034
――神聖都市セビド・ポセイドン大神殿:神殿議事堂控え室――
(YENTUYUI’S EYES)
この日、深海の七種族の長は一つの場所に集まっていた。
それは、深海の中心にある神聖都市セビド。
セビド海域は、海の中心。鉄の要塞セビド砦のそばにある、神聖都市セビド。
中立都市でもあるこのセビドは、どこの種族も支配ができない。
それを象徴してか、深海の七種族全てが住んでいた。
このセビドで一年に一度、行われる重大イベントが二つあった。
そのイベントはいずれも、深海世界の中では最大規模だ。
一つは、海神祭。年始めに、海神ポセイドンを祝う祭りだ。
一つは、七種族会議。
七種族が集まり会議を行なう、これは決まりとして定められていた。
だが、この会議は一年に二度行なう事もできた。
臨時で行なう会議は、七種族の代表が提案し、四種族の長の同意が得られれば臨時会議が行なわれた。
今回の七種族会議は、まさに臨時会議である。
クロコノイドの私は、セビドのポセイドン神殿議事堂に来ていた。
クロコノイドの皇帝『ロッシーニ・エツ』を護衛するために。
私がいるのは、議事堂内にある狭い部屋だ。
鏡が置かれ、エツ皇帝は服を着替えていた。
青い皇帝服に、きらびやかな装飾がされたコートを着るエツ皇帝。
見た目通りの皇帝は、とても凜としていた。
「イエンツーユイよ、今日の護衛は頼むぞ」
「はっ!このイエンツーユイ、この身に変えましてもエツ皇帝を、お守りさせていただきます!」
「頼もしいな、イエンツーユイよ。
そういえば、今回の七種族会議の話はスキュラの女王が臨時で開催したと聞いたが?」
「クナシュア女王でしょうか?」
「スキュラは、我が軍が敵対する半魚人軍の同盟種族だ。
おそらく、今回のことで停戦を要求するだろうな」
「そうでしょうね。我が軍との戦いで、現状では半魚人軍は極めて不利ですから」
現在の戦況は、我が軍クロコノイドの優勢だ。
ルビアも陥落させ、重要拠点のイラークも私たちの手に墜ちた。
テンタルスの同盟もあって、我が軍の勢いは増すばかり。
連敗中の半魚人軍は、今回の会議を成立させて停戦合意をさせる狙いがあった。
半魚人軍が会議の提案をしないのは、二年間の戦いで敗戦国となったことが影響しているようだ。
「ではスキュラの提案を、エツ皇帝はどうされるのですか?」
「停戦には応じない」
「相手が出す条件次第でも?」
「今のところ、停戦に応じる理由は無い。
二年前の戦いで、半魚人軍は七種族会議の合意を破って南洋に攻め込んできた。
これは彼らが、先に売ってきた戦だ。
一度始まった戦は、どちらから滅びるまで終わることは無い」
「ですが、七種族の理を忘れてはいないでしょうか?」
私は、問いただした。
七種族は、海神ポセイドンにより生み出されて進化した種族。
いわば、七種族は兄弟のような関係だ。
七種族会議には、種族の暴走を管理するために年に一度の会合をしている意味もある。
つまり、種族を完全に滅ぼすことは禁忌とされていた。
「二年前の戦いでも、半魚人軍は南洋に侵入したことで七種族会議の中で南洋側の同盟が結ばれた。
その後は、現状の通り。半魚人軍は同盟軍に負けて、現在に至る」
「理を初めに破ったのは、半魚人軍だ。
その報いを俺は、半魚人軍が完全に受けたとは思わない」
「そうですか」私は無表情で聞いていた。エツは少し熱くなっていた。
「すまない、熱くなった」
「いえ、大丈夫です」
そんな中、エツ皇帝のそばに一人のマーメイドが姿を見せた。
水色の尾びれで、私たちの部屋に泳いできたマーメイド。だけど武器は持っていない。
マーメイドの腕には、『七種族会議・スタッフ』と腕章をつけていた。




