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近場千花は怪異に気づけない  作者: 高崎まさき
2.泥濘の赤い綱
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1―1 ようこそ後悔と境界へ

 数カ月の辛抱だと言うけれど、もう一ヶ月半にして限界かもしれない。

 図書室の奥。レンタルして使用する会議室の空気は開始ものの十数分で皮膚がひりつき始めた。長机を二つ向き合わせて着座するのは私含めて五人。どうか、どうか帰らせてほしい。

「で、何を調べるんだっけ」

 そんな空気を断ち切ろうと金本君がへらへらとノートパソコンを開く。

「そこから? 気になった二週間以内のニュースを一つ選んでその都道府県の民話や伝承を一つレポートにまとめて十分で発表でしょ」

 グロスが輝く唇がうねる。頬杖をついて悪態をついたのは日渡さんだ。

「高校の日本史の授業かよって思うよなぁ。あんまり重い話はナシな」

 スマートフォンの画面が脂ぎった顔を照らしている。水原君はノートパソコンすら開かず相変わらず節くれだった指を液晶に滑らせていた。

「ニュースなんてどれも重いじゃないの。というかニュース見てる人いる? とりあえず栃木でいい?」

「何で栃木?」

「東京にコンプレックス丸出しとかネタにされてるじゃん。千葉も群馬も埼玉も神奈川も」

「そういう悪ノリ、差別とかって言うんだぜ」

 水原君と月川さんのギャハハと品のない笑い声が会議室に響く。お前らなぁ、と金本君がニヤニヤしながらトートバッグからポテトチップスの袋を取り出した。

「ちょっと、食べるの?」

 図書室の会議室は本を守るため原則飲食は禁止だ。熱中症対策から蓋が閉まる飲み物の持ち込みだけは許されているが、よりにもよって油が確実に手指につく菓子を。途端四人の視線が私に集中する。頬のピンクのチークと黒髪のコントラストが幼さを醸し出している月川さんも、もはや赤に近い茶髪からちらつく金の輪っかのピアスの日渡さんも、金髪の輝きと同等に顔をテカらせた筋肉質な水原君も、イヤーカフと棘状のピアスが痛々しい金本君も全員眉根を寄せていた。

「相沢ちゃん真面目過ぎない?」

 破裂音がしてポテトチップスの袋が中央から裂かれたように開く。机の中央に置かれ、四人が皆手を伸ばした。

「バレたら怒られるじゃない」

 というか最悪二度と借りられなくなってしまわないか。会議室だけでなく、図書室の本が。共用の物を正しく使わずに故意に破壊するのはそれくらいの罪だろう。

「怒られるの気にしてたら人生楽しめないよぉ」

 月川さんが大輪の薔薇が装飾された指先でポテチを口に運ぶ。コーティングされ人工的な光沢をまとっていたはずの爪がぎらぎらと輝いている。

「そうそう、何も捕まるわけじゃないし」

 水原君がグレープソーダの缶を開ける。プシュっと空気の抜ける音がして白い机に紫の液体が飛び散った。慌てて鞄からティッシュを取り出して拭けば四人がまた下品な笑い声を上げた。

「ごめんって。そんな慌てなくても」

「慌てるよ」

 紫の斑点の十数センチメートル先には私が借りてきた「民俗学の基礎」と書かれたハードカバーの本が置かれていた。

「相沢ちゃん。そんな馬鹿みたいにでかい本借りてきてえらいよね」

「課題に必要じゃないの」

「ただ地方の民話やら伝承やらを一つまとめるだけなのに?」

 日渡さんの大きなピアスが首の代わりに揺れた。

「日渡は馬鹿だなぁ。そりゃあレポートの文字数稼ぐにはいるだろう」

「文字数稼ぎじゃなくてさすがに基礎は押さえた方がいいでしょう」

 私達が四月から受け始めた講義名は「民俗学基礎」で、本来だったら一年生で取得すべきものなのかもしれない。社会学部とは多くを学べるが故に自ら学ぶ対象を絞らなければ知識が広く浅くなってしまう。どの教授も口を酸っぱくして講義の初回に忠告してくれるが、私はまだ何を専門にするか方向を決めかねていた。ゼミが始まる来年までには決めたいとあえてとったのが民俗学だった。視野を広げたい、そんな気持ちで未知の領域に手を出したと言っても過言ではない。

