断章「一つの欠片」
幼い頃、とある一冊の本を読んだ。
「君は選ばれなかった人たちの気持ちを考えたことがある?」
少年は問いかけた。
「考えないよ。だって、それは普通のことでしょ?」
少女はそう答えた。
少女は男子からとても人気のある子だ。
告白された回数は両手では数えきれないほど。
「それは‥‥‥そうだけど‥‥‥。」
少年は口ごもってしまう。それも当然だ。
だって、そんなことをいちいち考えていてはキリが無い。
人気があるのならそれはなおのこと。
その様子を見て、とある大人が言葉を投げかける。
「いいかい?誰か一人を愛するということは、自分のことを想ってくれている他の誰かを見捨てるということなんだ。」
「恋愛なんてのはね、物語にあるようなキラキラしたものなんかじゃない。‥‥‥実際のところは、もっとどす黒いものなんだ。」
「もし、キラキラとした眩しい感情を持てたのなら、それは自分が恵まれていただけのこと。必ず、目に見えない何かがある。‥‥‥どうか、それを忘れないで。」
今思えば、彼ら彼女らの言いたいことはよくわかる。
ならば、俺はどうなのだろうか。
俺には、誰か一人を選ぶなんてことができるのだろうか。