魔女のレンタルショップハイル〜助けた蛇は魔女様の眷属でした。えっ? 私をいじめていた家族に復讐してくれるんですか?・完結
「おはよう今日も来てくれたのね、ゆで卵で良かったら食べる?」
私の部屋には時折お客さんが来る。
そのお客さんは手足が無くて細長い体をしている。
ゆで卵が大好きでいつもペロリと食べてしまう。
「君はおとなしいね。どこかで飼われているのかな」
一週間に一度来るそのお客さんは私が頭をなでると、嬉しそうに舌を伸ばした。
「お姉さまいつまで遊んでるの!
洗濯や掃除が終わってないでしょ!」
ノックもなしに腹違いの妹のウナが部屋に入ってきた。
「やだ蛇じゃない! 気持ち悪い!」
室内にいた私のお客さんを見てウナが悲鳴を上げる。
「どこから入ってきたのよ!
お姉様さっさと蛇を追い出してよ」
ウナはハンガーやコップなど、その辺にあるものを私のお友達に向かって投げつけた。
「止めてウナ! あの子は私の大事なお客様なの!」
花瓶を投げようとしていたウナの腕を掴む。
「蛇さん今のうちに逃げて!」
蛇さんは窓から逃げて行った。
窓を開けておいてよかったわ。
でもこんなことがあったらもう私の部屋に来てくれないかもしれないわね。
蛇さんは私の唯一のお友達だったのに……。
「何を騒いでるんだい騒々しいね!」
騒ぎを聞きつけお義母様が部屋に入ってきた。
「お母様聞いてよ!
お姉様ったら酷いのよ!
いきなり私に掴みかかってきたの!」
ウナが騒ぎ立てる。
「お義母様違うんです。ウナが私のお友達に酷いことをしようとするから……」
「お姉様のお友達って蛇でしょう?
蛇が友達だなんて気持ち悪い!
蛇なんて餌付けしないでよね!
私が噛まれたらどうするのよ!」
「ウナの言う通りだよ!
蛇なんかと遊んでる暇があったら、さっさと薪割りに風呂掃除、洗濯に食器洗いを済ませな!
それが終わったら夕食の買い物と夕食の支度だよ!」
「はい……お義母様」
ウナは私にあっかんべーをしながら部屋から出て行った。
薪割りに風呂掃除、洗濯に食器洗い、夕食の買い物に夕食の支度、皆の食事が済んだら夕食の片付け。
私はウナやお義母様と一緒に食卓に着くことは許されていない。
いつもキッチンの隅で簡単に食事を済ませている。
仕事を終え食堂を後にする頃には、すっかり日が暮れていた。
部屋の前まできたとき、中から明かりがもれていた。
不審に思いながら扉を開けると、私の部屋にウナがいた。
ウナの手には引き裂かれボロボロになった私のドレスが……!
「ウナ何をしているの!」
私の存在に気づいたウナが振り返る。
「あらお姉様戻ってきていたの?
明日のパーティーで着る私のドレスがちょっと地味なのよね。
フリルやリボンを付けたら素敵だなと思って、お姉様のドレスから拝借していたところよ」
ウナは悪びれもせずに言った。
「このドレスはお母様の形見なのに!」
「たかがドレスでしょう? 大げさに騒がないでよ」
「たかがじゃないわ! お母様との大切な思い出があるの!」
ドレスを返してと迫るがウナがなかなかドレスを離してくれない。
なんとかドレスを取り返すことに成功したが、誤ってウナを突き飛ばしてしまった。
突き飛ばされたウナが床に尻餅をつく。
「何の騒ぎだい!」
そのとき騒ぎを聞きつけてお義母様が部屋に入ってきた。
「お母様、お姉様ったら酷いのよ!
お姉様のドレスからちょっとフリルとリボンを頂いただけなのに、お姉様が私のことは突き飛ばしたの!」
「カランお前はどうしようもない子だね!
悪い子には罰を与えなくてはいけないね!
今日から一週間カランは家の仕事だけをやるように!
学校に行くことも買い物に行くことも許さないよ!」
「そんなあんまりですわお義母様!