「これ読んだの?」

「一応は」

「じゃあ、じゃあさ。うちの班は今回も相沢さんリーダーで進める。うん、そうしようよ」

 月川さんがポンと顔の前で両手を合わせた。

「そうだな、頼むよ相沢ちゃん。いつもどおり俺たちを導いてくれ」

「お前らやめろよなぁ。……じゃあ副リーダーは俺で」

 水原君が突然立ち上がりティッシュを握っていない方の手を取った。月川さんが冷ややかに私をねめつけた。

「え……」

 びっくりして手を引っ込めれば、水原君が小さく息を吐いた気がした。背筋がぞわっとする。反対の手でグレープソーダが染みこんだティッシュを握りしめていれば、べたっとした感覚が手のひらを汚す。四人の瞳がまたじっと私だけに集中した。

「いいじゃん。相沢ちゃん真面目だし? 一番やる気あるし。絶対先生もウチらが作った資料で発表するより相沢ちゃんが作った方が喜ぶって。適材適所ってやつ」

「『毎回よくまとまっているな』なんて言って」

「それ、仙崎先生の真似? 似てねぇー」

 また不快で下品な笑い声。ティッシュはピンポン球くらいに小さくなり私の手のひらの中で堅く握りしめられている。期待と侮蔑がこもった視線がまた皮膚をひりつかせた。

 私は──

「そうだね。いいよ」

 お決まりの言葉を吐く。期待と侮蔑の色がしてやったりと歓喜の色に変化した。

「マジでぇ。じゃあさっそくリーダー」

「待って」

 月川さんが立ち上がり黒のエナメル製の大きな鞄を勢いよく机の上に置く。軽くなったポテチの袋が動き、缶とペットボトルが揺れた。

「月川。どうしたんだよ」

「なんで相沢さんの前では名字呼びなの」

 「いつもは鈴って呼ぶのに」と低く唸る。そういえば自己紹介の時に月川鈴って名乗ってたっけ。金本君がにたにたと口角を上げ、日渡さんに目配せした。

「おいおい。別に」

「私も今回は副リーダーやる。二人いたっていいでしょ。で、テーマは勿論」

 空気が更にひりついていく。一体水原君と月川さんは何を揉めているのだろう。

 月川さんがスマートフォンと手のひらサイズのメモ帳を出す。メモ帳は不自然に汚れ、隙間から見えるページがなんとなく黄ばんでいる気がした。

 ガタン、と金本君が椅子を倒す。日渡さんが喉を引きつらせた悲鳴を上げた。

「どうしたの!」

 思わず声を張れば腰を抜かした金本君が大きく首を振る。日渡さんに視線をやれば青白い顔で髪を振り乱していた。

「──県の令藍村に行ったでしょう。相沢さんを除いた全員が」

「何でそれを持ってるんだよ!」

 水原君がメモ帳に手を伸ばす。月川さんは知っていたかのように手を払いポテチの隣でそのメモ帳を開く。薄汚れている以外は何も書いてない、ただ罫線が六ミリか七ミリ間隔で引かれたコンビニの文房具コーナーで売っている、そんなありきたりなものだった。

 途端、ドンと鈍い音がして部屋全体が揺れる。縦揺れ、というのだろうか。上昇するエレベーターが突然止まったような重力が全身にのしかかり、白い机に突っ伏して目をぎゅっと閉じた。「何! 嫌だ、嫌だ!」と日渡さんの叫び声がする。月川さんも甲高い悲鳴を上げ、カンカンと空の缶が床に転がった。水原君の怒号と金本君の罵声もしたが、呂律が回っていないのか何を言っているかはわからなかった。

 やがて。

 身体が軽くなりゆっくりと目を開ける。瞼に力を込めていたらしく、視界の周囲が黒く染まりゆっくりと消えていった。

 鮮明になった視界にとびこんできた光景に私は思わず息を呑んだ。

 仰向けの金本君、尻餅をついている日渡さん、机の縁にしがみついて膝立ちの月川さん、「大丈夫か?」と不安げに私に手を伸ばす水原君。

 全員の胸から赤い糸……にしては太い綱のようなものが伸びていた。

「相沢ちゃん? 今の地震怖かったよな。震度は……あれ? 電波が」

 床に転がったスマートフォンを拾おうとして水原君がようやく自身の胸の異変に顔を強張らせる。「何だよ、これ!」と声を震わせながら胸をかきむしるように綱を掴もうとした。

