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断章「原石」
この世界は確かに広い。大きな世界です。
私が言語化できていたのはそれだけだったけれど、最近になってようやく腑に落ちたことがありました。
それは、私が願っていた平和というのは、大きな世界に内包されたいくつもの小さな世界のことでした。
人間である以上、戦争が起きてしまうのは仕方のないことだと理解しその必要性も認めていました。
ですが、目の前で起きる悲しい出来事だけはどうにかならないのかとそれだけを想っていました。
床に落ちる/眉をひそめる/まだ3秒だからと取り繕う笑顔/誕生日なのに
風船から手を放す/喜から悲へと変化する表情
両親が大喧嘩/こんなはずじゃなかった。こんなことのためにしたんじゃなかった
知っていたのに見て見ぬふりをした。
伝えたかったのはそんなことではなくて。
それら一つひとつ。
後に振り返れば些細な出来事。覚えていることすら稀。
だとしても、幸から突き落とされる誰かを目にしたくなかった。
そんなの無理だなんてわかってる。現実的でないことも。
それでも―――それでも
諦める理由になんて絶対にさせない。