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地味顔悪役令嬢?いいえ、モブで結構です  作者: 空木
第1章 古くからの誓約
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 優雅に紅茶を楽しむリリアンお姉様と、少し青ざめてうつむく護衛騎士。この2人を交互に見比べつつ、リリアンお姉様の隣に腰を下ろした。空気が心なしか重い。


「さて、どこから確認しましょうか。ねぇ、ミルドレッド、何から聞こうかしら?」


 やめてほしい、この空気感で私に話を振らないでほしい。まるで、私が悪の組織の子分みたいではないか。


 しかも、護衛騎士の彼は、別にまだ本泥棒の少年との関係を認める言葉を口にはしていない。この様子からして、ほぼ確実ではあるだろうが。


「……私が泥棒を働いた少年とつながりがあることは認めます。どのような罰も受け入れましょう」


 やっとのことで口を開いた彼は、重々しくそう言った。その空気を壊すかのように、明るくリリアンお姉様が話し出した。


「ですから、別に責める気はないと先ほども言ったでしょう?」


 その言葉に驚いた様子で、彼は目を軽く見開いた。お姉様が「あら、遊びすぎちゃったからしら」などとつぶやいているが、本当にその通りだと思う。誰だって、先ほどのお姉様の態度を見ていたら、責められているのかもしれないと勘ぐってしまうだろう。


 やっと真面目な表情に戻ったリリアンお姉様は、お菓子を片手に彼に語り掛けた。


「それで、その少年とはどういうつながりなの?」

「関係……。そうですね、一番近い言葉だと同僚、でしょうか」

「同僚?」


 不思議そうにリリアンお姉様が尋ね返す。私も想定外の返答に、お茶を飲むのをやめた。


「同僚って言っても別にあなたたちは同じ職場で働いていないわよね。それとも、あなたがオールディス家で働いているというのは表向きの姿であって、実際は別に仕事をしているということ?」

「いいえ、私が働いている場所は確かにオールディス家です。先祖代々、私たちの一族はオールディス家の護衛騎士として働いてきました。少年とは同じ目的をもって動いているという意味で、同僚という言葉を使いました」

「その目的って何かしら」

「オールディス家の方々をお守りすることです」


 迷いなく答えた彼だが、私たちは困惑して顔を見合わせた。リリアンお姉様は、訳が分からないといった様子で眉を寄せているが、おそらく、私も同じような表情をしているだろう。先に立ち直った私が、彼に問いかける。


「その、私たちを守るというのは護衛騎士としては当然の職務のように思えるのだけれど、そういう意味ではないのよね。どういうことか教えてほしいの」

「命をお守りすることはもちろんのこと、私や、先日の少年は、オールディス家の方々の自由な生活をお守りすることが役目なのです。そのために、私たち一族は代々オールディス家に仕え、少年もそのために動いている一人です」


 自由な生活とは何を指しているのだろうか。特に不自由だとは思っていない。そこそこの領地経営をしているオールディス家はお金に困っているわけではないので、余程わがままを言わなければ、大抵のことは実現できる。政略結婚などは避けようがない部分もあるが、それは貴族として生まれている以上、オールディス家以外の貴族も同じだ。


 同じように考えていたのか、お姉様が不思議そうな顔をしている。


「少年から、リリアンお嬢様とミルドレッドお嬢様は、オールディス家が置かれている立場について、ご存じないと伺っています。そして、不幸にならないのであれば、そのまま知らない方が良いのではないかとも言っていました。私もそう思います。どうか、これ以上、オールディス家のことや古き誓約についてお調べになることはお控えください」


 そういって頭を下げた護衛騎士をお姉様が静かに見つめていた。何秒ほど経っただろうか。小さくため息をついた彼女は、仕方がないといったように目線を下げた。


「これ以上は話してくれないのね」

「申し訳ありません」

「話してくれないのならば仕事を取り上げるといっても?」

「それでもお話しすることはできません」


 お姉様は小さく首を横に振ると、眉を下げながらも微笑んだ。


「脅すようなことを言ってごめんなさい。あなたの意志の固さを確かめたくて言っただけで、仕事を取り上げるつもりは最初からないわ。どうか顔を上げて」

「申し訳ありません」


 もう一度謝ると、彼はやっと顔を上げた。その瞳に強い光を宿っていた。


「これ以上、お話しすることはできませんが、困った事態に陥ったら、どうかお声がけください。必ず、お助けいたします」

「ありがとう」

「ありがとうございます」


 お姉様に続いてお礼を言う。


「それでは私はこれで失礼いたします」


 彼は、騎士らしい角度のついた礼をすると、そのまま無駄のない動きで部屋から出て行った。ぱたりと閉じられた扉を見つめていると、隣から声をかけられる。


「結局、ほとんど教えてもらえなかったわね」

「そうですね」


 推測は当たっていて、少年とつながっている人物を割り出すことはでき、本人にも確認は取れた。これで、話を聞くことができれば、状況の把握につながると思ったのだが、そう簡単には話は進まないらしい。


