を優先してやるのはもういいんじゃないか。

「夕衣」

 彼女がこちらを向く前にローテーブルを俺自身の方へ引きずり、人が入れるくらいのスペースを作る。夕衣は殆ど紅茶に手をつけていなかったらしく、琥珀色の液体が彼女の胸以上に揺れた。

立ち上がりテーブルと彼女の間に無理やり尻を滑り込ませる。不思議そうに見上げてきた夕衣の頬を撫で、肩に手を回した。

「勝尾君?」

「ん」

 肩を抱き寄せ、髪に鼻を埋める。息を吸えば甘い香り。柔らかい髪が頬に当たり心地良い擽ったさに舌なめずりをした。

「どうしたの急に」

 まだ清楚ぶってるのか。二十を越えてるのに本当にわからないのか。どっちでも愚かしくて可愛らしい。返事の代わりに耳元でもう一度名を囁けば、抱いていた肩が強張った。

「急じゃないよ。ずっとこうしたかった。出会った時から、ずっと」

 耳朶に唇を添える。鼻にかかった声が漏れたのを確認し、項にかかった髪を一房摘まみ、そっと除ける。

「勝尾君。ねぇ映画」

「そんなのはいい。夕衣だってさ。前にカップ買った時から期待してたんだろ」

「期待? だってあれは勝尾君が付き合い始めてすぐ『自宅デートが好きだから置いてほしい』って前に渡してきて」

「煩い口は塞いでしまおうか」

 唇を狙えばそっと顔の前に手を差し込まれる。ならばと首筋に唇を落とせば、「勝尾君!」と夕衣が情事の始まりには相応しくない怒鳴り声を発した。

「いくらなんでも驚き過ぎだろ。リラックス、リラックス。怖くないぞ」

「ちょっと、どうしたの。本当にやめてよ」

 耳元に息を吹きかければ「ひゃっ」と色気のない声がして内心溜め息をつく。“清楚さ”もここまでくれば白けるってのがわからないのか。覆いかぶさるように体勢を変え、閉じられた足を太腿で割り開かせて位置取りをする。服の隙間から胸に手を差し込もうとしたが、今日に限って面倒な構造をした服を着ている。苛立たしさを飲み込みつつ「大丈夫だ」と頭を撫でた。途端、腕の中から「やめてよ! 警察呼ぶから!」と張り裂けんばかりの声量がして俺は思わず上体を起こした。

 思考が、身体が一瞬強張って真っ白になる。目の前の女は今何と?

「警察だと?」

 答える前に夕衣は素早く俺の腕の中から這い出て、テーブルの向こう側へ逃げ出す。スマートフォンに表示された“一一〇”を俺に突きつけていた。

 下半身に集中していた熱が全身に回っていた。心臓がどくどくと鼓動を早める。警察? どうして?

「帰って」と冷徹な声が俺を刺した。

 夕衣の背後では相変わらずレースカーテンが揺れている。そこで俺は夕衣の馬鹿みたいに大きな悲鳴が外に漏れたのを知った。頭に血が上る。吐いた息が熱く、その息を切るように舌打ちをした。

「帰って頭冷やして勝尾君。これ以上何かするなら本当に呼ぶから」

 両手でスマートフォンを掲げたまま、夕衣は仁王立ちをしている。逆光で砂時計のようなシルエットの影が俺に落ちる。隙間風がカーテンと共に彼女のスカートを揺らしている。不思議な構造をしているそれは膝下から足首までの生地がレースカーテンのように透けて、フローリングを踏みしめている夕衣の白い足を見せつけていた。


 待て、ここで購入したんじゃないか。あるいは系列のショッピングセンターで。

 脳は必死にそうじゃない理由をかき集めようとしている。だが一度そう捉えてしまった疑問は拭い去れない。いや疑問なのか。疑問と言うより……。

 仕切りに預けていた身体が前のめりになり、背筋にじんわりと冷たさが広がる。汗をかいていた。緩く首を振って鏡を見ればあいつに負けず劣らず青白い額から汗を流す自分の顔が映っていた。

 そんなことはありえない。第一、“そうだったとしても”一体どういう意図でここに置いたんだ? 店員に見つかればどういう罪に問われるかは知らないが、下手したらそれこそ警察沙汰だ。

