038
――セビド・セビド海域――
(YENTUYUI’S EYES)
三時間ほどの短い会議の後、私はエツ皇帝と合流した。
セビドの町を出て、外に来ていた。エツ皇帝と一緒に泳いでいた。
この場には、二人しかいない。護衛の仕事だからだ。
さらに言えば、エツ皇帝の戻る場所がセビド砦だ。
少し先に見える場所に、鉄の要塞が立っていた。
会議の間も待合室で、待機しながらも私はずっと考えていた。
会議の前に親友のヤマメ達が求めてきたことと、彼女たちが私に求めてきたことを。
ヤマメが、求めていることは分かっていた。
トリトンであれば、私は皇帝エツであっても戦わないといけない。
それは、クロコノイドであり……七種族として生を受けたから当然のことだ。
「エツ皇帝。結局停戦合意は、どうされたのですか?」
「持ち替えって、考えることにした」
「意外ですね。停戦には、応じないと初めはおっしゃっていましたが」
「気が変わったのだよ、君を見て」
彼が、ふと私を見てきた。
私は、首をかしげていた。
「私ですか?」
「疲労が、溜まっているのでは無いか?」
「確かに、兵士は連戦続きで疲労があります。
ナヨシ将軍も、その辺りを危惧しております」
「分かっておる。南洋から、北洋のイラーク。
短い期間で、かなり長いこと遠征をしていたからな。
今後のことを考えても、イラークやルビアの防衛も考えねばならぬ。
兵士の疲労も、しっかり考えておかねばならぬ。
イエンツーユイも、連戦で疲れているのか?」
「私は大丈夫です」
私は自信たっぷりに言っていた。だけど、エツ皇帝は私の体を見ていた。
赤い鱗にある傷だらけの体、イラーク海域戦で、私は負傷していた。
「イエンツーユイも、傷だらけでは無いか」
「でも、体力は問題ありません」
「やはり、疲れているだろう」
「いいえ、大丈夫です」
私は、決して強がってはいない。
かすり傷はあるけど、体力は有り余っていた。
イラーク戦から三週間、回復に使う時間としては十分だ。
「すでにシュリンプスが、動きを見せている。
あの海老女、どうやら同盟を裏で準備しているしたたかな」
「そうですか」その話は知っていた。
シュリンプスの女王チカが、タートリアと同盟を継続して組んでいた。
さらに、クナシュア女王のスキュラとも会合をしていた。
七種族会議前に、三人が集まったのは我が軍への明らかな牽制だろう。
私にそれを見せることで、脅しの意味もあるのかもしれない。
「我が軍の戦線も、少し伸びているのが気になる。
遠征中に、周りの種族が恨まれたらかなり厄介だ。
こちらも、何らかの対策を練らねばならないな」
「はい」私は、空返事をしていた。
泳ぐ海域は、大きな岩盤がいくつか見えた。
この辺りは大きな岩場があって、近くにある砦の道を制御していた。
中立都市セビドには、兵士を置くことができない。
だが近くにあるセビド砦は、我が軍の領土だ。
それでも中立都市に兵士を送ることは、七種族の理として禁じられていた。
ここに来るまでの移動は、一人の護衛しか許されない。
七種族会議の憲章で、このことは盛り込まれていた。
だから、エツは私を選んだ。
軍神と言われている、強さに自信があるこの私が。
他の軍も同じだろう、たった一人の護衛を連れて今から帰宅していく。
七種族会議の期間中は、絶対に戦争をしてはいけない。
戦争は、大きな争いは勿論小さな種族間の争いも禁じられていた。
だが、それは突然破られた。
岩場に隠れた一つの人影、間もなくそれは姿を見えた。
「氷の槍よ、カノモノを貫け!」
それは魔法の詠唱、大きな岩場から氷の刃が飛んできた。
氷の槍の狙いは、エツ皇帝だと確信した。
氷の槍を見ても、エツ皇帝は冷静だ。
腰に隠していたナイフで、氷の槍を弾いた。
「誰だ?そこにいるのは」叫ぶエツ皇帝。
岩場に隠れた人物は、顔を隠した二人のスキュラだった。
蛇を下半身で女性の体の上半身が、声に反応して出てきた。
着ている服は、真っ黒な服。一目で、暗殺部隊のスキュラだと私は分かった。
エツもまた、魔法を使った相手を見て理解したのだろう。
「暗殺とは……クナシュアの仕業か」
エツは、登場したスキュラに対して睨んでいた。




