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水の中の戦争  作者: 葉月 優奈
エピローグ
55/56

055

――ライタルク:地下道――

(ETSU’S EYES)

僕がいる場所は、ライタルクの城の外だ。

ライタルクは、珊瑚で彩られた城。

光の砂地の上を泳ぐと、珊瑚と岩で作られた水岩石の地面が見えた。

そこには石が積み重ねた祠。石をどかすと、地下に続く階段が見えた。


「ここでございます」

「そうか、ご苦労」

僕の隣には、クロコノイドの兵士がいた。鯨革鎧を着た、大型のクロコノイド。

青い皇帝服を着ている僕は、地下の地面に足をつけた。

ここには、僕が探し求めていたものがある。


僕の名はエツ……になりすましたトリトンだ。

本物のエツは、僕が消した。

セビド砦を奪ったクロコノイドの皇帝ゴンスイの退位後に、彼を消した。


かつて、エキドナになりすました僕は半魚人軍に挑んで破れた。

死の間際に、僕は逃げてチャンスを伺った。

そして、クロコノイド軍がセビド砦を奪って僕はエツに狙いを定めた。

エツを殺し、成りすまして今ここにいる。


「しかし、エツ様。長かったですな」

「ああ、そうだな」

僕の隣には、一人のマーマンが泳いでいた。

黒いローブを着て、フードを頭に被っていたマーマン。


「ギマよ、お主もご苦労だったな。おかげでようやくライタルクに辿り着いた」

「トリトン様が力を戻した暁には、私の一族共々よろしくお願いしますぞ」

「無論だ。お前達を、贔屓にしてやろうぞ」

「はっ」ギマは僕に敬礼をした。

そんな中、隣にいたクロコノイドは立ち止まっていた。

僕の話を聞きながら、数秒後には立ったまま眠っていた。


「次に起きたときには、忠実な下僕になりましょうぞ」

「さすがはトリトン様。お見事です」

僕の力に、ギマがオベッカを使う。

だけど、僕は歩きながらギマに声をかけた。


「一つ気になっていたのだが、イエンツーユイはどうした?」

「それがですね……行方が分からないようでして。

ナスチュンとの戦いの後、彼女は行方をくらましました」

「ふむ、まあよいだろう。害悪にはならぬだろうし。

後は、半魚人軍の残党だけど」

「それは、抜かりありません。既に軍を進めております。

半魚人軍とテンタルス軍の共同軍で、各地の制圧に向かっております」

「そうか、仕事が早くて助かる」

「いえ、臣下として当然でございます」ギマは忠実だ。

何かを企んでいるようだが、まずはこのまま少し彼を泳がせておこう。

いざとなれば、彼も消せばいい。


「ギマよ、問おう」

「なんでしょうか?」

「なぜ僕につくことを選んだ?」

「それは……やはりトリトン様に魅力を感じるからです。

神に反逆する『海を混沌に陥れる者』。その姿に、憧れます」

「ふむ、変わったヤツだ。

ポセイドンが、余計なことを深海世界に吹聴して印象操作をしていたのが僕は嫌いだけどな。

だが、お前に好かれるのならそれも悪くない」

(トリトン)は、ずっと悪者だった。

七種族は、僕を嫌って敵だと認識していた。

しかも、ポセイドンは僕の力も奪って抹殺しようとしていた。

だから僕は、父に反逆するべく力をつけた。


(ポセイドンは、このライタルクに僕の過去が残っている。

だから、どんなことをしてもここを守りたかったのだろう)

このライタルクを守るために置かれた、神器『水魔砲』だ。


あれは神ポセイドンが、半魚人に与えた兵器だ。

他にもいろんな武器を与えて、半魚人はポセイドンのお気に入りだと言うのが分かった。

現に、僕はあらゆる種族に変身できるが……なぜか半魚人には変身できない。

間もなくして、地下道の前には大きな扉が見えた。


「ギマよ。ここまで来てくれてご苦労だ。後は、僕一人で行く」

「ですが、エツ様。ここはポセイドンの封印がありませぬか?」

「そのために、これがある」僕が持っていたのは、グングニル。

これも神ポセイドンが、半魚人に渡した神器だ。

しかも、前回の戦いでイエンツーユイに折られたはずのグングニルが元に戻っていた。


「ナスチュンは、この武器の真の使い方を知らない。

この武器は、こうやって使うのだ!」

僕はグングニルを構え、扉を突いた。

突いた瞬間、扉の奥から光が漏れた。

漏れた扉の奥から、強い水の流れが感じられた。


「おお、いよいよだ。さあ、対面するぞ、かつての僕に……」

ギマが後ろで見ている中、僕は扉の前に両手を広げていた。


そして、僕はこう呟いた。

「さあ、新しい深海世界の始まりだ」と。



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