 が、掴めない。プロジェクターに映し出された映像が近いのかもしれない。手で遮れば一瞬は消える。だがどければまたしっかりと綱はその場に存在していた。

 頷きあってもないのに私達はその綱が伸びた先を目で追っていた。水原君の胸から出た綱は月川さんが開いたメモ帳へと繋がっている。そしてメモ帳からは更に三本。金本君、日渡さん、月川さんの胸の綱と繋がっていた。

 呻き声が次々と上がり、残りの三人も何とか意識を現実に引き戻してくる。だがそれぞれ自分の胸元に気づいては悲鳴を上げ、水原君は足をもつれさせながら会議室唯一の中央に細い磨りガラスが埋め込まれた扉のノブに手をかけた。

「ふざけんな、開かねぇぞ!」

 何となくだが、察してはいた。オカルト、お化け、妖怪。各地に伝わる伝承や民話にはそんな話ばかりだが信じちゃいなかった。例えば神隠しは家族を養えない人間達が高齢者や幼子を山や森に捨てた罪悪感を減らすための作り話……そんな認識で講義を受けていた。

 けど、目の前の現実をすんなりと受け入れている。超常的な何かに今私達は巻き込まれている。

 金本君がドアノブを激しく回す音が背後でした。間違いなく、開かないだろう。背筋が冷え、口が乾く。鞄の中のペットボトルで喉を潤したかったが、いつ脱出できるかもわからない状態で貴重な水分を摂取するのははばかられた。

「月川ぁ!」

 日渡さんが月川さんに飛びかかる。鈍い音がして月川さんの黒髪がコーティングされたビニル床に広がり、日渡さんが胸ぐらを掴む。

「やめなよ!」

 振り上げた右手に駆け寄るが間に合わず、頬を張る音がした。

「金本君も、水原君も手伝って!」

 背後から羽交い締めにして、馬乗りになっている日渡さんを月川さんの上から退かそうとするものの、日渡さんの全身は硬く強張って全く動かない。金本君と水原君の方を睨む。金本君はドアノブを握りしめたまま、泣きそうな顔で首を横に振る。水原君はほんの少しこちらに手を伸ばしたまま直立不動だ。使えない! 悪態をつきたくなるのを堪え、腰を落とし再度力を入れれば「ぎゃあ」と悲鳴と共に力が抜け逆に仰け反り倒れ込んでくる。何とか踏みとどまりながら引きずっていく。カチャカチャとピアスが不快な音を立てた。

「アンタ、よくも」

「うるせぇ! いつも金本と陰口叩きやがってうぜぇんだよ!」

 眉をつり上げた月川さんの頬はチークをかき消すくらい真っ赤だ。視線を落とせば薔薇の爪が赤く染まっている。日渡さんの左腕に赤い筋が入っていて、プツプツと珠が浮かんだ。

「落ち着いてよ。色々あるんだろうけど、今はっ」

 鳩尾に鈍い痛みが走り、言葉の代わりに空気が口から吐き出された。足首を捻り、今度は私が尻餅をつく。日渡さんの肘がめり込んだ腹を押さえて呻けば、二対の瞳がぎらぎらと私を見下ろした。

 二人とも唇をわなわなと震わせている。グロスが輝く日渡さんのそれも、クレヨンで塗り潰したような月川さんピンクのそれも、むき出しになった真っ白い歯を囲い私を獲物と狙い定めているようだった。

「相沢ぁ」

「正しく繋げて、捧げよ……?」

 どちらが名を呼んだのか、あるいは両方なのかわからないが恨みがましく呼ばれた名の先は、たどたどしい水原君の一言でピタリと止まった。

 揺れのせいで少しずれてしまった二つの白い机の中央のメモ帳を金本君が食い入るようにのぞき込んでいる。這って机に近づき、手をかけて無理やり身体を立たせ首を前に突き出す。開かれたメモ帳の中央に赤い斑点がいくつも見えた。四人の胸から繋がった綱の他に蚯蚓が這った字、とでもいうのだろうか。砂利道の上に半紙を敷き小筆で書いたような文字だった。 

 正しく繋げて、捧げよ。

 簡潔をはき違えた情報不足の問いがただ投げかけられている。

「電波も圏外。ドアも開かない……おまけに窓の外も」

 異常事態にしては落ち着いた声だった。金本君がふらふらと執着していたドアノブを離し、閉じたカーテンの隙間に引き寄せられる。会議室を借りている時刻は午後一時から三時だった。天気予報は快晴。仮に突然雷雨に襲われたって外は濃い灰色に覆われるくらいなはずだ。だからありえないのだ。

