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#01 魔王ユウ・シャノチーチ


 歌声が聞こえる。この街では人の死に際し、棺の周りを数人が囲みながら歌をうたう風習がある。

 きれいな顔をした女性が棺に横たわり、人々は代わる代わるそこに花を投げ入れる。

 青年は棺の前に立ち、こぶしを握り締めた。


 遥か遠くの城では紫色の玉座に座った魔道士が黄色いネックレスを見つめ何かに思いを馳せる。

 青年は躊躇した末、決意して母親の棺に花束を投げ入れた。



 街はいつも通りに賑わっており、まるで人が死んだことなど知らないかのようだった。青年はパン屋の前に立ち止まる。

「おお、ケンジャノッチくん!」

 パン屋の店主が気さくに話しかけてきた。店主はそのまま少しバツが悪そうに話を続ける。

「お母さんのことは残念だったけど、まあ元気だせよ。ケンジャノッチくんが元気に生きてることが一番の親孝行だよ」

「ありがとうございます、デバンコ・レダケさん。これいただけますか」


 店主のデバンコ・レダケは、あいよ、と威勢よく返事をし青年ケンジャノッチの指したパンを袋に詰め始める。


 気付くと覇気を失った大男がケンジャノッチの横に立っている。店主デバンコ・レダケは大男に話しかけた。

「おお、なんだそんな暗い顔して、元気出せよ。仕事クビになったくらいでなんだよ。人生これからこれから」

「ああ、そうだな。ひとまず今日は森で木を切って薪でも作るさ……」

「そういや最近森に入った人間が失踪してるって話きいたことあるぞ。お前も気をつけろよ」

「ははは……このシッソースル様が失踪するわけないだろう。これをくれ」


 デバンコ・レダケがちょっと待ってな、といいながらケンジャノッチのパンを袋に詰めていると、もうひとり男がやってくる。隣人のシッテールだ。


 シッテールは、一人になって大変かもしれないがいつでも俺を頼ってくれよ、などとケンジャノッチを励ました。

「ところでシッテールさん、父がどこに行ったのか本当に知らないんですか?」

 ケンジャノッチがきいた。

「おいおい、このシッテールがキミの父さんがどこにいるか知ってるわけないだろう」


 突然、街に叫び声が響き渡った。ケンジャノッチは剣に手をかけ走り出す。

 道の真ん中には2匹のスライム。ケンジャノッチは剣を抜き間合いを測る。飛びついてきたスライムを的確にぶった切り、そのまま2匹目スライムに接近し真っ二つにした。

「ケンジャノッチくん、うしろ!」

 デバンコ・レダケの声が聞こえるよりも早くケンジャノッチは振り返り、後ろから飛びついてきたスライムを一刀両断した。


 街の人々はケンジャノッチに拍手を送ったり感謝の言葉を述べたり称賛の声をかけたりする。

「スライムごときに、この街の人間を傷つけさせるわけにはいきません」


 ケンジャノッチがそう高らかに言い放つと、デバンコ・レダケが駆け寄ってくる。

「さすが勇者だねぇ」

「準備運動にもなりせんよ」

「しかし最近多いね。スライムは魔王の手先だなんて噂もある。いつか魔王がこの街を攻めてくるなんてことがなければいいが……」

「国王は心優しき大魔道士様です。魔王ごとき敵ではありません」

 ケンジャノッチは続ける。

「実は、近々国王に謁見(えっけん)することになっているんです」

「国王に? なんでまた?」

「なんでしょう。悪い話でなければいいのですが」




 シッテールは夕暮れの光を浴びながら手紙を書いていた。


 キミの息子はずっと待っている、そろそろ戻ってきてもいいんじゃないか、そう心の中で呟いていると誰かが声をかけてきた。

「お手紙ですか?」

 ケンジャノッチが声をかけるとシッテールは慌てて手紙を伏せた。


「お、おおケンジャノッチくん。どうした? 何か困ったことでもあったか?」

「いえ、見かけたので少しご挨拶をと思って」

「そ、そうか。故郷に送ろうと思ってね」

「故郷……両親も一緒に暮らしているのでは?」

「ああ、そういえば」

 シッテールは話をそらす。


「森へ行ったシッソースルが戻ってきていないらしいんだ。まあ腕っぷしの強い彼のことだ、スライムにやられている可能性は低いと思うが……」

「彼は大丈夫ですよ。このシッソースル様が失踪するわけないって言ってましたから」

「はは、そりゃそうだ。」


 じゃあ、と言ってケンジャノッチは去っていった。シッテールは手紙を畳み封筒に入れ、ケンジャノッチが去っていったのとは別の方向に歩き出した。




 紫色の玉座に座る男は手紙を読み終えると、いよいよだな、とつぶやいた。

 男は手紙を運んできた女に言った。

「新しい世界秩序が幕をあける。お前にはそのための重大な役割を託した。期待しているぞ」

「必ず期待に応えてみせます」と女は返した。




謁見(えっけん)できて光栄です、国王クロマーク」

 ケンジャノッチは国王に頭をさげた。国王は病気で亡くなったケンジャノッチの母に哀悼の意を述べ、父を大事にするようにと言った。しかしケンジャノッチは物憂げな表情を見せた。

「国王クロマーク、実は……」


 ケンジャノッチが言うには、父は彼が幼い頃にどこかへ行ってしまったらしい。母の話によれば「俺は強くなる。ケンジャノッチが大きくなった頃に戻ってくる」と言ったきり帰ってこないらしい。ケンジャノッチが「今頃は強くなり過ぎて魔王にでもなっているのかもしれません」というと、国王は「冗談でもそういうことを言うものではないぞ」とたしなめた。


 「さて……」と国王は本題を切り出した。この国では最近国民が相次いで失踪しており、さらには近くの森ではスライムが大量発生しているらしい。そして国王が考えるには、恐らくこの事件を裏で操っている黒幕がいるということだった。

「黒幕ですか?」

「もちろんこの失踪事件の黒幕がこの国王クロマークであるということはないからそこは安心していい。」

「国王クロマーク! 全ての国民の幸せを願っている心優しき国王クロマークがこの事件の黒幕であるはずがありません!」

「うむ、その通りだ」

「それで、この失踪事件の黒幕はいったい誰なのですか?」


 国王クロマークは、ゆっくりとした口調で重々しくケンジャノッチにこう告げた。


「この事件の黒幕は……魔王ユウ・シャノチーチだ」






【次回予告】

 勇者ケンジャノッチは国王クロマークが連れてきた頼もしい仲間たちと旅に出ることに。最強の僧侶がいるからどんな敵でも怖くない。突如現れる怪しげな男。どんなに強い敵が来ても最強の僧侶がいれば大丈夫。最強の僧侶は無事100歳まで長生きできるのか?


 次回、僧侶スグシヌヨン。


 まだ読んでない人もいるから、ネタバレは禁止だよ。


――――――――――

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― 新着の感想 ―
[一言] ゲームの方で触れていたので探して辿り着きました。 あちらには登場しなかったキャラクターや舞台背景など、細かい描写が楽しいです。
[一言] とても深い(?)物語ですね。 クロマーク国王は、果たして本当に黒幕ではないのでしょうか? 先ずはそこから疑わなければいけませんね。
2024/01/22 18:21 退会済み
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