EXTRA2「Primordial trigger」
「先輩!!」
呆然と立ち尽くす先輩の手を取る。
「聞こえますか!先輩!」
冷たい手。
触れた熱は彼の心を何も伝えはせず、ただ無感情に無機質に非人間らしさを強めているだけ。
そして今まで見たことがないというのに、なぜか見覚えのある眼差し。
「あ‥‥‥」
先輩の視線を落とす先を見ても何も無い。
地面でもなければ空でもない。
ましてや、彼の眼前に広がる惨たらしい結末でもない。
「想志!」
その声に先輩は肩を震わせる。
「家まで送ってく。結愛も付いてきてもらってもいいかな」
「‥‥‥もちろんです!」
想乃華先輩の咄嗟の機転に助けられた。
「帰るよ。想志」
「待ってくれ。手を合わせるだけはさせてほしい」
「わかった。気持ちの整理ができるまで待ってる」
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Interlude
今にも飛び出しそうな猫がいた。
俺はその先がどうなるのか容易く想像できたからその結末を止めたかった。
誰かの呼ぶ声が聞こえた。
そうして、正気に戻ったような気がした。
自身にへばり付くような何か。
重くのしかかって振り払おうとしても拭えない何か。
あの声を聞いたとき、それがすべて払いのけられた感じがした。
だけど。
ドン、と鈍い音が脳内を突き刺した。
目を向けると、そこにはやはり想像した通りの結果があった。
赤黒い液体が徐々に広がってゆく。
ありえない方向に曲がっている四肢。
ああ、やっぱり。
なぜ、こうなった。
なぜ、受け入れられない。
なぜ、振り返った。
いいや、そんなの自分が一番わかってる。
わからないふりをしても意味がないことにいい加減気づかなければいけない。
だというのに、この腐った脳はいつまで経っても都合の良いように出来ている。
その事実がたまらなく気に入らない。
普通じゃないことぐらい理解している。
普通に生きられたらと願っているのにもかかわらず、そうできないのはきっと自分がそういう人間だからだ。
諦念。
憤りなどとうに捨てた。
自身の無力さを嘆くのではなく、人間一人にできることの限界さを知るべきだと常識が教えてくれた。
だとしても。
それでも、思うのだ。
―――本当に、自分はそれで納得できるのかと。
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「シャワー借りるね」
想乃華はそれだけ言ってスタスタと視界から外れる。
「っていうか、なんで俺ん家来てるの?」
当然すぎる質問を結愛に投げかける。
「え、なんでっていうか‥‥‥成り行きで?」
「疑問に疑問で返すな。余計わからんくなる」
「まあいいじゃないですか。たまにはこういう日があっても」
「まあ、二人の言いたいことは何となくわかるよ」
「うん」
「悪かった。俺は危うく」
一時間ほど前の出来事がフラッシュバックする。
「ほんと、心配しましたよ。病院送りにならなかっただけ良かったです」
「結愛が声をかけてくれたからなんとかなったよ。ありがとう」
「いえいえ、これぐらいなんてことないですよ」
「デカい借りを作っちまった」
「貸しとか借りとか気にしなくていいですよ。
そんなの気にしてたらなんだか‥‥‥とっても哀しいですから」
「そっか」
意外だった。
結愛にしろ想乃華にしろ、あの時走り出そうとした理由をすぐに追求してくるものだと思っていたから。
結局、あの後は彼女たちに連れられて自分の家まで帰ってきた。
覚えているのは
「想志は車道を歩くな。危なっかしい」
という想乃華の大変お怒りの声だった。
それはそれとして―――
「送ってくれたのはありがたいんだけど、なんでお前らも家に上がってんの」
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Another side ~sonoka~
「はあ」
これみよがしにため息を吐く。
