表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水の中の戦争  作者: 葉月 優奈
三話:スキュラ女王の七種族会議
37/56

037

トリトンは、七種族共通の最大の敵だ。

姿も、形も違う七種族の中で、共通している事の一つがトリトンに関するモノだ。

ポセイドンを信仰する七種族、ポセイドンに敵対するトリトンは七種族でも敵だ。

トリトンの目的は、深海世界の混乱と親の神ポセイドンに対する反逆だ。


「俺は違う、トリトンなんかじゃ無い!」

「では、なんで二年前に戦争を起こしたのですか?

あの戦争が無ければ、セビド砦の奪還戦も行なわれない」

「それは、不安だ……」

心が押しつぶされそうなぐらい、俺は辛いことを口にした。

俺たち半魚人軍の恥部を、この大事な『七種族会議』で晒さないといけない。


それでも、俺は半魚人軍の首都センブレルを……ひいては半魚人の未来を守る使命があるのだ。

一つ頷いて、俺は真っ直ぐ前を向いた。エツ皇帝を、しっかりと直視して話す。


「エキドナのいたスキュラと戦いで、俺たちの軍は初め負けが続いた。

スキュラが使う上半身の魔法と、下半身の頭の見事な攻撃。俺たち半魚人軍は、為す術がなかった。

スキュラの勢いに押されて、半魚人軍は、ついに首都センブレルに追い込まれた。

スキュラは、そのままの勢いでセンブレルを奪いに攻め込んだ。

だけどあのときは、優秀な四天王がいた。

鬼才の知将ビアス・トンプソン、鉄の守護神トルスク・アルバーニ、高位水流魔術師グロリア・ゼーテルス。

そして、史上最強のマーメイド槍聖アルーラ・カイフェルス。

四人そろった四天王に、ここにいるクナシュア女王の協力もあってセンブレルの防衛ができた。

できたのだけど、半魚人軍は同時に自分たちの弱さを知ったのだ」

半魚人軍の過去の話、弱かった半魚人軍の話。


七種族の中で一番人口が多い種族が、半魚人軍。

対して一番少ないのが、スキュラ軍だ。

それは兵力にもそのまま反映されるが、我が軍は少数のスキュラに負け続けた。

最後は、なんとか首都の防衛をするまで弱くなった半魚人軍の強さを知った。


「あのときは槍聖アルーラ・カイフェルスがいたのね?」

ヤマメが、興味深く聞いてきた。


「ああ、半魚人軍歴代最強の槍聖アルーラ。

彼女がいなければ、半魚人軍の今は無いだろう。

トリトンのエキドナを、倒したのも彼女だ。

最強のマーメイドのアルーラだけど、彼女はもういない。

だけど半魚人軍は、もっと強くならないといけなかった」

「で、攻めたと?」エツが問う。

「ああ。俺が王となって、半魚人軍は強国政策を行なった。

不安を払拭させるには、もっと強い力が必要だ。

訓練を強化し、多くの子供を産ませる政策も採った。

短期間で、半魚人軍は数を増やして屈強の戦士を得た。

大軍を得ても、俺は満足できず南洋の支配を考えた。

南洋を制圧すれば、俺たちの平和が担保されると思ったからだ」

「なるほどな」

エツ皇帝が、軽蔑した目で俺を見てきた。


うなだれる俺は、それでも怯んだりしない。

悔しい時期、恥ずかしい部分も、考えていたことも包み隠さずここでさらけ出すしか無い。

俺一人が、恥辱を受けるだけで半魚人軍を救えればそれでいい。

半魚人の未来を、失うわけにはいかない。

いなくなったアルーラにも、怒られてしまうだろう。


「戦うことで、強くなった。資源も得て、さらに強い武器も得た。

だけど、俺たちは強くなれなかった。

結局、クロコノイドの猛攻を受けて反撃する力も無い。

再びセンブレルを、危機にさらしてしまった。俺は弱いんだ」

「弱いから、お前がトリトンではないと?」

「ああ。弱い俺はトリトンではない。

半魚人軍には、トリトンは絶対にいない」

それは、はっきりと俺は断言できた。

強くも無く、圧倒的でも無い。今は弱い俺達に、トリトンが変身する理由にない。


「むしろ、お前が怪しいのでは無いか?」

「僕が?」エツ皇帝は首を捻った。

「最近のクロコノイドは強いし、神がかった勢いがある。

トリトンにとって変身して利する種族は、とても強い種族だ。

現にわらわ達、スキュラもそうだった」

「だが、僕らだって元々強かったわけでは無い。

一時期は、半魚人軍の戦力に押されて壊滅寸前まで陥った」

エツ皇帝の言い分は、俺たちとの二年前の戦いだ。

確かに、あのときのクロコノイドは強くなかった。だが、今は違う。


あの会議でもクナシュアは、エツ皇帝がトリトンであると断言していた。

断言して、既に裏では行動も起こしていた。

俺は詳しいことを話さないから分からないが、何かを行なおうとしているのは間違いない。

それが半魚人の未来につながるのなら、俺は妨害するつもりもない。


「それよりも、停戦の話はどうなったのですか?」

亀女(タートリア)のヤマメは口を開いた。

「停戦合意に関して、議題を進めるべきでは無いのか?」

海馬の体の男(トードリン)のオグボンナもまた、停戦の話を進めようとしていた。

だが、エツ皇帝ははっきり言い放った。

「僕は停戦合意を受けない」と。会議は、再び、停戦合意に関しての議題に戻っていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