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郷愁

作者: しおこんぶ

つれづれなるままに──

心にうつりゆくよしなしごとを──を素でいってます。

 雨が降りはじめた。買ったばかりのノートが濡れてしまわないようにランドセルに入れる。

 我が家は貧しくて文房具を買うのも難しい。一時限ごとにノートを1ページだけ使うようにしている。精いっぱいの小さな文字で書かれたノートは、いつも先生に注意される。先生は拡大鏡を持ちながら、


 老眼だから小さな文字は見えないんだ、先生に優しい文字を書いてくれ。


 困った顔していうんだ。きっと僕の家が貧しいのを知っているんだと思う。

 鉛筆は削りすぎないようにそっとナイフを入れる。芯を削らないようにしているから文字はいつも太い。なのに小さな文字だから画数の多い文字はちょっと潰れている。老眼の先生はさらに読みづらいだろうな。

 

 消しゴムも大事にして使わないように気を付けている。書き間違いをしないように、ゆっくり丁寧に書く。そのおかげか習字の授業で文字はきれいだとよく褒められる。


 学校が終わったらいつも友達と野球をする。たまに鬼ごっことか。グローブとバットは近所のお兄ちゃんからもらった。ボールも一つだけ持っていたけど、ホームランを打った時に屋根に飛んでいったきり落ちてこなかった。

 

 今日のような雨の日は公園の東屋に集まって独楽を回して勝負している。家に着いたらランドセルを置き、独楽を持って公園へ走る。

 小雨だから傘は使わない。

 走ればあまり濡れないから。



───いつもここで目が覚める。


「またかよ。」

 深く息を吐き、寝返りをうって布団をかぶりなおす。

 夢はいつも雨が降り始めるところから始まり、雨の中を走って公園へ向かっている途中まで。見たことのない風景。見たことのない我が家。知らない小学校。独楽なんて見たことがない。

 夢の中に両親は出てこないけど、夢の中の僕はちゃんと両親の顔を知っている。だけど、その両親は──

「知らない人なんだよなぁ。」

 時代も少し昔だと思う。土の道ばかりでアスファルトの道はどこにもない。平屋か2階建ての木造ばかりでビルなんて見えなかった。夢の中の僕の家は木造の平屋だった。現実はマンションで僕が生まれる前から住んでいる。


 夢の中の僕の家族は仲が良くて、朝食と夕食は必ず家族がそろってから食べる。

 現実の家族とは正反対。最後に食事を一緒にとったのっていつだったかな。

 

「いまさら、家族っぽい事をしたいとも思わないんだけどな。家に居ても顔を見ない日のほうが多いし。」


 夢には小学校だった頃の僕の理想の家族がいた。ただ、理想を夢に見ているだけなのだろうか?

 今さらだ。

 夢にみるなら小学校の時に見ろと自分に言いたい。


 ただ、目が覚めると夢の中の世界はとても懐かしく感じている僕がいる。祖父母が住む田舎とも全然違うのに、とても懐かしい。


 覚えていないだけで、行ったことがあるのだろうか。もし、あの場所があるのなら帰りたいと思う自分がいる。

不思議なことに行ってみたいのではなく、帰りたいと思うのだ。


 




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