「ていうか、シャワー温かいの出てくるの遅いんですけど」
想志と一緒に彼の家へ行き、着替えを家に取りに帰ってまた戻って来るまでは良い。
「家でシャワー浴びればよくね?とか言い出したらアイツぶん殴ろ」
もちろんそうした方が自然だというのはわかっていた。
だけど、だけど‥‥‥せっかくアイツの家に来たんだもん。
こんなチャンス二度とないし。
「あ、やっと出た」
温かい湯がシャワー口から流れる。
周りに目を向けると、おそらく彼がいつも使っているであろうシャンプーが目に入る。
「うわー、やっぱ◯ンドハニーだったんだ。だと思った」
良くない思考がよぎる。
「これは仕方ないことなの。だってこんな機会滅多にないんだから」
それは都合の良い言い訳にして、やりたい放題やることにした。
シャンプーをワンプッシュする。
あ、もう1プッシュしとこう。
「仕方ない。仕方ない。これはしょうがないことなのだー」
それ以上は語るまでもない。
彼が目にしたのは、脱衣所から出てきた彼女がやけに上機嫌だったということだけだ。
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「いや、待て。落ち着け。泊まるとか聞いてないぞ。しかも二人も」
「いいじゃないですか。先輩のご両親って今日はいないんでしょう?」
「なんで知ってんだよ。こえーよ」
「そういえばさっきーデカい借りがあるって先輩がー」
わざと大きい声を出す。
「ああもう、わかった。わかったから。今日だけな」
「え、なに?
想志ってば私たちに一日だけじゃなくて2日も3日も泊まってほしいの?」
「なんでそうなんだよ。意味わかんねーよ」
「うわー、先輩そんなこと考えてたんだー。変態」
「勝手に言ってろ」
不意に想乃華先輩と目が合い、自然と笑みが零れる。
かわいい。不貞腐れてる先輩ちょーかわいい。
「じゃ、私たちが泊まるの決定ってことで。私、ご飯作りますね」
「え、できるのか。料理」
「舐めないでください!少なくとも先輩よりかはできます!」
「俺ができない前提かよ」
「えー。じゃあできるんですか?」
「む」
「はいはい。今の反応で大体わかりましたから、先輩は引っ込んでてください」
「その言い方、余計恥ずいんだけど」
「私"も"手伝うよ」
「すいませんね!俺"は"手伝えないので!味見役で勘弁してください!!」
いやあ、かわいなあ。
そんなことより、想乃華先輩と料理!
‥‥‥へ、へへ‥‥‥幸せだなあ。
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「うん、美味かった」
「でしょうね。見てればわかります」
冷蔵庫を拝借すると、ひき肉やらその他根菜類が鎮座していたので無難なところでハンバーグにすることにした。
さすが私。今まで料理しといてよかった~。
「それにしてもすげえな」
「なにがです?」
「料理だよ。いつも家で作ってるの?」
「ま、そうですねー。私がだいたい作ってます」
「そっか」
「わたし、小さい頃に両親が事故で死んじゃったので。自分でなんとかするしかなかったんです」
「そっか‥‥‥えらいな」
そう言って先輩は私の頭を撫でてくれる。
その大きくて温かい手が大好き‥‥‥ってのが喉元まで出かかっているのをなんとか堪える。
「そうだよ~
頑張った子にはそれ相応の良いことがないといけないからね~
よしよし。よしよーし」
はぁ。どうやらここは天国らしい。
大好きな先輩たちに甘やかされるの至福すぎる。
天国とはここだったのか、そうですか。
「えへへ、ありがとうございます」
私の中に潜むおじを引っ込め、一時の幸せを甘受する。
「想志先輩。もっと撫でてくれてもいいんですよ」
ほら。先輩恥ずかしがれ。もっとかわいいとこ見せろ。
「お、そうか。じゃあもっとしないとな」
「え」
「え、じゃねーよ。お前がしろって言ったんだろ」
「それは‥‥‥そうですけど」
あれ。思ったのと違う。
でもこれはこれで‥‥‥
ていうか私、顔赤くなってないよね!大丈夫だよね!
