056
――グリアナ珊瑚森林・離れの小屋――
(TETORA’S EYES)
この海域の海は、他と少し色が違う。青ではない、緑色だ。
水色では無い北洋独自の色で、珊瑚と光る砂が地面を彩っていた。
この地は、珊瑚が生い茂っていた珊瑚の森。
珊瑚の森の中で、ぽつんと一軒家。
家は珊瑚を固めた材質を壁に使い、作られていた。
センブレルの戦いから、一ヶ月が過ぎた。
そんな一軒家に、あたしテトラ・アルバートは泳いでいた。
赤い鱗の下半身の尾びれを使いながら、あたしが泳ぐ。緑の海。
一軒家の前には、一人のマーマンが姿を見せていた。
「ビンナガ、どう?」
「はい、異常はありません。そちらはどうですか?テトラ様」
「完全に終わったわ、ここも……時間の問題ね」
あたしは、首を横に振った。
あたしの前、一軒家のそばに長い茶髪のマーマン。
頬がこけて、目にはクマができた疲れ顔のマーマン。
着ている服は、黄色いコートに黒い帽子を被っていた。
「テトラ、グリアナが陥落したのか?」
「ええ、あっという間の出来事だったわ」
「そんな……」落ち込んでしまう、ビンナガ。
マーマンの彼は、グリアナの出身だ。
ここには、彼の思い出がたくさんある場所だ。
だけど、クロコノイド軍の襲撃に遭い……水中都市グリアナは陥落した。
「グリアナを、攻略した指揮官はギマか?」
「ええ、ギマよ。アイツは裏切ってクロコノイドについたわ。
全くなんてヤツなの!」
ギマは、裏切り者だ。私は怒りが込み上げた。
水魔砲を使ったのも、初めから裏切る事を決めていたような気がした。
だとすれば、ギマをますます許すわけにはいかない。
「テトラ将軍、気持ちは分かります。
ですが、グリアナにはもう近づけないでしょう」
「そうね、だとしたら、どこに向かうの?
あたし達には、けが人も抱えているから……」
「考えらるのは、モータル」ビンナガが難しい顔で言い放った。
「正気なの?あそこは……」
「スキュラの国、今の段階だとグリアナ海域にも居場所はない。
僕らは、クロコノイド側の指名手配にもなっているし。
もう、ここも経たないとダメだろうね」
「そう……なんでよ」
あたしは、落胆した顔で見ていた。
半魚人の国で、マーメイドとして生まれて……敵に負けた。
負けたことで、私たちは半魚人の国を去らないといけない。
それはビンナガも同じ、あたしの前で彼も落ち込んでいた。
「これから、半魚人はどうなってしまうのだろう?」
「さあ、分かりませんが……」
ビンナガは後ろの一軒家を、チラリと見ていた。
「彼女が起きたら、聞いてみましょう」
「そうね、あたしもいっぱい話したいことがあるから」
あたしは、一軒家を開けた。そこは、狭い部屋だ。
奥には、一人眠っている何かがいた。
その寝息は、世界の変化も知らずに気持ちよさそうにずっと続いていた。




