005
――マーマン軍王都・センブレル城王の間――
(NASUTYUN’S EYES)
とても高い珊瑚の城壁に、囲まれた町があった。
光る砂に祝福された町の中央に、とても大きな城が聳え立つ。
半魚人が作りし、最高傑作『センブレル城』。別名、珊瑚城と呼ばれていた。
赤に、黄色の珊瑚が、美しく組み合わされて作られた城壁。
平屋ではあるが、見た目は三階建ての建物に見えた。
色とりどりのカラフルな珊瑚に彩られた壁を、青いタペストリーで飾られた部屋がある。
シャンデリアも天井に飾られている、明かりは光の砂だ。
地面は石を敷き詰められていて、青い絨毯が敷かれていた。
ここは半魚人の居城、当然城の中を泳ぐのは半魚人。
半魚人の足は、魚の尾ひれだ。体をくねくねと動かしながら、立ち泳ぎをしていた。
真ん中にあるのは、一際豪華な肘当て。そこに俺が、肘をついて立ち泳ぎ。
俺の名は、『ナスチュン・ライアール』。この城の主で、半魚人の王だ。
青く短い髪に、小さな王冠を被った俺。
当然半魚人である俺の下半身は、魚だ。
筋肉質の上半身を、赤く装飾されたコートで隠していた。
俺の目の前で、一人の半魚人兵士が報告に来ていた。
下半身は魚だけど、上半身は革の鎧を着ていた。
若いマーマンは、疲れた顔で俺の前に姿を見せていた。
「つまりは、コノシロ将軍は戦死したと?」
「はい」返事をした、目の前のマーマン。
報告を受けて、肘当てに右腕を乗せていた俺はため息をついた。
俺の真横には、他にも立ち泳ぎをするマーマンがいた。
青いコートに水色の三角帽子、背は低く小柄なマーマン。
「クロコノイドは、日々勢いを増しております。
こちら側にとっても、かなり危険な存在かと思われます」
話してきた三角帽子を被る、マーマン。
難しい顔で、俺の隣で流暢に話していた。
彼の名は『ビアス・トンプソン』、俺の片腕のような存在だ。
「クロコノイドは、もともと野蛮な種族だ。
やはりクロコノイドに対して、全力を注いで倒すべきだったのだ!」
兵士の後ろから、一人のマーマンが叫んで近づいてきた。
姿を見せたのは、藍色の髪で黒いローブを着たマーマン。
髭を生やした顔で、手には杖を持っていた。
彼は『ギマ・ジョンソン』、水弾魔術という魔法を使える能力者だ。
「ギマ殿、どうしてここに?」
「私は、もう四天王だ。これからは、よろしく頼むぞ。
それにしても、クロコノイドは本当に野蛮だな」
「確かに、クロコノイドの勢いは増す一方。
現在、一番危険な種族であるのは間違いないじゃろうて」
「グロリア様も、トルスク様も前の大戦で亡くなられておる。
今、四天王は新人二人が追加されたが、三人しかいないからのぅ」
三角帽子のビアスは、難しい顔を見せていた。
「現状、四天王候補は何人かいるが……現状戦力的に物足りない。
コノシロが、この戦いで活躍すれば俺は四天王の推挙も考えたのだが」
「ナスチュン様は、コノシロ将軍に期待しすぎよ」
そんな中、俺の頭上から泳いできた半魚人がいた。
それは、男……マーマンではない。マーメイドだ。
赤い短髪のマーメイドは、上半身を金属鎧で覆っていた。
無論下半身は、魚。しかも鱗が赤い。
「テトラ将軍、なにゆえに?」ビアスが聞く。
「コノシロ将軍が死亡したと聞いて、あたしは駆けつけてきたのです」
テトラ将軍は、俺の前に出てきて一礼した。
彼女の名前は、『テトラ・アルバーニ』。俺の部下で『半魚人四天王』の一人。
ギマも、ビアスも『半魚人四天王』のメンバー。
「テトラは、コノシロ将軍とは師弟か?」
「軍学校の教官です。
でも、あの男……マーメイドであるあたしに、変なことをしてきて」
「どんなことかな、興味がある?」
「ただただ、気持ち悪いマーマンです。
そこで話を聞いているギマ将軍も、相当オカシイですが」
テトラが、ギマを痛烈に非難した。
ギマは両手を広げて、怪しく笑っていた。
「その話はいいが、クロコノイドの軍はルビア占拠後どんなことをしている?」
「資材確保、調達をしております。
残存半魚人は、奴隷として扱われています」
「くそっ、許せぬ!」ギマは怒りを見せていた。
その一方で、ビアスは冷静な顔を見せていた。
「ナスチュン王、ルビアはどうされますか?」
「ルビアは奪い返さないといけないが……兵士の再編成をテトラに頼む」
「はっ」テトラが俺に敬礼してきた。
「ギマは、ルビアの密偵を頼むぞ」
「分かりました」ギマも素直に応じた。
「それで、ビアス」
「なんでしょうか?」
「敵の次の動きを、お主ならどう見る?」
俺は隣にいるビアスに、顔を向けて聞き返す。
「クロコノイドには、勝利による勢いがあります。
おそらく早期に軍備を整えて、進軍してくることでしょう。
僕の推測ですが、ルビア海域も制した後に、北のイラークを攻略するかと思われます」
「イラークか」俺は、唇をかみしめた。
ビアスの厳しい指摘に、苦々しい顔を見せていた。
なんとなく分かっていたことだけど、やはり敵の勢いが止まらない。
勝利が、軍を引き締めてさらに勢いを増す。
俺たち半魚人軍は、戦う度に疲弊して有能な人材を失っていく。
「イラークが落ちれば、このセンブレルに攻め入ることもできる。
イラークに関しては、何としても阻止しなければならぬ」
「もちろんにございます」
「ナスチュン王、イラークの守護はあたしお任せください」
名乗りを上げたのは、テトラだ。凜としたマーメイドが手を上げていた。
「テトラ、やる気だな?」
「今、クロコノイド軍を率いているあの女を倒さないといけない」
「ユナ・イエンツーユイ右将軍か?」
ビアスの言葉に、テトラは静かに頷いた。
俺は、そんなテトラの真っ直ぐな目を見ていた。
昔のあの日に見た、伝説のマーメイドの顔と重なっていた。