ひとしきり撫で終わってか、想志先輩が口を開く。
「じゃあ、あの神父さんが結愛の?」
「保護者ですね。孤児だった私を引き取ってくれたんです」
「そういうことだったのか」
「何かあるんだろうなとは私たちも思っていたの。
でも、なかなか聞けなくてさ」
想乃華先輩はなぜか申し訳無さそうな声を出す。
「今更なに言ってるんですか、先輩。私たちの仲じゃないですか。
なんだって聞いてください‥‥‥それに気を遣われる方が嫌です」
「わかったよ」
なんだか場の空気が暗くなった気がしたので、無理矢理に話を違う方へシフトさせる。
「そんなことより!話したいのは先輩のことです」
ちらっと壁掛けの時計に目をやる。
時刻は21:00。
この話題を出すには少し早いかもしれないが、仕方ない。
あまりにも急なお泊り会が始まった時点で避けては通れない話だ。
「先輩‥‥‥飛び出そうとしてましたよね」
「申し訳ないとは思ってる」
先輩はやたら萎縮する。
「それはさっき聞きました。
私が聞きたいのは、『どうして』です。
‥‥‥どうして、そんな危険を冒してまで猫を助けようとしたかってことです」
「どうしてって言われてもな‥‥‥」
先輩は遠くを見つめるようにして、私たちから視線を逸らす。
「原因がわからないことには、また同じことが起きてしまうかもしれない。
もちろん、私は何もできなかった。ただ見ていることしかできなかった。
今回は結愛が呼び止めてくれたから間に合ったけれど、次はどうなることかわからない」
想乃華先輩は深く息を吐き、問い質す。
「想志にとって、そこら辺にいる動物は自分自身の命を賭けてでも助けないといけない存在なの?」
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要は『どうしてそこまでする必要があるのか』ということ。
それが彼女たちが尋ねたいこと。
変に勘付かれるリスクを考えれば、答えない方が良いというのはわかりきっているが、今回のように助けてもらったのに話さないわけにはいかないだろう。
どうすべきか。
聞かれたことだけ答えるか。彼女らが理解できるようにすべてを話すべきか。
真摯なのは後者だ。まず間違いなく。
だけど、だからといって余計な心労を背負わせるのか。迷惑をかけるのか。
それらが頭の中で渦巻いていた。
あるいは、何も真実を話さず、真に限りなく近い嘘を並べ立てるか。
「俺は―――」
「先輩。勘違いしないでくださいね」
視線の先に目を向けると、いつもはおちゃらけた後輩が背筋を正し、極めて真剣な眼差しを向けていた。
「たとえ、先輩がどんな人でも私たちは先輩を否定することはありません。
それを知ったところで重荷にすらなりません。
むしろ、知れてラッキーぐらいの感覚です」
口をつぐむ。
『どうしたいのか』
それはわかってる。
ただ、
『どうすべきか』
それに頭が支配されそうになっているという、いつもの出来事。
「それに、ほら‥‥‥両親がいないってクソ重い話をしたんですから、先輩だってそれぐらいの激重な話してくださいよ。
割に合わないじゃないですか」
「要はね。私たちは想志が本当のことを話してくれるのを待っているんだよ。
今更こんなこと言わせんなよってのが私たちの気持ちではあるけど、想志の場合だと、それを言わないとわからないだろうなーって思ってさ」
「わかった」
深く息を吐く。
「それがお前らが望んでいることだって言うのなら、そうするよ」
たぶん、初めてちゃんと二人と目が合った気がする。
それはきっと俺が今まで正直に向き合えていなかった証拠。
二人の願いを盾にして話すのは卑怯だが、そうでもしなければもしもの時に後悔してしまうから。
「長い話になる」
「いいよ」
「いいですよ」
ふっと笑みが零れる。
こうして笑えたのは一体いつぶりだろう。
俺はやっとこの生き方を抱えなくて済むのか。
ああ―――やっと。やっとだ―――
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0:00
お泊り会というネーミングの割にはドキドキ要素は全く無く、当然キャッキャウフフな展開があり得るはずもなく布団を被ってる次第。
話を聞いた。
本当に、本当に長い話だった。
全くもって整理できていない。
一つ思うのは、私には共感することができなかった。
そうなんだろうなという確信めいたものもあったが、ほとんど知らないことばかり。
こんなに一緒にいるのに何も知らずにバカばっかりやってごめんなさいという気持ちと、それでもその一瞬一瞬があなたの心を休める場所であればいいと願った。
誰かを助けることにおいて優先順位をつけていないのに対しては、やっぱりという思い。
だけど―――
「俺にはわからないんだ」
あそこまで圧をかけて話すように強要したのにもかかわらず、聞かなければよかったという思いも強くある。
「楽しいとか‥‥‥嬉しいとか哀しいとか‥‥‥辛いとか」
「そんなのもうわかんなくって、それらしい感情をそれらしく表現しているだけなんだ」
なにそれ。
じゃあなに。私たちと話してる中で見せたあの笑顔も悔しそうな顔も全部演技だったってこと?