明日は卒業式です!
私は卒業生総代に選ばれているのですよ……!」
「自分が優秀なのをひけらかして嫌味な子だね!
卒業生総代ならお前の代わりにウナがやるさ!
ウナ、カノンの代わりに答辞を呼んでやりな」
「はーい、お母様」
「そんなお義母様、それはあんまりです!」
「ウナは学年で次席だったんだ。
首席のあんたが欠席すれば、次席ウナが答辞読む、それだけの話だよ」
「そうかもしれませんが。
パーティーには婚約者のコアトと一緒に行くことになっています。
私が卒業式に行かなかったらコアトにも迷惑をかけてしまいます」
婚約者のコアト様は伯爵家のご令息子。
格下の子爵家の令嬢である私が、ご迷惑をかけるわけにはいかない。
「今度はコアト様を理由にするつもり?
心配しなくてもいいのよお姉様。
コアト様はだいぶ前から私と卒業パーティーに行くことになっているの。
それにコアト様はお姉様とじゃなく私と結婚したいみたい」
「えっ?」
「誰だって可愛くて優しい子と結婚したいものだよ」
地味な私と違いウナは桃色の髪と瞳の美少女。
「あんたとコアト様の婚約は何カ月も前に解消されてるよ。
言ってなかったのかい?」
「そんな……」
「心配しないで、お姉様。
コアト様と私が結婚することで、クーン子爵家とヴィレ伯爵家の縁はちゃんと結ばれるから」
学園を卒業するのに必要な単位を取った後、ずっと家で家政婦のように働かされていました。
ここ数カ月学園に行くことが出来ず、コアト様とお会いする機会もありませんでした。
私とコアト様との婚約が何カ月も前に解消されていて、代わりに腹違いの妹のウナがコアト様と婚約していたことを今知りました
「分かったかい?
あんたが明日卒業式に行く必要なんてこれっぽっちも無いんだよ。
わかったら明日は一日家事をするんだ。
あんたはこの家のメイドになるんだからね」
「メイドとして働く?
ですが子爵家の前当主は私の実の母親。
次の当主は私のはず。
なぜ私がメイドになるのですか?」
「そんなの簡単だよ。
ウナはあんたの養女だ。
あんたを飛び越えてあんたの養女のウナが家を継ぐのさ。
あんたは使用人として一生この家で、床に膝をついて雑巾がけでもしてればいいのさ」
お義母様の言うとおり、ウナが私の養女になれば子爵家を継げる。
「私はウナを養女にした覚えはありません」
「書類はちゃんとあるんだよ。
覚えがないのはあんたの記憶力が悪いか、あんたが嘘つきかのどちらかだね」
書類を偽造された……?
「こんな仕打ちはあんまりです!」
「これはもう決定事項だよ!
今日は遅いからさっさと寝な!
明日は朝早くから働いてもらうからね!
ウナのドレスの着付けもあんたがやるんだよ!」
「そういうことです、私を恨まないでくださいねお姉様」
八年前、病弱だった母が亡くなった。
そのたった一年後、父が再婚した。
再婚相手にはウナという私と同い年の連れ子がいた。
ウナは父と継母との間にできた子供で、母が生きてる間から父が浮気していたことを知り、私はショックを受けた。
ウナは私の部屋を奪い、私のおもちゃを奪い、私のドレスやアクセサリーを奪っていった。
お母様の形見のドレスだけは奪われないように部屋の奥に隠していた。
そのドレスも見つかってしまいボロボロにされてしまった。
卒業生総代も、婚約者も、子爵家の後継者の立場も……何もかもウナに奪われてしまった。
「私にはもう何も残っていないのね」
『ソンナコトナイヨ、カラン ニハ僕イルヨ』
お母様のドレスを抱えメソメソと泣いていると、どこからか声が聞こえた。
「誰? どこにいるの?」
『ココダヨ、窓ヲ見テ』
謎の声に言われた通り窓の外を見る……そこには私のお友達がいた。
「蛇さんどうしてここに?