 でも。

 違う、違う。疑心暗鬼になっているだけだろう。俯き髪をかき上げれば汗が手の平につく。視界にちらつくワンピースから目を逸らし、手の平を凝視する。手の皺を沿って汗がつたっていた。意識を断ち切るように腰あたりで何度も拭う。手の平がじんじんとする。鏡をもう一度見ようとして思い留まる。俺の顔が青白かろうがそんなのはどうでもいい。衣服と全身のバランスを確認するための大きな仕切り一面を使った鏡には当然ワンピースも映っているのだ。

 顔を上げないようマットレスの小さな染みを睨みつける。よく見れば俺のものではない長い黒い髪の毛が一本落ちていて、爪先でそっと鏡の近くに押しやる。掃除をしろよと悪態をつく元気はなかった。

 記憶が本のページをめくるように切り替わりながら勝手に脳内で再生される。

 量は少ないが美味しかったナポリタン。つまらない映画。温い紅茶。ここまでは良かった。

 捲れたスカートから伸びる白い足に、豊満な胸。黒髪に隠れた項は間違いなく俺を誘っていたのに。

 夕衣の眉をつり上げた顔が浮かぶ。拒絶の声が耳にこびりつき離れない。

 どうして、と改めて怒りが沸々とこみ上げくれば、更に記憶のページは勝手に捲れていく。乱れた黒髪がカーテンと共に揺れ仁王立ちした姿が瞼の裏に浮かんだと同時に不吉な疑問に辿り着いてしまった。

 さっきの髪の毛、夕衣と同じ長さじゃないか?

 途端、前に明らかな気配を感じる。マットレスには相変わらず茶色い染みがついていて、自分の靴下以外の足は何もない、はずだ。なのに背中を丸めた俺を見下ろしている何かがそこにいた。俺の汗で変色しているシャツの背にむず痒いほどの視線が刺さっていた。

 気配が動く。ふわふわとした何かが俺の背を、頭を、爪先を、撫でては離れてを繰り返し堪らず目をギュッと閉じた。

 一昨日のカーテンが浮かんで消えた。それよりも、もっと荒唐無稽だが鮮明に想像できる光景が瞼の裏に浮かんでしまっていたからだ。

 目の前のワンピースに丸めた背中の上を取られ、襲われている。夕衣の代わりに俺に復讐に来たのだ。

 喉の奥から悲鳴が出かかった瞬間だった。

「着たぞ。見るか」

 ゾッとする恐怖から引き上げるように不機嫌な低い声が仕切りの向こうからしてシャッとカーテンの引かれる音がした。「いないのかよ」と不貞腐れた声から少しして軽快な足音が近づいてきた。「ごめん。トイレ行ってた」と謝りながらも、チカの語尾は楽しげに震えていた。

「似合うじゃん」

「本気で言ってんのか」

「本気も本気だよ」

「この砕いたクッキーみたいな柄はなんだ? 上と合わせてメロンパフェみたいだろ」

 「お前はメロンソーダパフェと一緒に歩きたいのかよ」と深刻そうな声が却って滑稽さを生んでいた。その後の「上がメロンソーダを模したゼリーで下がシリアル?」と見当違いの相槌が一層哀れだった。

 はあ、と息を吐き、瞼をそっと開けた。心臓の鼓動が早まり、無性に喉が渇いていた。非常に認めたくはないが、隣のカップルのくだらない乳繰り合いが俺の思考を正常に戻してくれた。

 思い切って丸めた背を伸ばし前を向く。当然だが、この個室には俺しかいなくて、目の前にはただの白いワンピースがかけられていた。念の為、鏡越しにも確認する。汗だくの男とただの布切れが映っている。

 乾いた笑いが喉奥から出て、まじまじと白のワンピースを眺めた。ハンガーにかけられた白のワンピースはたしかに一昨日夕衣が着ていたものと同じ形をしていた。だがそれが何だと言うのだ。我ながら何故恐怖を覚えたのか馬鹿らしくなる。妄想で汗だくになった自分の姿に頬が熱くなった。

 ワンピースが一昨日の復讐に襲ってくるって何だ。それに今まで何もないのだ。大丈夫に決まっている。

 だからただの偶然。それ以上でも、それ以下でもない。

 夕衣の家の最寄り駅まではここから電車を一回乗り継いで四十分程度だ。それに同じ系列の店舗が探せばもっと近くにあるだろう。ファミリー向けのショッピングセンターは都会だろうと田舎だろうとその土地の他の店舗を踏み潰しながら“何でも揃う場所”として全国各地に未だ拡大をし続けている。きっとそこで購入して一昨日俺とのデートに着ていた。それが全てだ。

