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水の中の戦争  作者: 葉月 優奈
一話: クロコノイドの皇帝
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006

三人のマーマンと一人のマーメイドが、王の間に揃う。

この三人は『マーマン四天王』という、選ばれし者達。

これは半魚人軍の中でも、なかなかないことだ。


四天王ビアス、ギマ、テトラ。そして王の俺だ。

四天王と王の俺が集まれた、それは『四天王会議』と半魚人軍の間で呼ばれていた。


参加しているのは王の俺以外は、全員四天王。

だけど、四天王は現在三人しかいない。

残念ながら、現在半魚人の中では四天王にふさわしい半魚人はいない。

強い人間を、王である俺が推挙して周りに認めさせて四天王になれるのだ。

深海世界は、実力社会。強いヤツが、上の地位に立って皆を導く。


「トルスクのことは、残念だった……すまないことをした」

「ナスチュン様が、謝罪することではありません。

悪いのはクロコノイドの、あの女将軍です!」

「父の仇を討ちたい。テトラよ、お前は思っているのだな?」

「無論です。あの女のことを、忘れたことは一度たりともありません。

あのクロコノイドだけは、あたしの手で討たなければなりません」

怒りを、必死に押し殺していたテトラ。


二年前の戦いで、クロコノイドのイエンツーユイにテトラの父トルスク将軍は殺された。

若いマーメイドのテトラにとって、殺された父の仇は許せるはずも無い。

二年経った今でも、彼女の恨みが晴れることは無い。


「いいんじゃないかのぅ?テトラにやらせても」

「時期尚早でしょう」ギマの推薦に、ビアスが否定した。

「なぜだ?テトラは強い恨みがある。親が殺された恨みだ。

恨みは半魚人を強くする、戦争の深海では強い想いは戦う理由として十分だろう。

テトラが倒す敵は、イエンツーユイだと分かっているのだから」

「無論だ」

「だが、今はダメだ。相手が強い」

ビアスの言葉に、テトラは首をかしげた。


「なぜだ?なぜ、あたしに戦わせてくれない?」

「イエンツーユイは、他のクロコノイドの将軍より圧倒的に強い。

彼女は、クロコノイドが誇る『軍神』だ。

まともに戦って、勝つこともできない。今のお前ではな」

「また、子供扱いするのですかビアス様!」不貞腐れた返事を、返していたテトラ。

「テトラ、お前はまだまだ若い。

実績をこれからも積んでいき、我が国の未来を支える貴重な人材だ。

この戦いで、お前が死んでしまっては半魚人軍の未来は暗い」

「しかしイラークが陥落すれば……未来も何もありません」

「大丈夫です、あの地は僕の出身地ですから」

三角帽子をチラリとあげて、不敵に笑っていたビアス。

話を一部始終聞いていた俺が、ビアスに顔を向けていた。


「ビアスよ、何かお前には考えがあるのか?」

「はっ、ナスチュン王。

まずは、イラーク海域での野戦を提唱します。

あの地は岩柱なる自然の障害物があり、土地勘がなければ岩場で迷う迷路のような場所です。

岩柱を避けるべく、上を泳ごうにも上には渦が頻発する海域です。

ルートとしては、どうしても岩柱の道を通らねばなりません。

ならばこの土地勘のある僕が、この野戦に向いております」

「確かに知将のビアスなら、適任だろう」

ビアスは、我が軍最強の頭脳の持ち主だ。

天才的な頭脳に、戦いにくい戦場。

これはクロコノイド軍に対して、強いアドバンテージがあった。


「ビアスよ、援軍はどうする?」

「いりませぬ。ボクの部隊だけのほうが、かえって戦いやすいです」

「僅か三千の兵でか?」

ローブ姿のギマが、首を傾げた。

テトラも、連れて行きたそうにビアスを見ていた。

だけど、老け顔のビアスは不敵な笑みを浮かべていた。


「ここは僕だけの兵で、十分です。後は、彼女に連絡を」

「連絡?ああ、クナシュア様か」

「ええ、ナスチュン様。

是非とも、彼女たちの力を援軍としてお願いします。

千ほどで充分ですので」

「そんな少数でいいのか?」

「ええ。彼女たちの少数精鋭は、大きな武器になります。

イラーク海域では、大軍はただの足枷になります。

どうでしょう、ここはボクに全てを託してください」

ビアスが積極的に、自分を売り込む。

普段物静かなビアスが、戦争に自らを売り込むのは珍しい。


俺が、ビアスの言葉を聞きながら腕を組んで考え込む。

テトラも、ギマも、俺の考える顔を覗き込んでいた。


数秒後、俺は重い口を開いた。

「よかろう、今回は全てビアスに任そう。

テトラは引き続き、センブレル南方の関所の防衛と兵の編成。

ギマは密偵、それからタートリアの動きにも気をつけよ。

あの亀女は、我が軍とクロコノイド軍の戦争中にしたたかに攻めてこないとも思えぬからな。以上だ」

俺の言葉とともに、三人の四天王は「はっ」と返事をした。


その時、俺は分からなかった。

ビアスがある覚悟を持って、イラークでの戦いを行なおうとしていたことを。




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