それよりも人の言葉を話せるのですか?」
『話ハ聞イタヨ。外二出テキテ僕ガ助ケテアゲル』
「えっ?」
『カラン ハ木登リハデキル?』
「私こう見えて昔はお転婆でしたの。
木登りは得意ですわ」
『ジャア窓カラ外ニ出テ木ヲ伝ッテ降リテ。ソノ後ハ、僕ニツイテキテ』
私は蛇さんに言われた通りに窓から外に出て、木を伝って庭に下りた。
「庭に出れたのはいいのですが、家の周りには鉄の柵がありますわ」
子爵家の庭は二メートルの鉄の柵で覆われている。
私ではとても飛び越えられない。
『大丈夫ダヨ。僕ニツイテ来テ』
蛇さんに言われた通り後をついていくと、柵が一部壊れていた。
ここから外に出られそうだ。
屋敷の外に出た後もずっと蛇さんの後をついていく。
蛇さんはある小さなお店の前で止まった。
建物は小さいけど高級感に溢れている。
ショーウィンドウを覗くと、綺麗なドレスや靴やアクセサリーが飾られていた。
『扉ヲ開ケテ』
蛇さんに促されるままに、店のドアを開けると店内は花のような甘い香りに包まれていた。
「レンタルショップハイルへようこそ。可愛いお客様ね」
腰まで伸びた真っ赤な髪、ルビー色の瞳、真紅のドレスを纏ったスタイル抜群の女の人が立っていた。
絶世の美女とはこういう人のことを言うのだろう。
「こんばんは、勝手に入ってすみません」
「いいのよ、あたしの眷属に案内されて来たんでしょう?」
「眷属?」
「あなたをここまで連れてきた蛇のことよ」
蛇さんはこの方の眷属だったのですね?
でも眷属とは?
「ここはレンタルショップハイル。
ドレス、靴、アクセサリー、屋敷、家具、馬車、本、なんでも貸し出しているわ。
時には人も貸し出しているのよ」
「人も……?」
「あなたにはあたしの眷属が随分お世話になったみたいね」
「先程も気になったのですが眷属とは?」
「忠実な従者であり、友人であり、家族であり、仲間のことね」
「そうなんですね」
「話はあの子から聞いたわ。
あなたは今とっても困ってるみたいね」
「えっ?」
「とりあえず明日卒業パーティーに身に着けていくドレスとアクセサリー、学校まで送り迎えする馬車と従者を手配すればいいかしら?
それからパートナーも必要ね」
「あの待ってください。私お金持ってなくて……」
「お代は結構よ。
あたしの眷属がいつもあなたからゆで卵を貰っていたみたいだからね。
あの子は毎週楽しそうに出かけて行って、あなたからゆで卵を貰っていたのよ。 よっぽどあなたのことが気に入っていたのね。
家でもゆで卵は食べさせてるのに」
蛇さんが毎週私の家に来ていたのはお腹が空いていたからではないのですね。
蛇さんも私のことをお友達だと思っていてくれたのかしら?
そうだったら嬉しいわ。
「まずはドレスから選びましょう?
何色のドレスがいいかしら」
店内には色とりどりの高級そうなドレスが並んでいる。
「せっかくのお話ですがお断りします」
「あらどうして?」
「卒業パーティーに参加するならお母様のドレスを着ていくって決めていたんです。
お母様のドレスを着て式に出れば、お母様も天国から卒業式を見ていてくれるような気がしたから。
だからお母様のドレスじゃないなら卒業式に出る意味がないんです。
わがまま言ってすみません」
「事情はわかったわ。
それならあなたのお母様のドレスを直しましょう」
「ですがドレスは妹に破られてボロボロです。それにドレスは家にありますし」
「このドレスのことね。確かにボロボロだわ」
店主さんの手には私のお母様のドレスがあった。
「お母様のドレスがどうしてここに?
部屋に置いてきたはずなのに……!?」
「転移魔法を使えばこのぐらい造作もないことよ」
「転移魔法!?
