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第59話 宰相ノイマン③

 私は外交官だ。

 戦闘には興味がない。だが、責任感からだろうか。

 いや、単純に好奇心からだろう。


 あの二人はエフタル王国の精鋭部隊を相手に余裕な態度だった。

 魔法使い同士の本気の戦いなど滅多にみられるものでもない。

 それこそ極大魔法の撃ち合いなど、幼いころに読んだ本の世界だ。


 私は好奇心に抗えず戦いを近くで見ることにした。


 夜、月明かりに照らされて周囲は明るかった。


 エフタルの執行官達はグプタを少し離れた場所に駐屯していた。私はルカ・レスレクシオンの後を付けていた。

 ルカは一人だった。昼間にいたセバスティアーナというメイドの姿はない。


 私は近くの森に潜み、事の成り行きを見守る。

 周りは静まり返っているので会話がここまで聞こえてくる。


「ルカ・レスレクシオン。一人で来るとは見直したぞ。大人しく連行されることを選んだということだな? 共のメイドは逃がしたという事か。なかなか殊勝なことだ」


「うむ、吾輩は殊勝である。だがお主の言っておることは両方ともハズレよ。エフタルに戻るつもりも無ければ一人というわけでもない」


「ふん、そう言うと思っておったわ。愚かなことだ。

 ……それにな、俺はお前が昔から気に入らなかった。お前をこの俺の手で殺せるのなら、この無意味な長旅にも価値が産まれるというものだ」


「ほほう、昔からとは熱心なファンがいたものだ。吾輩はお主のことなど一ミリも知らんというのにのう」


「そういう態度が気に入らんというのだ! 皆の者、聞いたな、これよりルカ・レスレクシオンを国家反逆の罪で処刑する。いくぞ!」


 大声が聞こえる。さすが貴族という事か、戦いだというのにいろいろと口上が多い。


 しかし、相手は5人だ、それに対してルカは一人。

 どうするというのだ。


「「「ヘルファイア!」」」


 同時に放たれる魔法。

 それに対してルカは薄ら笑いを浮かべている。

 そして片手を上げると炎の魔法は消え去った。


「なに! いつの間に魔法結界を張ったというのか!」


「いやいや、種明かしをするとだ。吾輩の義手には色々と仕掛けがあってな。これから説明しながらお見せしようという趣向だ」


 ルカは義手を自慢げに頭上に上げ、そして敵に向かって前に伸ばした。


「吾輩の義手は特別製でな、初期型から改善改良を繰り返したのさ。

 実は魔剣なのだよ、正式には十九番の魔剣、吾輩の義手『ザハンド』だ。

 剣とはいったい、とか突っ込みどころはあるがギミック的には色々と凝った作りをしてある、順を追って解説をしていこうかの、では反撃を開始する。

 では行くぞ? 執行官殿。……『魔剣開放』」


 ルカの義手から強力な魔力を感じる。そして義手の指先を前方に突き出した。


「フォトンアロー!」


 次の瞬間。眩しい光が5人に襲い掛かる。

 一瞬周りは昼間のように明るくなった。


 あれは中級魔法『フォトンアロー』の威力ではない。

 下手をしたら5人が同時に放ったヘルファイアよりも威力が高い。極大魔法に近いのではないだろうか。


「おや、執行官殿だけは耐えたか。とっさの判断でシールド魔法を張ったのだろうな。やるのう。

 では解説だ、これには魔力増幅の魔法機械を仕込んでおる。

 そしてあらかじめ吾輩の魔力をストックすることで。自身の魔力出力を遥かに上回る詠唱が可能なのだ。どうじゃ、吾輩は天才じゃろ?」


「……おのれぇ。その才能を王国の為に使わずに下らんことにばかり使いおって。だが、所詮は中級魔法よ。貴様が極大魔法を使えないことは分かっている。

 ならばこれに勝つことはできまい。お前の首をいただくぞ。――極大死霊魔法。最終戦争、第二章、第三幕『亡者の処刑人』!」


 私は初めて極大魔法をみた。

 赤い魔法陣が展開されると、そこから真っ黒い全身鎧に身を包んだ騎士が出てきた。

 手には大きな剣が握られている。


 アレが噂に聞く魔術師殺しと呼ばれる召喚魔法か、中級以下の魔法を全て無効化するというではないか。

 あれを倒すには同じ極大魔法しかない。つまりルカ・レスレクシオンは勝てない?


 まずいぞ、何とか助けないと。しかし私は弱い、ここはあのベアトリクスを呼ぶべきか。それこそ私の権限を全て使って……。


 そう思い私は立ち上がろうとすると後から声が聞こえた。

 声の主は直ぐに真後ろにいて、私の首筋には冷たい鋭利な刃が寄り添う。私はまったく気付かなかった。


「ノイマン様? ここで何してるんですか、死にたいのですか? 危うく殺してしまうところでしたよ?」


 聞き覚えがある声。ルカ・レスレクシオンのメイド、セバスティアーナだった。


「そ、それは。こちらのセリフですよ。私は心配で見ていたのです。セバスティアーナ殿こそこんなところで何を?」


 私がそう答えると、彼女は手に持っていた不思議な形のナイフを下ろした。私は彼女に振り返る。


 私は、彼女の姿に心臓が一瞬停止してしまうかのような衝撃を受けた。


 黒い衣装に身を包む彼女、それは肌に密着するようなタイトなノースリーブの上着にショートパンツ。


 そこから覗く腕や脚は鍛えられており、健康的な美しさだ。彼女の黒髪と相まってか、月の光に照らされている姿はまさに美の化身。


 これ以上の美を私は知らない……。


 私の知ってる女性は皆、美しく着飾ることばかりを考えて何が美しいかなどまるで理解していないのだ。

 そう、目の前の彼女こそ真の美だ。


「……美しい。貴方こそが本物の女神だ……」


「は?」


 一瞬だけ沈黙が流れた。この時間がいつまでも続いてくれることを願わざるを得ない。


 だが、現実は残酷だ。


「訳の分からないことを言ってないで貴方は避難してください。私はアサシンギルドの連中を狩っているのです。正直に言います。邪魔です。次に見たら容赦なく殺しますよ?」


 美しい彼女の口から物騒な単語をいくつか聞いた。

 だがそれでも彼女の美しさは損なわれない、むしろミステリアスさが増してより魅力的に見える。


 ……だが、私は彼女の足手まといになるのは不本意だ。言われたとおりにグプタに戻ることにした。


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