039
ここに暗殺部隊が出てくることは、私は知っていた。
ヤマメが話していたとおりだ、差し金はクナシュアだろう。
警備の少ないこの移動の時間を狙って、スキュラの暗殺部隊を送ってきた。
顔を隠しているが、蛇の下半身は隠しようもない。
下半身が蛇のスキュラは、スネークヘッドという。
他のスキュラよりも一回り小さいが、動きがとにかく素早い。
素早い動きと、氷刃魔術という独特の魔術を使う。
暗殺部隊の登場は、私が決断する時だ。
ヤマメを信じるのか。
エツを信じるのか。
二つに一つ、ここで私の選んだ選択は重要だ。
だが、既に私の出す答えは決まっていた。後は、それを実行するだけだ。
「スネークヘッド二人か。イエンツーユイよ、暗殺者から僕を守れ」
エツ皇帝は、私に声をかけた。
護衛の私は、いつも通り腰に二本の剣を帯刀していた。
「イエンツーユイ様、さあ、彼を討ってください」
スキュラもまた、私の武力を当てにしていた。
それを聞いたエツ皇帝は、驚いた顔をしていた。
大きな目を開いて、私を見ていた。
「どういうことだ?イエンツーユイ」
「トリトンならば、排除をしないといけない」
「君は僕を、トリトンだと思っているのかい?」
エツ皇帝も、私の答えを待っていた。
突然現れて、エツを殺そうとする暗殺者。
それから私を、護衛に選んだ皇帝エツ。
そして、私は腰の剣に手をかけた。
同時に体が動く、泳いで一つの答えを出した。
「イエンツーユイ、どうして理解してもらえない?」
「やはり私は、君主を裏切ることはできない」
私が切った相手は、スキュラの蛇頭だ。
カリムの青い刃がスキュラの蛇頭を斬り、パッションの赤い刃がスキュラの女性の首を飛ばす。
「ば、馬鹿な!」
私の加勢を当てにしたもう一人のスキュラは、おののいた。
口惜しそうに、この場を離れようと蛇の下半身を動かした。動きは素早い。
「逃がすか!」
素早く私は鱗の足を動かして、スキュラの間合いを一瞬で詰めた。
背後から、そのままスキュラの暗殺者を切り捨てた。
暗殺者のスキュラは、間もなくして私に切られて浮かんでいた。
「イエンツーユイ、ご苦労だ」
「陛下、申し訳ありません」同時に私は頭を下げた。
皇帝エツの前で、深々と頭を下げた。
「お前はスキュラと密会を、していたのか?」
「タートリアのヤマメより、密書を預かっていました。
そこで、クナシュア女王と会議をしておりました。
エツ皇帝が、トリトンである旨の話をしておりました」
「イエンツーユイはヤマメと、仲が良かったからな」
エツ皇帝は、落ち着いた様子で話を聞いていた。
死体のスキュラは、水の中を浮かび上がっていた。
「だが、お前は僕を信じてくれたと?」
「はい、私は皇帝の臣下です。皇帝が、トリトンでないと信じています」
「嬉しいことを言ってくれるじゃないか、イエンツーユイ。
三銃士として、任命したときからお前は僕に忠義を尽くしてくれた。
これからも頼むぞ、イエンツーユイ」
エツは嬉しそうな顔で、私を見ていた。
私は、すぐにエツ皇帝の前で畏まった。
「私は、クロコノイドの将軍ですから」
「そうだな、ではセビド砦に戻ろう。
やはり……停戦合意は棄却だ。
帰ったら次の戦争の準備を、すぐに始めるぞ。
イエンツーユイ、またしばらくは戦いが続くが……よいか?」
「はっ!このイエンツーユイの武力を、存分にお使いくださいませ」
私は、覚悟を決めていた。
私の選択は、皇帝エツについていく。
ヤマメ達とは、敵として戦うことになる覚悟を決めていた。
だけど、心の中でモヤモヤした何かがずっと残っていた。
(何だろう、この背徳感は)
私の心の中で、ずっと引っかかっていた何かがった。




