表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地味顔悪役令嬢?いいえ、モブで結構です  作者: 空木
第4章 ミカニ神聖王国の姫巫女
54/92

53

 国境に向かうにしたがって、王都から離れていることもあってか、道が悪くなっていったが、これといった事件もなく、順調に移動ができている。予定通りに進むことができているようで、今日はミカニ神聖王国と接している領地に泊まる予定だ。


 ここまでの旅路で、私たちを受け入れてくれた屋敷の主たちは、それぞれ思惑がありそうな人々ばかりだった。


 王家に恩を売るために私たちを受け入れたであろう領主もいれば、私たちとのつながりを求めているように思える領主、自分の娘をランドルフ様の婚約者としたい領主もいた。私という婚約者がいようともお構いなしである。敵意の籠った目を向けられて思わず困惑したものだ。


 連日の馬車移動により、お尻が痛むが、文句は言っていられない。馬車の窓から見える景色は、ここ数日、畑ばかりで代わり映えしないようにも見えるが、実際のところは、領地によって栽培しているものが異なり、意外と面白い。


 カタカタと揺れる馬車の中で、最初の頃は楽しそうに私たちを観察していたルセック様も、あまりにも会話をしない私たちに飽きたのか、ここのところは居眠りをしている。護衛が居眠りをするのはいかがなものかと思わなくもないが、特に何かに巻き込まれることも、その気配もないため、問題ないだろう。


 ふと、目線の先に立派な壁が映る。


 遠くに見えるそれは、行く先を阻むように横に広がっているようだ。隣で静かに座っているランドルフ様を見上げると、視線に気が付いた彼が、こちらを見下ろした。


「どうした」

「壁が見えます」

「あぁ、あれは領地を囲んでいる壁だ」


 転生前、歴史だったか、地理の授業だったかで城郭都市というものを学んだ気がする。確か、あれは街を壁が囲んでいるというものだったが、そういった類のものだろうか。


 それにしても、この国には、街を壁で囲む領地があることは知っていたが、領地を丸ごと囲む領地があるのは予想外だった。城郭都市と同様と考えるのならば、あれは外敵から身を守るためのものだと思うが、街だけでなく、領地ごと守るためなのだろうか。


「どうして領地を丸ごと囲んでいるのですか」

「それは、隣国からの侵略、もしくは、王家からの侵略を防ぐためだろね」


 いつの間に起きていたのか、ルセック様がさして興味も無さそうにそう答えた。私が理解しきれずに首を傾げていると、ランドルフ様が口を開いた。


「今は、王家と良好な関係を築いているから特に問題ないが、もし王家が裏切るならば、あそこの領地は反旗を翻してミカニ神聖王国側につくこともできる。肥沃な土壌によって農業も盛んなため、領地ごと守ることができれば、一つの国として独立することさえ可能な力を持っている」

「ま、要は怒らせたら駄目な領地ってこと」

「そうなのですね」


 それだけの力を持っているから、あれほど強固そうな壁を築くことができているのだろう。ふと、馬車の揺れが穏やかになっていることに気が付いた。どうやらこの辺りは道が舗装されているようだ。壁に近づくにつれて、その大きさに驚くことになった。


「これは……」


 どう頑張ったところで、よじ登って領地に入ることは不可能な高さの壁に感心してしまう。石造りの頑丈そうな壁の上部には、小さな穴が開いていることを確認できる。あそこから矢を射るのだろうか。


 隙の無い壁の足元には入り口があり、屈強そうな兵士たちが並んでいる。どうやら、領地に入るためには検問が必要なようだ。馬車のスピードが緩んでいく。しばらくすると、扉がノックされて、こちらの返事を待つこともなく開かれた。


 やや勢いよく開かれた扉の向こうには、やはり屈強そうな兵士が一人立っていた。


「レディーがいるのに、返事も待たずに開けるなんて、これだから田舎者は」


 軽口をたたいたルセック様を相手にもせず、彼は、私たちを見回した。


「ランドルフ様、ミルドレッド様、ルセック様ですね」


 馬車の中に不審物がないことを確かめると、速やかに扉を閉めて去っていた。もっと厳しく検査がされるのかと思っていたが、意外と呆気ないものだ。荷物は後続の馬車に置いているからだろうか。


 動き出した馬車は、門をくぐり、領地内へと入っていく。入ってすぐに目についたのは、驚いたことに壁だった。


「また壁があります」

「あれは街を囲む壁だ」


 ランドルフ様が何でもないように言ったその言葉を少し考える。目の前に見えた新たな壁を眺めつつ、そっとつぶやいた。


「もしかして、まだ壁があったり……」

「領主家の屋敷を囲む壁もあるよ」


 興味がないのか、ルセック様は自身の爪を眺めながら答えた。


 私たちは、その後は、のどかな畑をしばらく進み、やがてたどり着いた壁の入り口で、再び検問を受けた。こちらの検問は先ほどよりもやや厳しく、事前に準備していた許可証を見せる必要があった。


 壁の中に入ってみれば、辺境の地とは思えないほどに栄えた街の様子が見えた。


 オールディス領の中心街よりも、余程栄えている。下手をすれば、貿易で栄えているブライトウェル侯爵領の街よりも栄えているかもしれない。しかし、街並みは、独特の雰囲気を醸し出している。隣国のミカニ神聖王国の影響を色濃く受けているのだろうか。


 まるで白い絵の具をたっぷりと街全体にこぼしてしまったかのように、どこもかしこも白かった。ブライトウェル侯爵領の街も白い壁の建物が並ぶが、赤い屋根が目を惹いていた。それに対して、こちらの街は、本当にどこまでも白い。


「……不思議な街」


 街の中央部には崖のようになっているひときわ高い土地があり、そこには壁がそびえていた。おそらく、あの壁の中に領主家の屋敷があるのだろう。その壁すらも白い。


 街を歩く人々の服装も、エルデ王国で流行っているワンピースを見かけることもあれば、ミカニ神聖王国の伝統服らしきものを見かけることもある。この領地は、二つの国の文化が混ざり合って、結果的に独特の雰囲気を醸し出しているのだろう。


 それほど長く滞在ができないのは残念だが、時間があれば、ゆっくりと街を歩いてみたかった。


 このまま中心部の壁に進んでいくのかと思っていた時、馬車のスピードが緩み始めた。不思議に思っていると、そのことを察したランドルフ様が、静かにつぶやいた。


「あまり歓迎されてないようだな」


 その言葉に、なるほど、と理解する。どうやら、私たちの滞在自体は認めてくれたようだが、歓迎というわけではないらしい。おそらく、領主家の屋敷ではなく、彼らが定めた宿などに泊まることになるのだろう。


 今まで中継地として滞在してきた領地は、すべて王家派閥だったが、ここは異なる。中立派だ。相手が王家であれば、さすがに領主家の屋敷を使用するのだろうが、今回は王家派閥の家のランドルフ様に、中立派とはいっても、ただの令嬢の私。特に盛大にもてなす必要もないということだろう。


「むしろ、今までのおもてなしの方が怖かったのですが」


 ギラギラと光る目でこちらを見る彼らを思い出しながら苦笑いを浮かべていると、ランドルフ様もふっと口の端を上げた。


「そうかもな」

すみません、遅刻しました。

次回の投稿は金曜日を予定しています。

また、次回はミカニ神聖王国に入っていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