あの失われた魔術って言われている……!?」
「四百年も生きてる魔女のあたしには、転移魔法を使うなんて簡単なことよ」
「四百年?!」
目の前にいる女性はどう見ても二十代前半にしか見えない。
「早速ドレスを直しましょう。
手が足りないわ、あなた達も手伝いなさい」
魔女様の足下には三匹の蛇がいた。
魔女様は蛇さんたちに金色の粉をかけた。蛇達の姿が人の姿に変わっていく。
「紹介するわね左からアインス、ツヴァイ、ドライ。
全員あたしの眷属よ」
アインスさんは百八十センチを超える長身で、緑の髪にひまわり色の瞳をしていた。優しそうな感じの二十歳ぐらいの美青年。
ツヴァイさんは身長百七十五センチぐらい、青い髪でサファイアの瞳。私と同い年ぐらいの美少年。
ドライさんは身長百五十センチぐらいで紫の髪と瞳、半ズボンの似合う年頃の可愛いらしい男の子。
「この中にあなたからゆで卵をもらった子がいるわ。
どの子かわかる?」
「はい」
私はアインスさんの前に立った。
「アインスさんですよね?
私の家に毎週来ていたのは」
「正解よ。よくわかったわね」
「アインスさんは私の唯一のお友達ですから」
すぐにわかりました。人の姿になってもアインスさんのたんぽぽ色の優しい瞳は変わっていないから。
「時間がないからテキパキ行くわよ!
アインスあなたはこのお嬢さん、名前はなんて言ったかしら?」
「カランです。カラン・クーン」
私は魔女様にカーテシーをした。
「カランいい名前ね。
アインスはカランの面倒を見なさい。
あたしが調合した特製の薬剤を入れたお風呂に入れて、化粧水で肌を整えて、そのあとは寝室に案内しなさい。
カランあなたは明日に備えてお風呂に入ったあとはベッドでゆっくり休みなさい。
ツヴァイとドライは引き裂かれたドレスの修繕担当ね。
逆行魔法を使えば簡単に治せるけど、それじゃ味気ないからね。
真心を込めて一針一針縫うのよ」
「「「承知いたしました。魔女様!」」」
アインスさん、ツヴァイさん、ドライさんが声を揃えて返事をした。
「あの……本当にいいんでしょうか?
私お金持ってないんですし、それに外泊するわけには……明日の朝ご飯の支度や、妹のドレスの着付けもしなくてはいけなくて……」
「気にしなくていいのよ。眷属を助けてもらったお礼って言ったでしょ?
あなたの家にはあたしが行くわ」
「はいっ?」
そういうと魔女様がパチンと指を鳴らした。
私は目の前に鏡が現れたのかと目を見張った。
艶のない茶色の髪、黒い瞳、ソバカスだらけの頬、古びた焦げ茶色のドレス……間違いなく目の前にいるのはどこからどう見ても私だわ。
「変身魔法よ。
あたしがあなたの代わりに屋敷に帰ってあげる。
朝食の支度も妹のドレスの着付けもあたしがするから心配しないで」
魔女様はそう言ってウィンクをすると、再びパチンと指を鳴らし私の前から消えた。
「カラン様ご心配には及びません。
魔女様は超一流の魔術の使い手ですから」
アインスさんがニッコリと微笑む。
アインスさんの笑顔を間近に見た私の心臓がドキドキ音と音を立てる。
お友達の蛇さんがこんなイケメンさんに変身するとは思わなかった。
その後私は魔女様のお店で、至れり尽くせりのサービスを受け、ふわふわのベッドで朝までぐっすりと眠ることになる。
☆☆☆☆☆
――魔女サイド――
「カランいつまで寝てるんだい!
朝食の準備はできたのかい!」
カランに変身して部屋にいると、中年のおばさんが部屋にやってきた。
こいつがカランの継母ね。
「もちろんですわお母様。
ローストビーフに、採れたての野菜を使ったサラダ、魚介のスープ、焼きたてのパン。
腸の活動が活発になりお肌がすべすべになるスペシャルなドリンクも用意しております」
「そうかいならいいよ。
朝食の後はウナのドレスの着付けもしっかりやるんだよ」
「は〜〜い、お義母様」
継母は用件だけ告げると、部屋を出ていった。
朝食のとき継母とウナは、お通じの良くなる薬草入りのスペシャルドリンクをごくごくと飲んでいた。
お肌がすべすべになるって話は嘘じゃないのよ。でもそれは一週間後の話。
その前にお腹の方がとっても大変なことになるのよね。
あと三時間もすればお腹がゴロゴロと音を立てるわ。
食事が終わったらカランの腹違いの妹のドレスの着付けね。
覚悟しなさい。コルセットをうんと締め上げてあげるわ。
「きゃ〜〜! お姉様そんなにきつく締めないで!
