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第49話 冬の帝国

 冬の訪れが近づく早朝、世界はまだ静寂に包まれていた。

 霜が大地を覆い、木々の葉は赤や黄色に染まり、風が凍えるような冷たさを運んでいた。


 この地方は雪はあまり降らないらしい。

 でも遠くに見える山々はすっかり白くなっていた。


 おそらく迷宮都市タラスではもう雪が降っているだろうとセバスティアーナさんは言っていた。


 俺達は今、首都ベラサグンの宿屋の一室を借りて、冬がすぎるまでここで過ごすことにしている。


 高級でも安宿でもない丁度良い価格帯の宿だ。

 オリビア陛下やノイマンさんは、もっといい宿に泊まってもいいと言ってたが遠慮した。


 セバスティアーナさんのお勧めの宿があるというので、俺達も同じ宿にしたのだ。

 その宿は宮殿から程よく距離があるため、ストーカーが寄り付かないそうだ。

 高級宿はいずれも宮殿前の大通りにある。


 なるほど、俺達は納得した。


 冒険者の仕事が無い日の午前中は、俺とシャルロットはセバスティアーナさんに特訓を受けることにしている。

 午後になるとセバスティアーナさんは一人でどこかに行ってしまう。野暮用ということなので詮索はしないことにしている。


 ということで、今日は冒険者はお休みだ。


 いつも通りに宿で朝食を取ると、宮殿の近くにある訓練場にやってきた。


 俺とシャルロットは動きやすい服に着替えているが、セバスティアーナさんはいつものメイド服だった。


「あの、訓練をするのにその服でいいんですか?」


「はい、むしろいつも通りの格好が重要なのです。暗殺者は常に戦闘服を着ているわけではないですからね。むしろ普段着で行動するのが常識なのです」


 暗殺者ってさらっといったけど、俺達は聞き流すことにした。


「さて、ではさっそく訓練を開始しましょう。カイル様には当分は体術の訓練をしていただきます。

 シャルロット様は魔法使いですし、そこまで体術は必要でもないですね。ご希望はありますか?」


「そうね、足腰を鍛えたいところね。長旅で結構鍛えられたと思うけど、それでも瞬発力には疑問があるわ」


「なるほど、良い考えです。でしたら、回避に重きをおいた訓練をするのがいいですね。あまり筋肉をつけても俊敏さを失っては本末転倒ですし。

 ……でしたら、まず走り込みですね。それから少しずつ組み手を憶えてもらいましょう」


「わかったわ、じゃあこの訓練場をぐるっと走ってくるわね」


 シャルロットは勢いよく駆けだしていった。


「では、我々も始めましょう。今までは私は受けに徹していました。ですがこれからは反撃を加えていきます。覚悟はよろしいですね?」


「はい、よろしくお願いします」


 俺は目を細めセバスティアーナさんの動きに注視する。彼女は相変わらず構えを取らない。

 だが相変わらず隙が無い。俺はヘイストを掛け、素早く彼女の後に回り込む。


 そして拳を握り、地面を思い切り踏み込む。


 だが次の瞬間、俺の軸足は彼女の蹴りで払われてしまった。

 一瞬の出来事だった。俺の視界には空が映っていた。


「背後に周るのは良い事ですが、それは当然相手も予想しています。

 しかし先程のように足払いをされても受け身を憶えることで復帰が早くなり次に繋げることができます」


 なるほどね、俺は転ばされると、こうしてボケっと空を見るのがいつの間にやら癖になっていた。


 シャルロットとの決闘では何度もこういう展開を繰り返していたからな。


 でも今は実戦の為の訓練をしている、気持ちを切り替えよう。

 俺は立ち上がると、再びヘイストを掛ける。


「もう一本、お願いします!」


 …………。


 訓練が終わるころには昼になっていた。


 俺はシャルロットから回復魔法を受けていた。

 結構殴られた。手加減しているとはいえ結構な重さの攻撃だった。


 彼女の体のどこからあの力が出てくるのだろうか。

 俺はセバスティアーナさんの小さな手を見ながら思った。


「不思議ですか? これも実はモガミ流忍術なのですよ。

 以前お話したように、魔法の様な効果をもたらす忍法がモガミ流忍術の『裏」で、体術は『表』だと説明しましたね。

 体術も忍術の一つですので、私の様な非力な女性にもそれなりの力が出せるのですよ」


 非力な女性というのは嘘だと思うが……なるほど、それで見た目以上の腕力があったのか。


「そして、この体術は極めると武器が無くても充分な殺傷力を持つようになります。その一つをお見せしましょう」


 セバスティアーナさんは訓練用のカカシの前に経つと、息を整え。両足を前後に開き、腰を落とす。


 初めて彼女が構えを取ったのをみた。


 そして、彼女の手が前に突き出されると同時に、強烈な衝撃波が発生した。

 その衝撃波は風を切り裂き、空気をゆがめ、訓練場全体に圧倒的な力の波紋を広げた。


 カカシの胴体には大きな穴が空いていた。


「今のがモガミ流忍術・表『発勁』です。まあ気を溜めるのに集中力が必要ですし、発動動作も大げさです。

 これを使うくらいなら最初から武器を選ぶべきですが、まあ無手の状況下でもある程度の戦いはできるでしょう、無いよりマシといったところですね。

 ちなみに、他にもいくつか表の技はありますが、カイル様は剣士ですので必要ないでしょう。

 あら、もうお昼ですね。ではこの辺で失礼させていただきます」


 セバスティアーナさんは街のどこかへ消えていった。

 午後は、シャルロットに魔法の授業をして貰うことになっている。


 今だ初級魔法でつまずいている俺は少しでもマシにならないと行けないのだ。

 そう、せめて水魔法くらいは憶えて損は無いしな。


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