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水の中の戦争  作者: 葉月 優奈
四話:天下無双のクロコノイド女将軍
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――グランドルマン・州府庁・会議室――

(YAMAME’S EYES)

あの戦いから、あっという間に一日が過ぎた。

北洋のセンブレルで起きた半魚人の防衛戦の結果は、私たちにも届いてきた。


ここは会議室だ。二十畳程の広い部屋。

長机には、多くのタートリアが座っていた。

集まった面々は、いずれもタートリアの重要人物だ。

全員甲羅を背負うタートリアで、五つの州の領主が集まる。ただ一人、アカメを除いて。


タートリアの州領主の私ヤマメは、密偵から話を聞いていた。

黄色い亀の甲羅を背負い、私は難しい顔を見せていた。


「報告は以上です」

「そう」私は落ち着いて話を聞いていた。

「かなりマズいな」別の州領主のタートリアの男が、厳しい言葉を言う。

「ええ、マズイです」やはり、別の州領主のタートリアの若い男が続いた。

「クロコノイドは、これで半魚人の王都センブレルを手に入れた。

あそこは、北洋の中でも大都市。あそこを手に入れてしまっては、クロコノイドを止められなくなる」

クロコノイドの勢いは、今以上だ。

巨大な大都市を手に入れ、豊富な資源も手にした。

しかも、手にしたのがエツ皇帝だ。彼にはトリトンの疑惑がある。


「センブレルを追われた半魚人軍は、どうなったの?」

「ナスチュン王は、戦死。イエンツーユイと戦って亡くなったそうです」

「じゃあ、イエンツーユイは?」

「彼女も死にました」

密偵の話を聞いて、私は唇をかみしめた。


「ヤマメ様……」

「全く、馬鹿なことをしたのね。イエンツーユイは」

私は密偵の報告で、戦友イエンツーユイの死を知った。

彼女(イエンツーユイ)は、セビド砦で共に戦った仲間だ。

イエンツーユイは、生真面目だけど悪いクロコノイドでは無い。

むしろ私と同じような普通の女性で、国のことを誰よりも考えていた。


二年前の半魚人軍で彼女を通して、クロコノイドのことをやっと理解できたのに。

彼女を失ったことで、私は冷静でいられなかった。


「泣いていますか?ヤマメ様」聞いてきたのが、参謀のワニエソ。

「平気です」

私は涙を流すのを、必死に耐えていた。


「今は、悲しんではいけない。

私たちは、これからも進んでいかなければなりません。

タートリアの未来を作るために、私たちは常に考えねばならない」

「クナシュア女王が、前に言っていましたよね?」口を挟んだのは、別のタートリアの男性。

「そう、トリトンはライタルクを攻め込む」

クロコノイド軍は、ライタルクを占拠した。

つまりエツ皇帝……いやトリトンはライタルクを手に入れた。


「ならば、これからどうなってしまうのでしょうか?」

「知らないけど、様子を見るしか無いわね。

ライタルクへの注意を、怠らぬように。常に密偵は見張っていなさい」

私は密偵をしているタートリアに、そう命じた。

それでも、私の胸の中は苦しかった。


(イエンツーユイ、あなたを助けられなかった……なんてあなたは私に助けを求めないの?)

私は後悔をしながら、会議室の外を見ていた。

窓には大きなガラス、そこからグランドルマンの町並みを眺めていた。



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