腸が口から出てきてしまいますわ!」
「あらウナこれくらいがちょうどいいのよ。
腰が引き締まってとってもきれいに見えるわよ」
「カランちょっとは手加減をしな、ウナが死んでしまうよ!」
「これでも通常の百万分の一の力しか出していないんですけど」
「どれだけバカ力なんだい!
もういい! ドレスの着付けは私がやる!
お前は床でも磨いておきな!
家中の床をピカピカにするんだよ!
それが終わったら家中の銀食器を磨くんだ!
顔が映るくらいピカピカにね!」
「は〜〜い、お義母様」
それから三十分後、桃色のドレスを着たウナとゴテゴテと着飾った継母を乗せ、馬車は学園に向かって走って行った。
「ようやく出て行ったねバカ親子。
あなたたちのお腹は二時間半後に大変なことになるのよ。
卒業パーティーの始まる時刻にはトイレとお友達ね。
さてとあたしはウナをカランの養女にした不正の証拠を探さなくちゃ」
他人の秘密を暴くのってワクワクするわね。
それが不正の証拠ならなおさらね。
☆☆☆☆☆☆☆☆
――カラン・サイド――
鏡に映った自分を見て私は驚いていた。
「これが……私?」
茶色の髪がツヤツヤと輝き天使の輪っかができている。
頬にあったそばかすはどこかに行ってしまい、陶磁器のように真っ白な肌になっていた。
頬に触れるとすべすべともちもちしていた。
ドライさんが髪を綺麗にハーフアップしてくれた。
ツヴァイさんとドライさんが徹夜で修復してくれたお母様の形見の黄色いドレスは、すっかり元通りになっていた。
ドレスに袖を通すとお母様がすぐ側にいてくれるような気がして、心が暖かくなった。
「仕上げです」
アインスさんが、イヤリングとネックレスを着けてくれた。
「これはイエローダイヤモンドですよね?とっても高価なんじゃ」
「僕からの贈り物です。
カラン様はいつもゆで卵を分けてくださいました。
そのお礼にです。受け取ってください」
どう考えても週に一つのゆで卵とイエローダイヤモンドのネックレスとイヤリングでは価格の釣り合いが取れない。
「ですがこんな高価な物、受け取れません」
「僕を助けると思って受け取ってください。
それから今日あなたをエスコートする名誉を僕に与えてくださいませんか?」
「エスコートですか?」
「カラン様は卒業生総代。
総代を務める者にパートナーがいないのでは様になりません」
「それはそうかもしれませんが……」
「いつまで喋ってんだ、時間がないぞ」
ツヴァイさんが苛立たしげに言った。
優しいアインスさんと違って、ツヴァイさんはクールな性格みたいです。
「ではエスコートをお願いします」
「はい、喜んで」
私はアインスさんにエスコートされ、四頭立ての豪華な馬車に乗せられ学園に向かった。
イヤリングとネックレスは後で返そう。
☆☆☆☆☆
「だから何度も説明してるでしょ?
お姉様は『卒業生総代の役目なんか下らない』と言って辞退したのよ。
だから次席の私が卒業生総代を務めるわ」
「カラン先輩がそんなことを言うとは信じられない。
カラン先輩は卒業生総代になるために必死に努力していたんだ」
「お姉様が今ここにいないのが何よりの証拠よ。
お姉様は『学園なんかつまらない、答辞なんて読みたくない』って言ってたわ」
「ウナ、私がいつそんなこと言ったのかしら」
「お姉様! なぜここに?!
