007
――ルマン州・グランドルマン州府庁――
(YAMAME’S EYES)
深海には、人によく似た様々な種族が七種存在していた。
海神ポセイドンによって生み出された七つの種族、その中に亀人族と言われたタートリアがある。
タートリアも、また種族で国を作っていた。
タートリアの国は、五つの州が集まった合衆国だ。
中でもルマン州は、領土は狭いモノのタートリアの中心に位置する重要な州だ。
ルマン州の州領主が、タートリアのいわば代表になる。
ルマン州のほぼ中央にある、大きな都市『グランドルマン』。
グランドルマンに、州府庁と言われる建物があった。
平屋で、二階の概念が無い深海の建物。
だけどグランドルマン州府庁は、ビルのような建物だ。
水岩石の壁に、ガラス貼りの窓は大きい。
その中の一室で、二十畳の部屋に大きな長机。
中央にある背もたれのない椅子に、一人の大きな亀が座っていた。
亀の顔は、人間の肌で女の顔をしていた。二足歩行の大きな亀。
紫色の長い髪を、縛った女は上座の背もたれの無い椅子に座っていた。
背負っている甲羅の色も、髪の色と同じで紫色だ。
それが私、『ヤマメ・イシュター』だ。
ルマン州を統括する州領主、つまりタートリアの最高権力者……という呼ばれ方をしていた。
私はそんな呼び方は好きでは無いが、便宜上他種族との交渉をするのが仕事だ。
私の種族タートリアは亀の甲羅を背負うこと以外、人間と同じ姿だ。
それでも水の中は自由に泳げるし、水の中で生きていけた。
タートリアの服は、前掛け服で後ろに甲羅があるので前だけの服を着てオシャレができた。
私の服は、白のワンピースだ。州領主というより、町娘風の格好だ。
だけど、私はこの格好を気に入っていた。
「相変わらず、クロコノイドはやりたい放題ね。野蛮よね」
「はい、おっしゃる通りです。ヤマメ様」
座る私の目の前では、一人のタートリアが立っていた。
肌色の顔と手足、緑色の亀甲羅。痩せ気味の体に、亀の甲羅が重そうに見えた。
メガネをかけて、長い長髪の知的な男のタートリア。
彼の名は、『ワニエソ・エイム』。
着ている前掛け服は、白いスーツだ。
つまり前は白いスーツ、後ろは緑色の亀甲羅でオシャレをしていた。
州領主の私をサポートする、参謀だ。年齢も、私よりずっと年上。
「ルビア海域を攻めて奪い取った、クロコノイド。
ルビアを手にしたクロコノイドは、さらに北伐の準備を進めています」
「私たちタートリアと同盟を破棄した後、すぐよね?」
「はい、残念ですが」
難しい顔をしながら、私はワニエソから話を聞いていた。
「クロコノイドの動きは、どう思う?」
「彼らは、半魚人と全面戦争で勝利を重ねています。
北伐を続けて、今度はイラークを攻め滅ぼそうとします。その後はセンブレルも……」
「そうでしょうね」
半魚人とクロコノイドの戦況は、州領主の私の耳にも届いていた。
クロコノイドの勢いが、二年前から完全に逆転していた。
今から二年前は、クロコノイド軍は逆に半魚人に押されていた。
半魚人軍の圧倒的数の暴力で、クロコノイド軍は壊滅寸前まで追い込まれた。
元々貧しい土地で、ポセイドンの加護が弱い土地を支配するクロコノイド。
資材、食料も無く、クロコノイドの都フォーニアも陥落寸前。
そこで、クロコノイドが取った戦略がこれだ。
「クロコノイドは、私たちに同盟を結んできた。
元々タートリアと、クロコノイドは互いを野蛮と思い軽蔑していた種族関係。
それでも、手を取らないといけなかった。私たちも、数に勝る半魚人軍に攻められていたから。
数で勝る半魚人の軍勢を退けて、私たちは二年前の大戦を勝利した。
あの大戦後、多くの傷を受けて、失ったモノも多い。
そんな中で、得たモノがある。『七種族会議』が行なわれて、平和的な停戦条約を結ばれた。
それでも私たちタートリアは、復興に勤しむ中で、クロコノイドは戦いを選んだ」
「現状としては、そうでしょう。
烏賊種のコチ王も、鰐鱗族軍に手を貸しています」
「そうね。クロコノイドの停戦条約破棄は、深海世界に乱世の世に再び導こうとしている」
紫髪の私は、目をつぶって考えていた。
二年前の大戦から、クロコノイドと半魚人の形勢が逆転した。
「戦争では、何も生まないのに……」
「ヤマメ様、今後の方針ですが、どうされますか?
タートリアの長として結論を、お願いします」
「長は好きじゃ無いな、なんか私が長って感じも、オカシイよね。
私は若いし、ワニエソがいないと何も決められない」
「ですが、ヤマメ様は……州領主です。ルマン州の」
「分かっているって」ワニエソに言われて、覚悟は決めていた。
「州会議を開きましょう。そこで他州のタートリアの州領主の話を聞いて……」
「必要ないわ!」
私のいる領主の部屋に、突然一人のタートリアが乱入してきた。
真っ赤で派手な甲羅を背負い、赤く長い髪の女が前にあるドアから入ってきた。