 金本君が意を決してカーテンを両手で開く。外はペンキが入った缶の中のような黒のみ。建物も、図書室の周囲に植えられていた樹木も何もない。念のため窓の鍵をいじるが、カチャカチャと音を立てるだけで、今度は諦めよく手を離す。もう結果を予測していたのかもしれない。ただの黒にカーテンに付着していた埃がきらきらと状況と不釣り合いに光り輝いていた。

 私達は全員その場で立ち竦んだ。瞳だけがぎょろぎょろとそれぞれの顔色をうかがっている。先ほどの皮膚がひりつくのとは違う、気を抜けば崩れてしまうナイフの上で立たされているような感覚だった。

 誰もこの異常事態を大なり小なり恐怖を感じてはいるものの、驚いてはいなかった。予想どおりではある。噂は真実で心当たりがあり過ぎる四人だから「もし本当にオカルト的な存在がこの世にあるのなら、こうなってもおかしくはない」のだ。

 巻き込まれた私からすれば大迷惑だが、今は軽蔑している場合ではない。

「これはやっぱり令藍村の……なのか」

 水原君が空のポテトチップスの袋を床に腕で払い落とす。そしてずれた二つの机を整えた。

「こんなもの持って帰ってくるからいけないのよ! 責任取れるの月川ぁ!」

 錯乱とはいかなくとも一番この状況を受け入れたくないのは日渡さんだった。これ見よがしに月川さんの服に血液を擦りつけるように左腕を押しつけた。

「うるせぇな! 日渡! これだから馬鹿は……いいから座れよ」

「馬鹿? ねぇカネ……」

「日渡さん、とりあえず今は座ろう?」

 金本君の暴言に思うところはあったが、今はそれどころじゃないし私が関与することでもない。鳩尾の恐怖を堪えながら、パイプ椅子を引く。ビニル床とパイプが擦れる感触が手に伝わった。

 日渡さんのウェーブがかった明るい茶色い髪は乱れ、顔の前に何束か垂れ下がりグロスが付着していた。隙間から眉間と目尻に皺を寄せた悲痛な顔をのぞかせている。

 日渡さん、ともう一度肩に手を置く。すると乱暴に振り払いパイプ椅子を軋ませて着座した。

 ハッと月川さんが鼻で笑い、同じく座る。偉かったな、と水原君が何故か私の頭に手を乗せようとしたので躱し、元々座っていた席へと移動した。

 ノートパソコンや本、スマートフォンを机に出していた者達はそれを鞄へとしまう。誰が命令したのでもないが、机の上には四人の胸から綱が繋がっているメモ帳、何人かのペットボトルだけとなり、私から時計回りに月川さん、水原君、金本君、日渡さんと座った。床にはポテトチップスの袋と空き缶。全てが解決したら片さないといけないなと呆れる余力はまだあった。

「色々言いたいことはあるだろうけど」

「水原何仕切ってんだよ。もしかしてぇ」

「……じゃあお前が仕切ってくれ。金本」

「そういうつもりで言ったんじゃないですけど?」

「話を進めてよ」

「元凶が俺に口出しすんな!」

 金本君が机を蹴り飛ばし対岸の私、月川さん、日渡さんの腹に机の縁が食い込みそうになり、ショルダーバッグを膝の上に乗せ咄嗟に挟んだ。月川さんと日渡さんがハッとして机を両手で叩く。信じられないものを見る目で金本君をねめつけた。

「おい! 大丈夫か。あいざ……」

「詳しくは知らないけどそのレイアイ村ってところに四人で行ったのがこの原因なのよね? だったら私が仕切る。そっちの方が公平でしょう」

「外野がいい気に」

「外野だから。それにグループ発表のリーダーも私がいいって言ってくれたじゃない」

 埒があかない。私は努めて語気が強くならないよう、ゆっくりと言葉を紡いだ。

「緊急事態こそ平常心っていうでしょう。いつもどおりやるから」

 そっと立ち上がる。そして四人全員の顔を胸の赤い綱を見渡し、続けた。

 

 この講義はグループワークが主体となります。まずは五人で組んでください。教授の穏やかな声で私は大学の講義室にしては狭いその部屋の端から端まで視線をやった。あいにくと友人達は皆一年目で履修したか興味がないかの二択だった。

