052
宿命のライバル、ナスチュン王を初めて見たときに私は確信した。
青い髪のマーマンは、戦闘用の紺の鯨革鎧。
階級は違う、身分も違うし、種族も違う。
だけど、ナスチュン王を一目見たときに『宿命のライバル』だと思わせてくれた。
(この男は、今まであった全ての中で一番強い)
持っていた重い槍を、構えて私に突進した。
(早いっ!)
ナスチュンの姿が、消えたように見えた。
それぐらいの早さで私に一気に間合いを詰めてきた。
攻撃をかわすように、私は体をねじって体を一回転させた。
ナスチュンの槍の突進を、なんとか凌いだ。
遠心力で避けた私は、既に剣を抜いていた。
上にあるのはナスチュンの体。迷うこと無く、私はそのまま剣を振り回した。
冷静に私を見ていたナスチュン王は、私の動きを眺めた。
同時に、大きな槍を両手で握り防御してきた。
「ふんっ!」
私の回転切りを、軽く弾いた。
槍の力なのか、重そうな鉄の槍で簡単に弾かれた。
「なんだ、あの武器は?」
私が見ているのは一本槍先の大きな槍。
マーマン兵士二人がかりで、運ぶほどに重そうな槍だ。
攻撃にも防御にも優れた、金属の槍。
いや、その材質はただの金属じゃない。
「グングニル、半魚人に伝わる最強の槍。
この槍を使うことが許されるのは、半魚人の王だけだ」
「そんなモノがあるのか」私は苦々しく、ナスチュンの槍を見ていた。
「どんな攻撃も弾き……」
ナスチュンが、私に近づく。少し離れて槍を振るうと、急に伸びてきた。
魔力が込められた武器は、そのまま私の前に伸びてきた。
一瞬の判断で、私は後ろに下がったが槍が左肩に当たった。
「ううっ」痛みが、左肩にはっきりと感じられた。
血は流れない、だけど握力は無くなっていた。
持っていた剣が、重くずっしりと握力の無い左手にのしかかった。
(あの槍、いきなり伸びただと……)
驚きと共に、痛みのある左肩を右手で押さえていた。
持っているナスチュンが持つグングニルは、まるで生き物のように変化した。
左手に持つ赤い刀身のパッションを、右手に持った。
右手には二本の剣が握られていた。かなり重い。
「この剣は私の相棒だ、手放すことはできない」
「さすがは、クロコノイド最強の武人だな」
歯を食いしばりながら、私は前を向いていた。
ナスチュンは強いし、グングニルも厄介だ。
だが、それでも私は楽しかった。
「初めてだ、この感覚は」
「どうした?何がおかしいのだ?」
「いや、お前はライバルだ。お前の強さは、とてつもなく強い。
王としてふさわしい、最強の強さだ。トルスク将軍よりも強い半魚人がいたのだな」
「イエンツーユイに言ってもらえて、俺は嬉しいぞ」
ナスチュンもまた、笑っていた。
(そうか、この戦いがやりたかったのか)
私もなぜ戦っていたのかを、初めて知った気がした。
それは、この最強の王と戦うためだ。今までの私のつまらない戦いも、意味があった。
ナスチュンと向き合って、自然と闘志が湧き上がった。こんな感情は、いつ以来だろうか。
生まれて初めて、恐怖と高揚感を感じていた。
(これが、生きていると言うことだろうか?)
今までの戦いに無い、絶望的な相手の強さだ。
そして、持つ武器も最強の武人にふさわしい最強の武器だ。
グングニルを持ったナスチュンは、やはり威風堂々としていた。
「さて、続けるか?」
「無論だ、こんな楽しい戦いをやめるつもりはない」
「よく言った!」
私は、ナスチュンに向かって高速で泳ぎ始めた。
ナスチュンは、向かってくる私に対してグングニルを構えていた。