「少年からも古代語や遺物から距離と置くようにと警告されていますし、先ほどの彼も、これ以上調べない方が良いと言っていました。お姉様はどう思われますか」

「調べない方がいいのでしょうね、普通に考えるのならば」


 そう、普通に考えるのならば、警告されたにも関わらず、わざわざ首を突っ込むなんて愚か者のすることである。普段の私ならば絶対にしない。ただ、ここは――。


「でもねぇ、ここは乙女ゲームの世界でしょう。もし、調べずに進んだ先が、正規のストーリーだったとしたら、そこから外れるためには、調べるべきだと思うのよね」

「私もそう思います。ただ、逆に正規のストーリーで、私たちが誓約などについて調べていた場合、ストーリー通りの動きをしていることになりますね」

「そうなのよね。ストーリーに明記されていない以上、リリアンとミルドレッドの行動や、周りの行動から考察するしかないわよね」


 その言葉にうなずく。


「私はストーリーを詳しくは知りません。お姉様から見て、本来の私たちが誓約の意味などについて知っていたと思われますか」

「断定はできないけれど、少なくともリリアンは知らなかったんじゃないかと思うの。ただ、ミルドレッドに関しては、もしかしたら知っていたかもしれないって、そう思い始めたわ」

「それはどうしてですか」

「だって、ミルドレッドの性格を考えると、少しおかしいもの。確かにリリアンのことを慕っている様子はあったけれども、それで主人公を殺害する計画を立てるかって言われると、そこまでのことはしなさそうな大人しいイメージのキャラクターとして描かれていたわ。それが、地味顔悪役令嬢と呼ばれる所以なくらいには」


 なるほど、ミルドレッドは地味顔悪役令嬢と呼ばれているということだったが、どうやら顔だけでなく、中身の部分も含めての呼称だったようだ。


 確かに、今までのリリアンの発言から考えても、ミルドレッドは元々おとなしい性格だったのではないだろうか。古本屋に行って馬に蹴られかけるというストーリーに注目すると、本好きだったのではないかと思われる。完全な偏見だが、本好きはどちらかというと大人しい人が多い印象がある。


 そんな大人しい少女が殺害計画など立てるだろうか。頭の中で立てたとしても、なかなか実行に移すというのは想像が難しい。それならば、何か理由があって行ったのではないか、というのが、お姉様の考えなのだろう。


「ただ、この乙女ゲームの脚本って結構ひどいでしょう? ほら、王子ルート以外の場合は、王子が戦争中か戦後に亡くなるっていう、別の攻略ルートに入れるためだけに取ってつけたようなストーリーだったじゃない。そう考えると、ミルドレッドの性格と行動の不一致も別に深い意味はないのかもしれないし、そうだとしたら、誓約の意味なんて知らなかった気もするのよね」

「それは……確かにそうですね」


 確かに、ストーリーの中には無理やり感が漂うものもあった。そう考えると、ミルドレッドが静かで地味な令嬢で、とても主人公を殺害するように思えなくても、そういった計画を立てるという無茶苦茶なストーリーにする可能性はある。このゲームの製作者ならやりかねない。


「そうすると、私たちはどうするのが正解でしょうか」

「そうね……。ただ、警告された以上、やはり首を突っ込むのはよくない気もするから、積極的には探らない方向で行きましょうか」

「積極的には探らない、ですか?」


 問い返すと、お姉様は少し悪い笑みを浮かべた。やはり、私よりも悪役令嬢の素質がある気がする。


「えぇ、そうよ。私たちからは探りにいかない。でも、ね。問題が向こうからやってくることもあるかもしれないじゃない。その時は話が別よ」

お読みくださり、ありがとうございます。

また、評価やいいねをくださった方、ありがとうございます。

今後も完結に向けて投稿させていただきます。

次の投稿は明日を予定しています。



【余談】

この小説のジャンルで悩んでいます。

異世界(恋愛)なのか、ハイファンタジーなのか、書き始めたときにも迷ったのですが、いまだにどちらにするべきなのか答えが出ていません。

どちらの要素も入れる予定なのですが、場合によっては、最終的にジャンル変更をする可能性があります。申し訳ありませんが、ご理解の程よろしくお願いいたします。ジャンルの表示が変わるだけで、小説自体には影響はありません。

(現時点では、ハイファンタジー寄りですが、後半のことを考えると、まだ決定できずにいます。)


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