 ショルダーバッグを肩にかけ、ダークブルーのシャツを手に取る。新しいのに変えればいいとシャツで顔面を乱暴に拭いた。

 もうシャツだけ購入して帰ってしまおう。酷く重い身体を引きずるように分厚い扉代わりのカーテンに手をかける。

 やっぱりあの女とは別れた方がいい。こんな妄想を俺に抱かせた時点で未来はない。

 今すぐにでもスマートフォンでメッセージを送りつけてやりたくなったが思い留まる。それでも勢い余ってショルダーバッグの中を見ようと捻った首が、瞳は背後を視界に捉えた。

 それがいけなかった。

 「わあっ」と叫び声と共に飛び出し、カーテンを引き裂かんばりの力を込めて引っ張る。靴も履かずに飛び出し四つん這いになれば、例のカップルが驚きを隠さず俺に心配げな視線を投げかけていた。

「大丈夫ですか?」

 俺に駆け寄ろうとするチカの腕を試着室のカナタが掴み下がらせる。商品タグがついたままの蛍光緑のシャツと白地にカーキ色のよくわからない円形の模様が散りばめられたハーフパンツを履いた強面の男が靴の踵を踏んで俺に近づいて来ようとした。

「体調が悪いのか。だったら店員を……」

「体調なら救急車の方が」

「ああ、大丈夫です。大丈夫ですから!」

 立ち上がろうとして膝に力を入れたものの、ふらつき腹から床に崩れ落ちる。ショルダーバッグが音を立てて口からスマートフォンが滑っていった。

 蛙のような姿勢。そんな言葉が脳裏を掠め俺はスマートフォンを握りしめ、今度こそ立ち上がると小走りで去る。背後から「本当に大丈夫……」と聞こえたが気にしている余裕はなかった。

 心臓が煩い。息が吸えなくて苦しい。ダークブルーのシャツを一番近くのハンガーラックの上に放り投げ、このフロアから離れることだけを考えようとした。


「こっちが下手に出てればいい気になりやがって!」

 安物のカップは窓にぶつかると粉々になり、カーテンと夕衣のスカートを汚した。

 殆ど口をつけていない夕衣の方を投げてやった。だから琥珀色の液体がじんわりとワンピースの透けている部分に広がっていく。いい気味だと俺はわざと豪快に笑った。

 夕衣は呆然と俺と自分のスカート、そしてカップだったものを交互に見ている。唇が震え、瞳に水の膜が張り出していた。

「泣けばいいと思っているのかよ」

 ハッとして夕衣は定まらなかった視線を俺に集中させた。右手でスマートフォンを、左手でスカートを握りしめている。水の膜が破裂し頬を伝い、床の液体に落ちた。

 生意気に俺を一心に睨みつけていた。泣いて黙って睨めば俺が許すとでも思っているのだろう。

 どうしてやろうか。テーブルを蹴り飛ばして一歩夕衣に迫る。自然に握りしめられていた拳を振るうか否か。そう考えたところでこいつのスマートフォンの画面がまだ“一一〇”の表示を映しているのを発見する。窓も相変わらず開いている。

 証拠が残ってしまう。スマートフォンを取り上げ組み伏せても小賢しいこいつはきっと診断書を取って俺を訴えるだろう。“合意”だと潔白を証明する自信はあったが、殴ってしまえば傷害罪だ。経歴にこんなことで傷をつけるのは避けたかった。

「お前こそ頭を冷やせよ。その“水”で」

 スカートの右裾を綺麗に染め上げた紅茶だったものはフローリングの隙間を辿り広がっている。掃除も罰として与えるには丁度いい。

「今日はもう帰るわ。反省したら連絡してこいよ」

 最後にもう一度釘を刺し、玄関へ足を進める。泣いたからあちらの負けだ。泣くってのは自分が悪いと自覚しているのだから。

 ポツリと背に言葉を投げられたような気がしたが、負け惜しみだろう。後ろ手で右手を振り玄関を出た。


 スマートフォンを取り出そうとしなければよかった。首を横に捻らなきゃよかった。

 何度息を吸おうとしても、肺が握りしめられているような感覚がして酸素が行き渡らない。乾いた口と喉が詰まった排水溝の音を出す。足を縺れさせながらショッピングセンターの出入り口を目指している。ショルダーバッグの中に入れたミネラルウォーターのペットボトルを開けるよりもここを立ち去る方が先決だった。

