三匹目 後編
◆◇◆
「クソ親父、色々ふざけんなこのクソが」
『やあ不亞武流。蜘蛛ちゃんからお前が逃げ出したって聞いたけど、その様子だと無事だったみたいだな。よかった』
「うるせェ! 今さら父親面か? てめぇがおれに何をしたか──何もしなかったか忘れたわけじゃねぇだろうなぁおい!!」
『悪いね。でも蟲喰学園は安全だからそこにいるといい。蜘蛛ちゃんがいるからね、蟲喰学園以上に安全な場所はない』
「父親面すんなって言ってるだろうが殺すぞ!! それに安全だっつぅんならてめぇは何故蟲喰学園に行かねェんだよ!?」
『ボクにはボクでやりたいことがあるからね』
何も変わらない。
何ひとつ変わることなく、相変わらず飄々とした調子で喋る父親の声に不亞武流はスマートフォンを投げたい気分になる。それを必死で堪えて、怒りに震える声を絞り出す。
「──母さんは病死じゃなかったのかよ?」
『…………』
「答えろ!! てめぇは嘘吐いてたのか!? 母さんは何で死んだんだ!?」
それからしばらく、人気のない夜の住宅街に静寂が落ちる。
傍には雀蜂が、肩には小グモがいる以外には何もいない。蟲の、虫の一匹さえいない。
『〝ベルゼブブ〟に殺された』
ベルゼブブ。
蠅の王。失楽園の、ボス。
『お前の母さん──虫明蟲姫、旧姓蟲喰蟲姫。もう察してるだろうとは思うが、蜘蛛ちゃん雀蜂ちゃん百足くんの叔母にあたる。つまりお前たちはいとこってことだ』
「…………」
『蟲喰一族は代々優秀な蟲遣いを輩出する一族でね。生まれてすぐ、あらゆる蟲が生きる温室に置いてどの蟲が寄ってくるか見る慣習がある。名前も、そうやって決まる。蜘蛛ちゃんの場合はクモがいっぱい寄ってきたから、って風にね』
「…………」
『そしてお前の母さん……蟲姫は全ての蟲に愛される存在だった。全てを魅了し、総てを従えることのできる究極の蟲遣い──だから殺されたんだ』
その言葉で不亞武流は唐突に思い出した。
扉の隙間から覗き込んだ向こう側で一心不乱に、憎々しげにハエを潰し続ける父親の姿を。虫狂いの父親にあるまじき姿を。父親もまた──虫好きでありながら単なる虫好きではいられない人間である事実を映し出した、姿を。
ベルゼブブ。蠅遣い。
そういうことか、と不亞武流は唇を噛んだ。
『お義父さん──お前や蜘蛛ちゃんたちのおじいさん、蟲喰螽斯と相打ちになって以来大人しかったけど……また活発化してきたようだからお前は蟲喰学園にいなさい』
「だから父親面するなって……!」
『少なくとも百足くんくらい強くなるまでは、蟲喰学園にいなさい』
いつもの飄々とした、神経を逆撫でしてくる声とはおよそかけ離れた真摯な声色に不亞武流は息を呑む。
『お前のことだから大人しくしてはいないだろうし、それなら蜘蛛ちゃんに認められるくらい強くなってから出ていきなさい。今のお前じゃ百足くんどころかクラスメイトの誰にも勝てないだろ? 蜘蛛ちゃんに至ってはお前、目を合わせることさえできないんじゃないか?』
「っ……何をっ!!」
不亞武流がカッと激昂しかけた瞬間、耳障りな金属音とともに爆音が耳を劈いた。
『ッ──ああすまん。もう切るぞ。後のことは蜘蛛ちゃんにお願いしてある。じゃあな』
「っちょおい待てっ……」
プツッと不亞武流の制止も虚しく通話は切れた。
スマートフォンの画面に表示されている時間は午前四時五十分。夜明けがもう近い。
「……不亞武流くん」
「…………何なんだよ、畜生……」
どうすればいいのか、不亞武流にはもう何もわからなかった。
