053
ここは、半魚人の首都ライタルクの城壁付近。
水魔砲の近くの壁で、半魚人とクロコノイドが戦っていた。
完全な乱戦で、数的には少し半魚人軍が多い。
周囲では、半魚人とクロコノイドの戦いが行なわれていたが私たちの周りは違う。
まるで、私たちの戦いを見学しているかのように円の輪ができていた。
私とナスチュンの攻撃は、迫力があった。
一つの戦撃が、バチバチと大きな音が鳴った。
伸びるグングニルも、私はようやく慣れていた。
距離感に慣れてくれば、一定距離以上は伸びない。
だがグングニルの武器が無くても、ナスチュン王は強い。
一撃の攻撃を入れる度に、強靱なナスチュンの体は動かない。
「この一撃が入れば……」
それでもナスチュンには、私の一撃を踏み込ませない。
すぐさま反撃とばかりに、グングニルで私の動きを牽制してきた。
戦いながら見えてきた、敵の強さ。
動きでは、私の方が早い。だけど、ナスチュンの防御を全く崩せない。
「しぶといな」
「お前こそ」ナスチュンは笑いながら攻撃をして、私も笑っていた攻撃を避けた。
左肩の痛みが、戦いながら引いていた。握力も戻っていた。
私は、再びパッションを左手で持たせた。
しっかり握れていて、痛みを感じない。
「よし、いける」
「お前の技は見事だ」グングニルを私に突き刺して、私は避けた。
それでもナスチュンは余裕の顔で、私を見上げていた。
左手が使えれば、私は一つの技が使えた。
(でも、なんで左手が急に使えるようになったのだろう)
僅か一瞬だけ考えて、すぐにやめた。
どちらでもいい、この男に手加減をしては勝てない。
むしろ、これは幸いだと思って剣を構えた。
「どうした?腕が治ったのか?」
「ああ、私はそろそろこの切り札を切る。
お前には、手を抜くことはしたくないからな」
「切り札だと?」
「私の最終奥義。鰐聖十字剣よ」
私は、この名前を久しぶりに口に出した。
この技を教えてくれたのは、軍学校のニギスだ。
両手が使えないと、これは使えない。
軍学校の同僚エツも、この技を会得しようとしてできなかった。
なにより、ニギスはこの技を私に使うことを禁じていた。
(この技には私の魂をかける技)
私の生命エネルギーを、二本の刀身に宿らせる技。
カリムとパッションの刀身が強く光り、私の生命エネルギーを全て二本の剣に託す。
力を得た剣の刃から、最強の十字斬りが発生し相手を襲う。
だけど、出し惜しみはもうしない。
この男には、出し惜しみしたくはない。
カリムとパッションを、十字で構えた。
同時に、二本の剣の刀身がはっきりと光を放つ。
「よかろう、ならば俺も最強の技で受ける。その名も、覇王旋風壁だ」
ナスチュンが、グングニルをグルグル回した。
ぐるぐる回す、グングニルの姿が巨大な盾のように見えた。
ナスチュンは、私の鰐聖十字剣を堂々と受ける覚悟だ。
受け切れたら、ナスチュンの勝ち。
私の攻撃が通れば、私の勝ち。文字通り最後の一撃だ。
「行くぞ」私は持てる全ての生命エネルギーを武器に託した。
同時に剣が強く光って、赤と青の十字の刃が完成。
巨大な十字が、ナスチュン目がけて飛んでいく。
ナスチュンはグングニルを回して盾を作る。動くこともしない。
十字の刃と、グングニルの盾が交わった。
「いけえええっ!」私は初めて叫んだ。
私の十字の刃は、グングニルとバチバチと激しい火花を散らす。
だが私の十字の刃は、確実にグングニルの盾を押し返す。
「むうっ……やはり」
押されているのを、はっきりと感じた。
ナスチュンの体が初めて後ろに下がった。
グングニルの盾が、一気に崩れていく。
そして、そのときは訪れた。
「ばかなっ!」
グングニルが折れた。
折れた瞬間十字の刃は、ナスチュンの体をそのまま傷つけた。
鯨革鎧も、紙のようにあっさりと切り裂いてナスチュンの腹を十字に貫いた。
ナスチュンは、それでも笑っていた。
「そうか、お前に負けるのか。ユナ・イエンツーユイよ」
ナスチュンの顔は、攻撃をされても穏やかだ。
青い髪の青年王は、斬られても晴れやかな顔で私を見ていた。
「お前こそ、最強の武人だ。お前に最後に出会えて良かった……」
次の瞬間、ナスチュンの体は横になった。
だけど、私はじっと彼を見ていた。
私の体は、疲れて体が重い。
肩で激しい息をしていて、ナスチュンの倒れた姿を見せていた。
「そうか……倒したんだよな」
だけど、瞼が重い。
私の体が、一気に重くなった。
(ああ、忘れていたよ。全ての生命エネルギーを私は使ったんだ。
あの、最後の一撃で……)
私は次の瞬間、瞼を閉じていた。
安らかな顔で、深い眠りにつくかのように。