「あいちゃん一人で大丈夫?」

「トイレに一人で行けない高校生じゃないんだから」

「そうじゃなくて」

 隣を歩く友人がそっと耳元に顔を近づけてくる。私の方が背が高いからつま先立ちになっていて私は立ち止まり膝を曲げた。

「どうしたの」

「あの四人も民俗学取ってるらしいんだよ」

「何その不良グループみたいな言い方」

「みたいじゃなくてそのもの。ううん、もっとタチが悪い」

 金本、水原、月川、日渡。男女二人ずつの仲良しグループ……といえば聞こえはいいが彼女曰くロクデナシ集団らしい。

「心霊スポットってあるじゃん」

「真偽不明だけど大量殺人があった廃村とか人体実験が行われていた廃病院とかそういうの?」

「うん。そういう“いわくつきの場所”の中でもとんでもない悪霊が出るって言われてる場所に四人で行って肝試しっていう名の不法侵入を繰り返してるんだって」

 内緒話の声量を越えた友人に苦笑しながら私達はまた歩き出す。キャンパス内に植えられた桜の木はもう葉を出し薄紅と緑が混ざり合っていた。

 それだけでも大問題だが更にわざわざ怖くないと自慢げにその心霊スポットで花火やバーベキューをしてSNSに写真を投稿しているらしい。歩きスマホは危ないと忠告する私を無視し彼女はスマートフォンを取り出すと私の眼前に画面を突きつけてくる。腐りかけの木材──廃屋の柱だろう──を背にして四人が花火を振り回している。火が点いたらどうするつもりなのだろうか。

「これ呪われないのかな」

「さあ? お化けとか信じるタイプだっけ?」

「そんなに信じてなくてもこういう場所ってヤバそうじゃん。触らぬ神に、というか。もし本当にお化けがいたら死んじゃうかもしれないし。私なら呪うよ、自分が苦しんで死んだ場所を荒らして茶化しにくる奴等なんて」

 心底軽蔑している、そんな顔をして友人は次々と“余罪”を私に見せつける。スマートフォンには煙をもくもくとあげるコンロの前で肉を頬張る姿が映っていた。付け足された文章は「ここでは二十年くらい前に生きたまま焼き殺されたいじめられっ子の霊が……」。頭痛がしてきた。思わず額を押さえれば、友人が躓いて転びそうになる。

「危ないなぁ」

 腕を掴みため息をついた。

「ごめん」

 スマートフォンをしまいながら友人が眉を下げて笑う。とにかく。

「要は数合わせでその馬鹿四人と一緒のグループにならなきゃいいのね」

「そうそう。ただでさえヤバいのに更に」

「まだあるの」

「なきゃ転びそうになってまで忠告しません」

 友人の顔に嫌悪感以外の感情が滲む。唇の前に手をやって鼻にかかったような声を出した。


 結局、他に組める相手がいなかったのだ。私と同様に一人で講義に臨む人で固まろうとしたものの皆既にグループで参加している。「まだ決まってない人」と随分残酷な教授の問いに挙手すれば「じゃあそこの四人と組みなさい」と歯を見せられた。

 あの時の友人には「馬鹿!」と叱られた。他の友人には「数ヶ月の辛抱よ。愚痴は聞く」と慰められた。とにかく私は学部でも評判が大変よろしくない四人と前期の講義を受けることになったのだ。

 噂は本当で一ヶ月も経たずに私は舌打ちを堪えながら講義に参加することとなる。まず基本的に毎週の課題を一切やってこない。私が真面目にやったそれをグループ全体の手柄として堂々と発表しては「役割分担」と悪びれないのが続いていた。だが、それくらいならいい。課題に興味がなく、何もしないくらいならまだ許していた。これからも勝手に私が取り繕って提出すればいい。腹の底に蓄積される息苦しさも許そう。

 だって、二回目の講義からずっと“不法侵入”へ誘ってくるのだ。それを断り続けるだけで精一杯だった。自衛しかできない。

 頑張って逃げていたのに。

「心霊スポットのレイアイ村で呪われてこんなことになったって判断でいいのよね。だったら今すべきは全員で呪いを何とかすることでしょう」

 全く検討がつかないし、友人が好奇心を隠さずに告げてきた噂が更に状況を悪化させそうだけど。

 ──あの四人。最近いつもの不法侵入が原因でとんでもない喧嘩して大変だったらしいよ。それからずっと険悪で、えっと……。

 ひりつく空気を無視し続けてきたのに。全く頼りにならない四人が頷き、私達の脱出作戦はこうして始まった。


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