キシキシと耳元で小グモが前肢を何度も足踏みして、慰めるような動きを見せていた。だが不亞武流の荒んだ気持ちはそれでも静まらなかった。あまりにも色々ありすぎて、もう何も考えられなかった。
どこに行けばいいのかわからない。
どこに帰ればいいのかわからない。
どうすればいいのかもわからない。
感情のぶつけ先さえもわからない。
なにも、わからなかった。
「──不亞武流くん、帰りましょう。寮へ。きちんと手当てをしなければなりませんし」
「…………」
雀蜂の言葉に何も返さず、手を引かれるまま力なく歩き出した不亞武流にキィキィと小グモが哀しそうな鳴き声を上げる。
それからほどなくして蟲喰学園に帰り着いた一行はそのまま、寮へ向かった。午前五時すぎ──空は既に明るみ出しているものの、起床時間にはまだ早い。だというのに、寮のラウンジには明かりがついていた。音鳴先生や蜘蛛あたりでもいるのかもしれない、などとぼんやり考えながら不亞武流は雀蜂に引かれるまま、寮に入る。
「おー!! 帰ってきた帰ってきた!! ファーブルおっかえりー!! しょっぱなから脱走とか笑いすぎてほっぺた痛いんですけど」
「おかえり不亞武流、姉さん。よかった無事で」
「おかえりぃ……よ、よかったぁ……あう!? よ、よくなぁい! ファーブルくん、その血どうしたのぉ!?」
「おかえりなさいファーブルさん、雀蜂先輩。救急箱は用意していますよ。保健医がいないのでワタシがやらせていただきますが……怪我の様子は如何ですか?」
「おかえり……心配した……」
「まったくでん。ファーブルがいなくなったって聞いた時はびっくりしたでん」
「何はともあれ、無事に帰ってきて一安心っちゃ!」
不亞武流は呆然と目を見開いた。
共用フロアのラウンジ。そこにはパジャマ姿のクラスメイトたちがいて、不亞武流の帰還に嬉しそうな笑顔を浮かべながら思い思いに騒いでいた。
「な、んで……」
「部屋に戻るよう言ったのですが、不亞武流くんをここで待つと言って聞かなかったのです」
困った後輩たちですこと、と雀蜂が微笑む。対照的に、不亞武流は苦しそうな表情で押し黙る。
「いや、ぼくは姉さんが行くし大丈夫だろって寝ようとしたんだけど。さそりが聞かなくてさ」
「ワタシもです。ハサミさんに叩き起こされたと思ったらここに連れてこられて、そのまま帰るに帰れず徹夜ですよ」
「別にいーじゃんオールくらい。大したことないっしょ。トランプ楽しかったっしょ」
別に好きで不亞武流を待っていたわけじゃない、と語るクラスメイトたちであったが、どこか不亞武流への気遣いに満ちているように見えて、それが不亞武流の胸をさらに軋ませる。
「……なんでだよ」
「ん?」
「なんで……なんでそんなにおれを構うんだ!? 放っておけよ!! てめぇらだって心の中でバカにしてんだろうが!! しょーもねぇ不良がバカやったって笑ってんだろうが!! お優しいふりして何のつもりだ!!」
言って、自分で自分の言葉に傷付く。それを自覚しながらも不亞武流はなおも、感情任せに叫ぶ。
「おれをバカにするのもいい加減にしろ!! どいつもこいつも……!! 虫狂いのキチガイのくせにイイヒトぶるんじゃねえ!! きめぇんだよボケッ!!」
言って、激しく後悔する。それを自覚しながらも──不亞武流は、なおも言葉のナイフを振りかざそうと口を開く。
そこにさそりがチョコレートを放り込んだ。
「ほれ食えや食え。うまいべ」
「っぐほ! な、なにを」
「要するにうちらが不亞武流に優しくする理由知りたいってワケじゃん? ンなの簡単っしょ。うちら友だち少ないもん」
中学ん時ぼっちだったし、とさっぱり言って笑うさそりに毒気を抜かれて、不亞武流は唖然とする。
