046
テトラ・アルバーニ、私はその名前だけは知っていた。
新しく半魚人四天王の一人になったマーメイドの名前を、私は情報で聞いていた。
赤い髪に金属鎧。小柄だけど気が強いマーメイドがど真ん中に立っていた。
持っていたのは、大きな両手剣だ。
私の軍を阻むように、マーメイドが軍団で壁を作っていた。
数は三千、間違いなくさっきのスキュラ軍より多い。
「お前が、メルを……」怒っているのは、ベージュだ。
歯を食いしばった顔でで、今まで見た事が無い怒りの感情を見せていた。
持っている棘産後の槍を、強く握っていた。
「この部隊は、クロコノイドの軍か?
ならば、イエンツーユイがいるのか?」なぜか、私の名を呼んでいたテトラ。
「うるさい、お前を殺すっ!」棘珊瑚の槍を持ったベージュが、突進していく。
怒りに身を任せて、ベージュがテトラに向かっていく。
だけど、無謀な突進のベージュに対しテトラは冷静だ。
突進したベージュを見つけて、簡単に避けたテトラ。
そのまま、大剣をベージュの背後を取った。
そのまま、無言で剣を振りかざす。
ベージュが不意を突かれて、目をつぶった。
だけど、素早く泳いだ私が反応していた。
大剣を振りかざしたテトラに対し、私が持った右手で重い剣を受け止めた。
ベージュの真上で、テトラの大剣が止まっていた。
「あたしの剣を、受け止めたっ!」驚いた顔を見せたテトラ。
「ベージュ、無謀な突進はするな。前にも言っただろう」
「イエンツーユイ将軍、だって……メルが、メルが……」
悔しさを滲ませて泣いていた、クロコノイドの少女ベージュ。
だけど私たちの会話を聞いたテトラの口元には、笑みを浮かべた。
「そうか、お前がイエンツーユイか?」
「だったらどうする?」私が振り返り、ベージュを後ろに隠した。
「お前を殺すっ!」
テトラの鼻息が荒い。剣を肩に担いだテトラは、私のことをはっきり睨んでいた。
私も又、両手に剣を握って彼女と対した。
見た目の重そうな金属鎧と堂々とした佇まいで、私は理解した。
(なかなかの使い手だ、いい構えをしている。顔もいい)
敵として対峙したマーメイドのテトラを、私はじっと見ていた。
大剣は重い、大きな両手剣だ。でも、マーメイドの体は小さい。
「私と戦いたいのか?」
「そうよ、あんたはあたしの仇。絶対に討たないと」
「それなら、ベージュも……」私の後ろのベージュが口出ししてきた。
「お前は下がれ!」私は、言い出すベージュに言い返した。
私の迫力に、ベージュはこれ以上言い出すことはできない。
私の後ろから離れて、戦場を見ていた。
戦場の独特な空気が、ベージュにこれ以上の行動を許さない。
素直に退くベージュ、周りの兵士もここの緊張感に手出しをできなかった。
私が前を向いた。
ふと気になったのが、彼女の持っている金属の大剣。
巨大な大剣、重くて大きな剣。刃が薄い紫がかった光を帯びていた。
「あの大剣は?見覚えが、あるのだが……」
「そうだとも、この武器はあたしの父……トルスク将軍の持っていた武器。
『ショックブレード』だ。イエンツーユイよ、思い出したか?」
「ああ、思い出した」
そうだ、薄紫の刀身は『ショックブレード』だ。
大きな剣は、かつての四天王トルスク将軍の武器だ。
紫の光は、魔力を帯びていて刀の威力を上げていた。
テトラは、あのトルスクの娘か。
トルスクを殺した私に、敵討ちをしようというのか。
それならばあのただならぬ存在感も、隙の無い構えも納得できた。
「よかろう、私も全力で相手になる」
両手に剣を持った私は、剣を両手でクロスさせた。
そのまま、テトラの方に素早く泳いで間合いを詰めていった。
「絶対に、お前を倒す」テトラも、並々ならぬ気迫で私を迎え撃つ。