なにそれ。なにそれなにそれ。
助けた人を勘違いさせて余計に傷つけた?助けたいと願った人を害するばかりだった?
困ってる人を見たら助ける意外選択肢がない先輩は、他の人と関わりを断絶することしかできなかった?
終いには、それでも向こうから近づいてくる女どもを寄せ付けないためにわざとみんなの嫌われ者になった?
そうして他人を傷つけて、欺いて、自分の心すら偽って、自分の感情すらわかんなくなって精神崩壊を起こした?
ああもう、いっそのこと先輩をぶん殴ってやりたい気分。
ふざけるな。わたしは‥‥‥わたしたちは‥‥‥
「赤の他人なら拒絶してもなんとも思わない。
でも、お前たちなんだ。
誰よりも大切なお前たち二人を一時でも拒絶したから俺は―――」
先輩はもう十分すぎるほど頑張った。
誰かが彼を止めなくちゃ何も終わらない。
―――ううん。誰かが終わらせなくちゃいけない。
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Interlude
大方、予想通りだった。
彼の在り方は見ての通り。
感情についても、彼の昔の頃を知っている人ならなんとなくわかる。
彼は昔から、根っからの正義の味方だった。
曲がったことを許さない。歪んだなにかを見過ごさない。
幼い頃、私はその在り方をかっこいいと思った。
私もそうなりたい。助けられるだけの存在なんて真っ平だと。
だけど、じゃあ自分が同じようになれるのかと言われたらそんなに簡単な話ではなくて、端的に言うなら無理、できるわけない、以上。という感じだった。
今なら思う。
あれはかっこよくて美しいものであると同時に、自身を何一つ優先しない正義の味方こそが一番の歪みであったということ。
世にいう、英雄なんてのは大概そんなものだ。
『一』よりも『十』を選ぶ。
それこそが正義の味方であり、人間が持つ美徳であると。
ほんとうに?
それがアイツにとっての幸せだっていうのか?
他人の幸せなんて決められない。
アイツは相対的ではなく、絶対的な価値基準に基づいた幸せを得る人間だ。
そんなアイツが正義の味方で在り続けるのは、それがシアワセだと信じているのは本当にそうなのか?
何が正しくて間違いなのかを決めるのは、いつだってアイツだ。
アイツの人生なんだ。だったら人生においての正しさを認めるのが友達ってもんだろう。
‥‥‥ほんとうに?