嘘……なんでそのドレスを着ているの? 昨日私が破いたのに……あっ!」
ウナがしまったという顔をした。
私は学園に着くとまっすぐに生徒会室に向かった。
するとウナが生徒会役員と揉めていた。
ドレスを破いたという発言をしたウナに生徒会役員が冷たい視線を向ける。
「カラン先輩、お待ちしておりました。
答辞の原稿はできていますか」
「お待たせしてすみません。
答辞の原稿は頭の中に入っています」
私は生徒会役員と一緒に卒業パーティーが行われる講堂に向かった。
そして私は無事答辞を読み上げることができた。
これも協力してくれた魔女様やツヴァイさんたちのおかげだ。
☆☆☆☆☆
ダンスが始まると元婚約者のコアト様が話しかけてきた。
コアト様は黒髪に茶色い瞳、中肉中背、お顔は不細工でも美男子でもなく普通。
「君の読んだ答辞は素晴らしかったよ。
それにすごく綺麗だ。
カランがこんなに美人だと思わなかったよ。
良かったら俺と一曲踊ってくれないか?」
「コアト様と私の婚約は既に解消されております。
それにコアト様には新しい婚約者のウナがいるでしょう?」
「ウナの奴パーティーが始まってすぐに母親と一緒に『お腹が痛い』と言ってトイレに走って行ったよ。
ほんと恥ずかしい」
「婚約者が腹痛に襲われているのに、コアト様はここでパーティーを楽しんでいるんですか?」
私はコアト様に冷たい視線を送る。
「子爵家の跡取りじゃなくなったお前を俺が同情で誘ってやってんだ。素直に喜べよ!
どうせパートナーもいなくて一人で寂しく過ごしてんだろ?」
「すみませんカラン様、お待たせいたしました」
「アインスさん」
「ドリンクを取りに行っている間に、変な虫に絡まれていたようですね」
アインスさんがコアト様をギロリと睨む。
アインスさんに睨まれたコアト様は縮み上がっていた。
「本日のカラン様のパートナーは僕です。
元婚約者殿の出る幕はございません。お引き取りください」
アインスさんは丁寧だが強い口調でそう言った。
「なんだと!」
「それから子爵家の跡継ぎの件ですが、ウナ様をカラン様の養女にした書類に偽装の疑いが出てきました。
この後ウナ様とウナ様のお義母様とお父様は騎士団に事情を聞かれることになるでしょう。
なにせ事は子爵家の乗っ取りですからね。
まさかとは思いますが、コアト様もこの件に関与しておられませんよね?」
「知らない! 俺は何も知らない! 聞いてない!」
コアト様は顔を真っ青にされ逃げるようにその場を去っていった。
「アインス様助けてくださりありがとうございます」
「いえカラン様のパートナーとして当然のことをしたまでです」
「それから先程のお話は本当ですか?」
「子爵家の乗っ取りの件ですか?
もちろんです。魔女様が本腰を入れて騎士団を操作……いえ騎士団に捜査させています。
直にこの件に関与した人間は捕まるでしょう」
「何から何までありがとうございます。
なんとお礼を言ったらよいのか」
「それはこちらのセリフです。
傷つき迷子になっていた僕にカラン様はゆで卵を分けてくださった。
ご自身もお腹いっぱい食べているわけではないのに……僕はそれがとても嬉しかったのです」
「私は人として当然のことをしたまでです」
「そういう奥ゆかしいところも貴方様の魅力です」
アインス様に褒められて照れてしまう。
「どうしてもお礼をとおっしゃるなら、僕と一曲踊っていただけませんか?
僕に貴方様とファーストダンスを踊る名誉をお与えください」
私は差し出されたアインスさんの手を掴みコクリと頷く。
「はい、私で良ければ喜んで」
――終わり――
読んで下さりありがとうございます。
少しでも面白いと思っていただけたら、広告の下にある【☆☆☆☆☆】で評価してもらえると嬉しいです。執筆の励みになります。
「アニメイトバディ1」に応募するため再投稿しました。
「アニメイトバディ1」の【投稿作品についてのルール】に「・応募期間内に新規投稿された作品(既存かつ未出版作品は、一旦削除して頂ければ再投稿しての参加も可能です。)」とあるので再投稿は規約違反ではありません。