「んー、確かにぼくらテンション振り切れ気味だった?」
「そうかも……しれませんね。なにしろ久々に同級生と楽しく会話できたものですから」
「ぅ……うん。ずっと……ひとりぼっちだったからぁ」
「だね。確かにちょっとはっちゃけていたかもしれないなぁ。だって心の底から素で喋れるって思った以上にストレスフリーでさ。おっと、でんでん!」
「……よく、わからないけど……おらは田舎育ちで……虫好きで、農家の子で……こんな風に、わいわいしたこと……なかった」
「あー……えーと、俺っちはわりと普通に友だちいたっちゃけど……えーと。なんかこう……楽しくないっちゃか?」
それぞれがそれぞれの違った反応を返す。蟲喰学園に元々通っていた蟲遣いの面々は地元の中学校で強制的に〝身を隠す〟ことをせざるを得なく、だからまっとうな人間関係を築いた者はいなかった。さそりも、百足も、てふてふも、灯籠も、でんでん丸も。
後天的な蟲遣いであるモグラとハサミは比較的普通の境遇で育ったため他の五人とは感覚が違うが、せっかくできた仲間たちは大切にしていきたいと、ただそれだけの想いからここにいるようであった。
「…………」
暖簾に腕押し。糠に釘。泥に灸。沼に杭。豆腐に鎹。
不亞武流が何を言っても無駄だった。当然である。彼らは深いことを考えているようで、何も考えていなかったからだ。抑圧されていた素を曝け出してもいい場所で、志あるいは趣を同じくする仲間たちと過ごせるという事実が一種のドーパミン過剰分泌状態を呼び込んでいたのだ。
要は、高校デビューのはっちゃけである。
要は、好きなものに巡り合えたオタクの興奮状態である。
百足たちはどこまでも華の、いや蟲の高校デビューを果たした蟲オタクであった。
「…………」
不亞武流は脱力して、崩れ落ちた。
キィキィと小グモが慰めのつもりか、前肢で不亞武流の耳たぶを弾いた。
「お? 蟲いんじゃん! なに、不亞武流の蟲? かっわいー!」
「わっ……ほんとだぁ。白くてもこもこで……目がエメラルド色! かわいいねぇ」
子グモに気付いた女子二人がきゃあきゃあとはしゃぎ出すのを他所に、不亞武流は腹立たないのかと呟く。
「コイツは平気なのに……てめぇらのは何でダメなんだよとか……思わねぇのかよ」
「思うわけないべ? フツーじゃんね」
「うん……やっぱり、うちの子が一番だしぃ……」
「その一匹が平気ならこっちも一匹くらい、とは思いますがね。普通でしょう。我が子は好きでも他人の子どもは嫌いとか、自分が触るぶんには平気でも相手から寄られるのは苦手とか」
「そんなに深く考えなくていいよ、不亞武流。ねぇそのクモ、かわいい?」
「…………」
不亞武流は気まずさから視線を落としていた顔を上げて、さそりとてふてふの黄色い悲鳴を受けてはしゃいでいる小グモを見下ろす。
ふっと、諦めにも似た笑みが零れ落ちた。
「可愛いな」
「うん、それでいいんだよ。まあぼくのムカデのほうが断然かわいいけど」
「何を言うっちゃか! 俺っちのクワガタムシが世界一っちゃ!」
「みみず」
「でんのカタツムリが! ──いやカエルの方がかわいいでんね」
「アンタそれカタツムリに聞かれたら圧死ものっしょ。てかうちのサソリのほうが可愛いし」
「わ、わたしの子が! いちばんっ」
「……何でもいいですけどね、そろそろ手当てさせてください。その様子だと大丈夫そうですが、まあ一応」
わあわあと騒ぐ一年生の面々を眺めて、少し離れたところで静観していた雀蜂は微笑む。この様子であれば不亞武流は大丈夫そうだと、こっそり子飼のスズメバチに伝えて蜘蛛の元へ行かせる。