悩んでも答えなんて出ない。出るわけがない。
すぐに‥‥‥いいや、きっと一生かかっても誰もが納得できるような答えは出ない。
それでも―――わたしは、アイツに生きていてほしい―――
Interlude out
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話したことに後悔はない。
悔いがない以上、それは自分が正しいと信じた道。
やり直しも、清算も、求めない。
何か大切なものを失ったのなら、その輝きに見合うだけの何かを手に入れるまで走り続けるだけのこと。
今までと同じだ。
これまでの道に後悔はなく、これまでの全てに納得できる。
最後に手に入れたものが、最初に願ったものとは違っただけ。
それだけなんだ。
それが、輝井想志の終着だ。
だからこそ、思う。
行き着くところまでいったからこそ、思う。
ほんとうに―――これで終わりで良いのかと。
それでも―――足掻くだけの力が残っているのなら。
もう一度、自己矛盾に塗れた地獄に踏み入れるだけの覚悟があるのなら。
「俺は、この終わりの先を望んでしまっても良いのか」
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電気を消してどれほどの時間が経っただろうか。
1時?2時?
まあどっちにしろ、朝焼けなんて来なければいいのに。
「先輩。小さい頃は何になりたかったんですか?」
結愛の声。
いつだってそうだ。今日だってそう。
いつも、結愛が私たちの静寂を破ってくれた。
結愛がいなかったら、私たちはとうに詰んでいた。
当然、ゲームセットではなく、ゲームオーバーの方。
「小さい頃か‥‥‥なんだろうなあ」
他人事のように、想志は呟く。
「プロバスケットボール選手でしょ」
「ああ、そういえばそうだったな」
「え‥‥‥なんで想乃華先輩知ってるの!?」
「なんでって‥‥‥小学校の頃、授業参観で将来の夢を発表するみたいな授業があって、たまたま覚えてただけだよ」
「むむむ」
ふふん。これが幼馴染や。どや。
「それで、今はそういう気持ちとかないんですか?
またバスケしたい!とか」
「んーそういうのはないかなー」
「そっかぁ」
結愛が残念そうに呟く。
「じゃあじゃあ!憧れてたことは??昔こうしてみたかったんだよね―とか、こういうの好きだったんだよね―とか!!!」
「んーーー‥‥‥んーーーーーー」
改めて、想志が何が好きで何が嫌いなのかを何も知らなかった自分自身に腹が立つ。
ていうか、そんな当たり前を自然と求めようともしていなかったアイツにも腹が立つ。
「そうだなあ‥‥‥強いて言うなら、恋愛とか‥‥‥してみたかったなあ」
ん?んんn?????
私の聞き間違いkッッ‥‥‥!!!!!
っべ、あまりの驚きに舌噛んじゃった。。
「れ、れれれれr,れ、れんあいいいいいいいいいッッ!!???」
目も当てられん。私と同じ惨状を目にしてしまった。
「ったくもう、先輩のせいで舌噛んだんですけど!!」
「なんで逆ギレなんだよ。そんなに意外かよ」
「意外も意外!超!意外ですよ!!!」
「そこまで言われるともはやお前失礼だろ」
「いやいや、いきなりそんなこと言うからですよ」
「俺のせいかよ‥‥‥」
痛い、いったたと嘆いてる結愛を横目に尋ねる。
「それで、想志はどんな子がタイプなの?」
「タイプかあ。考えたこともないな」
「うっ‥‥‥」
聞いた私がバカだった。
好きも嫌いもない人間にタイプの女なんて聞いても無駄だった。
「え!じゃあじゃあ!わたし!!私みたいな人ならどうですか!先輩!!」
結愛のグイグイ加減に想志は気圧される。
「あ、いやあ、結愛は良い奴だし、モテるだろうし‥‥‥彼氏いないほうが不思議っていうか」
「え」
「これは持論だが、俺みたいなのに構ってくれるほどのお人好しに彼氏がいない方がおかしいだろ」
「うっ」
痛い。悪意のない褒め言葉ほど痛いものはない。
「え。違うの?」
想志は首を傾げ、きょとんとした顔で尋ねる。
「「彼氏いたらお前ん家に泊まるわけねえだろうがあああ!!!!」」
それ以降は語るに及ばず。
血も涙もない冷酷無残な問いかけが彼女たちを突き刺し続けた。
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ただ一つ思った。
こういうのも良いものだなあって。