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水の中の戦争  作者: 葉月 優奈
四話:天下無双のクロコノイド女将軍
41/56

041

――王都センブレル:センブレル城中庭――

(NASUTYUN’S EYES)

この戦いを、俺は避けることができなかった。

七種族会議の後、皇帝エツは停戦合意を一方的に破棄してきた。


彼は、戦いの道を選んだ。

クナシュアが放った、スキュラ暗殺部隊はエツ皇帝の暗殺に失敗。

裏切るはずのイエンツーユイ将軍は、裏切らなかった。

全ての歯車が狂い、深海世界は一気に戦争に突き進む。


「アイツがいないこの都市を、俺は守れるのだろうか」

今、俺はセンブレルの中庭にいた。


海の中、珊瑚の壁で周りが覆われていた。

さらには大きな棘珊瑚の木が、観賞用の植物のように生えていた。

中庭の中央には、一人のマーメイドの銅像が建っていた。

かつての四天王、センブレルを守った英雄マーメイド。


『槍聖アルーラ・カイフェルス』かつての俺の上司だ。

昔、俺はアルーラの部隊にいた。

年齢的には同じだが、ケタ違いの強さを誇るマーメイド。

彼女は四天王の一人で、俺は彼女の副官となってスキュラとの戦いを戦った。


「アルーラよ、俺は今回も守れるのだろうか」

銅像に訴えかける俺、銅像になった若い女のマーメイドは今この深海世界にいない。


「ここにいましたか、ナスチュン王」

中庭に、一人のマーメイドが姿を見せていた。

赤く短い髪、重そうな金属鎧の上半身。

魚の赤い鱗のマーメイドが、泳いで俺のそばにやってきた。


「テトラか」

「はい、ナスチュン王。

今回の会議の事ですか……アルーラ将軍を見ていたのですか?」

「ああ、最強の四天王の一人、アルーラ将軍。

『槍聖』と言われた彼女は、このセンブレルを守った」

「はい、父から聞いています。私の父、トルスクと同じ時代を生きた四天王。

そういえば、ナスチュン様は四天王になったのですか?」

「いや、四天王になったことはない。いきなり王に立候補した。

アルーラに鍛えられた俺は、上手いこと事が運んで王になれたのだがな」

「それは凄いですね」

「トルスクにも、そう言われたよ」

テトラの父は、優秀な将軍トルスク・アルバーニだ。


トルスク将軍は、マーマンの中でも一番防衛戦が得意とされる武人だ。

『守護神』と称されて、若いマーマン兵にも人気だった。

だが、二年前の戦いで彼はイエンツーユイ将軍に打ち破られたのだ。


半魚人軍は、王を選ぶときには戦う。

一対一(タイマン)で戦い、優勝をしたものを王とする。

階級とか身分とか、一切関係ない。

あくまで強い人間が、王になる。深海世界のルールに、乗っ取った選び方だ。


決勝に俺は残った。相手は鉄の男、トルスク将軍だ。

四天王で最強の守護神と俺は戦い、勝利した。


「ナスチュン王は、今も強いのですか?」

「ああ。いつも鍛錬は欠かさない。俺とやってみるか?」

「いえ、今は軍議の準備がありますから……それより早く来てください」

「そうだったな、軍議のために呼んだのか?」

「そうですよ」急にふてくされた顔を見せた、テトラ。

若くてかわいらしいマーメイドは、俺に背を向けていた。


「ナスチュン王、皆が待っていますよ」

「ああ」テトラに促されて、俺は急いで会議室に向かって泳いでいった。



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