それから一年生たちに今日は午後からの登校扱いにすることが決まった旨を伝え、部屋で休むよう促した。
◆◇◆
倒れ込むようにベッドに転がり、泥のように眠った不亞武流が目を覚ましたのはそろそろ正午になるかという時間帯であった。
「おはよォ」
「んあ? ああ……」
まどろむ意識の中、ざんばら髪に三白眼がよく似合う中学生くらいの幼い少女と目が合った。遭った。
不亞武流は絶叫した。
相部屋の百足が飛び起きてきたが、なんだ姉貴かと言い残してすぐ二度寝してしまった。
「こらこら、二度寝しないのォ。そろそろ昼休みだからみんなで食堂に行ってきなねェ」
「あーい」
力なく返事してのろのろとベッドから抜け出す百足を傍目に、不法侵入者──蜘蛛は口元を愉快そうに吊り上げながらおれの傍で寝ていた小グモに手を伸ばす。小グモが一瞬体を震わせるが、特に抵抗するでもなく蜘蛛の手のひらに転がされた。
「めっずらし。〝ヒスイタランチュラ〟だね。僕の子どもにもいないよ」
「ヒスイタランチュラ……?」
「そ。おめめがエメラルドみたいにキレイでしょォ? 古代種って言えばいいのかなァ。蟲の中でも抜きんでて目がいいみたいだよォ。もう絶滅したと思ってたけど……どこでこのコを?」
言われて、不亞武流はあーと思い出したように手を伸ばしてお守りを引き寄せる。中身を失くしくにゃりと潰れてしまったお守りはもはやただの布切れで、なんとなく寂しさを覚えつつそれを蜘蛛に見せる。
「……母さんが昔、くれたお守り」
「! ──蟲姫おばさんが?」
「知ってんのか?」
父親が言った通りやはり蜘蛛と自分はいとこ同士なのか、と不思議な気分になりつつ不亞武流はベッドの上で胡坐を組んだ。
「すごくちっちゃい頃にね。あまり覚えていないけど……お腹が大きかったから、キミがお腹にいる時かなたぶん」
「…………」
「そっか、蟲姫おばさんから……中にはヒスイタランチュラの卵が入っていたワケだァ」
そう。そして何が呼び水になったのか、不亞武流が危険な目に遭った瞬間孵った。孵って、迷いなく不亞武流を守る行動に出た。
まるで、我が子を守ろうとする母のように。
「…………」
虫嫌いであるはずの不亞武流がこの小グモだけは平気なのは、そこに起因するのかもしれない。あるいは単純にずっと肌身離さず持ち歩いていたから、無意識のうちに体が慣れたか。
「このコお腹空いてるみたいだよ。蟲は基本的に雑食だから人間の食べるものも普通に食べるし、一緒に食堂に連れてってやんなァ」
そう言いながら蜘蛛がころりと小グモ──ヒスイタランチュラをベッドに転がす。途端に、ヒスイタランチュラは逃げ込むように不亞武流の首筋に飛び乗った。
「ヒスイタランチュラは成長しても手のひらサイズだからいつでも連れ歩けていいねェ。ただ、たぶんつがいはいないから子孫を残すのは難しいと思うけどォ……ま、それは今どうでもいっかァ」
そう言いながら部屋の窓を開けてよっこらしょと足を掛ける蜘蛛に不亞武流が慌てて声をかけるが、杞憂であった。
赤く毒々しい肢と牙が印象的な、黒い毛に覆われたクモに蜘蛛が跨ったからである。ひくりと頬を引き攣らせる不亞武流の目の前で、クモはズシンズシンズシンと音を立てながら蜘蛛を載せたまま、壁を駆け上っていった。
「…………」
「あれ、姉貴もう行ったんだ。不亞武流も早く着替えろよ。食堂行こう」
詰襟を寸分の乱れなく着こなす百足に促されるがまま制服をおざなりに着崩して、ヒスイタランチュラを頭に載せて不亞武流はふらふらと部屋を後にする。
