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――グランドルマン・州府庁・会議室――
(YAMAME’S EYES)
あの戦いから、あっという間に一日が過ぎた。
北洋のセンブレルで起きた半魚人の防衛戦の結果は、私たちにも届いてきた。
ここは会議室だ。二十畳程の広い部屋。
長机には、多くのタートリアが座っていた。
集まった面々は、いずれもタートリアの重要人物だ。
全員甲羅を背負うタートリアで、五つの州の領主が集まる。ただ一人、アカメを除いて。
タートリアの州領主の私ヤマメは、密偵から話を聞いていた。
黄色い亀の甲羅を背負い、私は難しい顔を見せていた。
「報告は以上です」
「そう」私は落ち着いて話を聞いていた。
「かなりマズいな」別の州領主のタートリアの男が、厳しい言葉を言う。
「ええ、マズイです」やはり、別の州領主のタートリアの若い男が続いた。
「クロコノイドは、これで半魚人の王都センブレルを手に入れた。
あそこは、北洋の中でも大都市。あそこを手に入れてしまっては、クロコノイドを止められなくなる」
クロコノイドの勢いは、今以上だ。
巨大な大都市を手に入れ、豊富な資源も手にした。
しかも、手にしたのがエツ皇帝だ。彼にはトリトンの疑惑がある。
「センブレルを追われた半魚人軍は、どうなったの?」
「ナスチュン王は、戦死。イエンツーユイと戦って亡くなったそうです」
「じゃあ、イエンツーユイは?」
「彼女も死にました」
密偵の話を聞いて、私は唇をかみしめた。
「ヤマメ様……」
「全く、馬鹿なことをしたのね。イエンツーユイは」
私は密偵の報告で、戦友イエンツーユイの死を知った。
彼女は、セビド砦で共に戦った仲間だ。
イエンツーユイは、生真面目だけど悪いクロコノイドでは無い。
むしろ私と同じような普通の女性で、国のことを誰よりも考えていた。
二年前の半魚人軍で彼女を通して、クロコノイドのことをやっと理解できたのに。
彼女を失ったことで、私は冷静でいられなかった。
「泣いていますか?ヤマメ様」聞いてきたのが、参謀のワニエソ。
「平気です」
私は涙を流すのを、必死に耐えていた。
「今は、悲しんではいけない。
私たちは、これからも進んでいかなければなりません。
タートリアの未来を作るために、私たちは常に考えねばならない」
「クナシュア女王が、前に言っていましたよね?」口を挟んだのは、別のタートリアの男性。
「そう、トリトンはライタルクを攻め込む」
クロコノイド軍は、ライタルクを占拠した。
つまりエツ皇帝……いやトリトンはライタルクを手に入れた。
「ならば、これからどうなってしまうのでしょうか?」
「知らないけど、様子を見るしか無いわね。
ライタルクへの注意を、怠らぬように。常に密偵は見張っていなさい」
私は密偵をしているタートリアに、そう命じた。
それでも、私の胸の中は苦しかった。
(イエンツーユイ、あなたを助けられなかった……なんてあなたは私に助けを求めないの?)
私は後悔をしながら、会議室の外を見ていた。
窓には大きなガラス、そこからグランドルマンの町並みを眺めていた。