 早歩きは小走りとなり、テナント店が建ち並ぶ前の通路を駆けていく。途中家族連れの父親と肩が触れ合い、「危ないなぁ」と苦言を呈された。

 出入口が視界の端に飛び込んできた途端、いよいよ全速力になる。周囲の人間が俺を避け、怪訝な顔を浮かべていたが恥も外聞も捨て去らなければならない事態だった。

 何であれくらいで怒るんだよ。お前がそんなに嫌がるから一昨日は手を出すのも止めたのに。弁償もするって言ったのに。なのに、なんで。

 瞬きする度に白のワンピースが浮かぶ。一昨日の夕衣の姿でも、艶めかしい足でもない。涙を流しながら震えて睨みつけてきた姿が。汚れた白が。

 汚れた白が。

 試着室にかけてあった白いワンピースも何故か同じように汚れていた。気づいた途端、鼻腔をついたのはあの部屋の匂いだった。

 あれは夕衣のワンピースだ。俺が投げつけた紅茶を浴びた、俺が脱がせようとしたワンピースだった。

 夕衣の憎悪に染まった顔が浮かぶ。驚愕に溢れた見開かれた瞳が記憶にこびりついている。

 カーテンが、スカートがそよ風で揺れている。試着室で俺を包み込もうと……飲み込もうとしていた。

 出入口からゆっくりと入店しようとするガキが俺の剣幕にビビッて硬直する。そのまま突き飛ばして遂に悪夢の店から脱出を果たした。

 そのままスピードを緩めず、駅改札に向かう。足は重く、いよいよ酸素不足の脳がくらくらとしてきた。だが高架型のデッキの角を右に曲がればもう駅北口なのだ。

 これでやっと──


「お客様、大丈夫ですか?」


 突然若い女の声が隣からして俺は身体をのけ反らせた。

「先程試着室前で転ばれてましたよね。随分と顔色が悪いようですが……」

 見覚えのある制服の上についた顔が心配気に歪んでいる。それ以上に顔を歪ませた俺が女の瞳に映っていた。

「だ……大丈夫です。それより」

「このハーフパンツならいいんじゃない? 見て。可愛い猫が沢山いるよ」

「お前のパジャマみたいだろ」

 聞き覚えのある声が背後からした。振り返りたくない。周囲を確かめたくない。けれどここで“店員”の顔をひたすらに見つめているのは不自然だ。気力を振り絞り、俺は店員から一歩距離を取った。

 ハンガーラックで作られた道に有線放送で流れるアップテンポのラブソング。楽しげな制服姿の学生集団に、遠くから駄々をこねるガキと諫める母親と思われる声。喜怒哀楽が緩やかに騒がしい老若男女揃ったここは。この場所は。

「じゃあ本命のペイズリー柄のパンツ探そうか」

 チカが声を弾ませている。詳細な会話内容までは聞き取れなかったが、カナタが低く唸ったのだけは耳に入ってきた。

「あの」

「ええ」

 「ここはどこですか」と尋ねかけて口を噤む。尋ねなくとも、もう理解してしまっていた。くしゃくしゃにしたベージュのシャツが折りたたまれていた。そして俺の手には投げ捨てたはずのLサイズのダークブルーのシャツがきちんと握りしめられている。俺の汗を吸って一部が変色しているから間違いない。

「大丈夫です。本当に」

 取り繕って満面の笑みを浮かべれば、店員は僅かに不審げな表情を浮かべた後に「何かありましたらレジまで」とお辞儀をして去っていった。

 ガンガンと耳鳴りがしていた。息を吸えない肺が酸素を訴え、刺すような痛みが走る。たしかに俺は全速力で走ったのだ。

 足に力が入らない。どこかに座って落ち着きたい。パニックになりそうな心を落ち着かせようと胸に手を添えたものの、弾け飛びそうな鼓動を感じ取り、一層背筋が凍る。

 震える唇を噛みしめてふらふらと歩き出す。とりあえずこのシャツを戻そう。何か目的がなければ本当に言葉にならない声を叫びながら正気を失いそうだった。


 ショッピングセンターに戻ってきている。いや、俺だけ試着室を出てからの行動が全てなかったことになっていた。


 背後──丁度試着室だ──からクスクスと気味の悪い笑い声がして俺はその場で意識を失った。


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