道中で灯籠にハサミ、モグラとでんでん丸とも合流して、食堂ではさそりやてふてふも待ち構えていて──そうしてまた、一年生でひとつのテーブルを囲んで昼食と相成った。
まだ四時間目が終わる前だからか一年生しかいない。そして、相変わらず蟲の気配もない。厨房では食堂のおばちゃんがせかせかと料理を並べているのが見えるが、従業員のカマキリたちは不亞武流から絶妙に見えない位置にいる。
キィキィと鳴きながら不亞武流のハンバーグに喰らいつくヒスイタランチュラを制しつつ、不亞武流は考える。
色々ありすぎた一日であった。だが午前中泥のように眠ったおかげか不亞武流の頭は思ったより冷静であった。父のこと。母のこと。蟲喰学園のこと。蟲遣いのこと。ヒスイタランチュラのこと。失楽園──否、失笑園のこと。ベルゼブブのこと。考えることは山のように会ったが、不亞武流が何よりも思考を優先させたのは──クラスメイトたちのことであった。
クラスメイトたち。
一見すれば奇人にしかみえない連中であるが、昨日からずっと不亞武流のことを気にかけている。これまで不亞武流のことを気にかける者などひとりとしていなかったというのに、だ。いわゆる〝不良仲間〟でさえ、不亞武流が警察に掴まった時にはあっさり見捨てた。不亞武流とて逆の立場ならそうするからそのことに文句はなかった。が──このクラスメイトたちに関しては、そうしたくないと考える自分がいることを自覚して、不亞武流はヒスイタランチュラを避けながらハンバーグをつつく。
今までにない気持ちであった。
蟲好き蟲オタク集団が高校デビューでテンション振り切れて不亞武流に構っているだけだとしても、それを無下にしたくないと不亞武流は思ってしまっていた。
──不亞武流のことを大切にしてくれるひとのことを、不亞武流も大切にしてあげてね。
ふと、母の声が脳裏に蘇って不亞武流は箸を止める。
いつ聞いた言葉であったのか思い出せない。が、直後に母の葬儀が脳裏に蘇るところを見るにもしかしたら母が亡くなる寸前のことなのかもしれない。そう考えて、不亞武流はクラスメイトたちを見回す。
好き放題、テンションに任せて喋りたいことを喋るクラスメイトたち。
考えることは多々あったものの、不亞武流はとりあえずひとつ、腹を括ることにした。
「おい、お前ら」
「あン? うわっ、クモちゃんソースまみれだし! ウケる!」
「母さんに言えば蟲用によそってくれますよ」
「どしたの、不亞武流」
ひょいっと横からヒスイタランチュラを持ち上げて布巾にくるみながら、百足が上目遣いに伺ってくる。蜘蛛や雀蜂とよく似た目元にさすが姉弟だな、などと関係のないことを考えながら不亞武流は口を開いた。
「蟲……おれに近付けるのはやめてほしいけどよ、連れても……いい、ぜ」
ぼそぼそとした、聞き耳を立てなければ聴き取れない小さい声であったがクラスメイトたちの耳にはしっかり届いたらしい。クラスメイトたちが目を丸くしているのを前に、不亞武流は照れ臭いやら気まずいやら申し訳ないやらで顔を赤くする。
「マジか! 神! あざっす!!」「それはありがたいです」「やった……! うちの子、おいで……!」「でんのでんでんがでんででんでん!」「ありがと……おら、寒かった……」「よかったっちゃ! 俺っち寂しかったっちゃ」
蟲が一気に湧いた。それはもう、食堂の床どころか壁や天井を真っ黒に染め尽くす勢いで。
不亞武流が絶叫しながら唯一、蟲を呼ばずにいておいた百足にしがみついて──けれど結局卒倒してしまうのに、そう時間はかからなかった。
【※スズメバチはメスしか刺さない。が、働きバチは全員メスである】