032
――インディキルガ宮:大会議室――
(CHIKA’S EYES)
『海老族』と言われた、種族があった。
七種族の一つで、海老の体をベースに神ポセイドンより作られた種族だ。
見た目は、一言で言えば海老の体をした知能のある種族。
それがシュリンプス、かわいい私達のことだ。
私は『チカ・ネイティル』。シュリンプスの作る国のとても偉い女王様。
肌色の幼い女の顔、赤い殻で首から下を覆われていた。
殻の色は、全てのシュリンプスが赤い。
着ている服は、黒のテイラードジャケットだ。
美しいチカの赤の殻と、よく合うコーディネイト。
特徴的なのはお腹、かわいい尾がお尻から生えていた。
この尾は、お尻のようにフリフリと動かすことができた。
神経は通っていないから、痛みは全く無いけど。
足は、肌色の足が胸……お尻の辺りから生えていた。
かわいらしいシュリンプスのチカが、インティギルガ宮の会議室に来ていた。
インティギルガ宮は、シュリンプスの国の首都。
シュリンプスの建物には、深海世界は平屋の建物が多い中で珍しい地下が存在した。
地下にある会議室は、かなり広く何より部屋の壁は黄色かった。
真ん中に、大きな長い机。『甲羅石』という、インティギルガ名産の材質の机だ。
これは死んだシュリンプスや、養殖蟹の甲羅を使って作られた物質。
鉄よりも軽く、水岩石とほぼ同じ硬さを誇る優れた石だ。
長い机を囲んで、私が呼んだ者と会議をしていた。
会議に参加しているのは、チカも入れて三人。全員女だ。
「全く、あなたは本当に恐ろしいことを考えるわね」
「ええ。今回の状況は、とても思わしくありませんから」
チカの前の椅子には、亀の女だ。
亀の甲羅をつけていて白いスーツの前掛け服を着ていた大人びた顔の女性。
亀人族では綺麗な白い肌で、かなり珍しい。
タートリアの州領主、ヤマメ・イシュターだ。
「本当に、彼だと断言できるの?」
「あたしの母と同じ、彼からそんな匂いがします」
もう一人は、スキュラ。
獰猛な犬の下半身と、上半身は藍色のロングヘアーの女性。
フリルの入った、白いドレスを着ていた。
胸は、この三人の中で一番大きい。
彼女の名は、『クナシュア・エキドナ』。スキュラの女王だ。
「ふーん、そうなんだ。トリトンというのは」
「ええ。これが本当ならば、七種族は協力して必ず倒さなければいけない敵です。
チカも、クナシュア様も分かりますよね」
亀女は、真剣な顔で言い放った。
『トリトン』という存在が、この深海世界にいた。
チカ達は、海神ポセイドンの力で海の生物が人のように進化した七種族だ。
深海世界ではポセイドンは唯一神であり、七種族の中では同じように伝えられてきた。
海神ポセイドンには、たった一人に息子がいた。
それがトリトン、別名『海を混沌にさせるもの』。
父であるポセイドンが、後に名付けていた。
神話の話だけど、簡単に言うとトリトンはポセイドンと親子喧嘩をした。
ポセイドンのいた神の海を、追い出されたトリトン。
ポセイドンが管理する深海世界を、混乱させようと深海世界にきた。
トリトンは、変身魔法を唯一使える存在だ。
誰かになりすまし、深海世界を混乱に陥れようと暗躍していた。
「そのために、クナシュア様は臨時で『七種族会議』を行いたいと?」
「うん、彼を呼ばないといけない。エツ皇帝を会議に呼ぶ」
「本当に、エツ皇帝がトリトンなの?」
チカは、まだ信じられない。情報の出所は、クナシュアだ。
二年前の戦いで、当時将軍だったエツやクロコノイドとはシュリンプスも同盟を組んでいた。
現在の皇帝エツも味方だし、ここにいるヤマメも味方だった。
だがあの頃のエツは、まだ一介の将軍。
クロコノイドは、ゴンスイ皇帝が率いていた。
だからエツは顔見知りであり、ヤマメもよく知っている人物だ。
「可能性は、極めて高いだろう」クナシュアには、何か確信があった。
「嘘だったら、大変だよ」
「一つ、根拠があるんだ」
「根拠?」
「あたしの母は、かつてトリトンだった」
クナシュアは、静かに語っていた。
ここにいるクナシュアの母エキドナに成りすましたのが、七種族の敵であるトリトンだ。
エキドナは、半魚人軍……ナスチュン王らの活躍により討たれてしまう。
成りすましたトリトンは、死んだ……かに見えたが死んでいない。
ポセイドンほどでは無いが、トリトンも神だ。
現在もこの深海世界で、隠れて生きていると言われていた。
クナシュアは、トリトンの正体を探り……この会合が設けられた。
その話を、チカはヤマメと一緒に聞いていた。
「トリトンは他人になりすます、それは本当なのね」
ヤマメは、興味深く聞いていた。
だが、チカは難しい顔を見せていた。
「だけど、エツ皇帝がトリトンである理由は?
この話だと、エツである理由とはつながらない」
「今のエツ皇帝とエキドナの共通点は、好戦的な性格に変貌したこと。
そして、もう一つ重要なことがあるわ」
「何?」ヤマメが不思議そうな顔で聞いていた。
「私の母はライタルクを狙っていた。半魚人の王都」
「なぜかしら?」
「それは分からないけど、トリトンにとって何かがあるのでしょうね。
ライタルクは神器も置かれたポセイドンに最も祝福された都市」
「水魔砲か」
「そういえばチカ。前の戦いで、エツと一緒に戦ったでしょ。
あなたたちなら、エツの性格の変化が分かるのでは?」
「クロコノイドは元々好戦的で、野蛮な種族よ。戦いを好むし」
「エツは違う」
チカは、分かっていたことが一つあった。
「チカ?」
「エツは心配性だったのよ、慎重で戦う時もかなり準備をするクロコノイド」
セビド砦攻略戦で、エツとチカは同じ軍で戦っていた。
エツはしつこい程に、何度も準備を入念にしていた。
最近のクロコノイドの快進撃は、連戦をしていた。
慎重派のエツがここまで積極的に戦うのは、何かが違うように思えた。
「なるほど、エツと一緒に後方で支援していたからね。チカは」
「うん、エツはつまらない男よ」
初対面の印象は、おとなしくつまらない男だとチカは思った。
だから、彼が皇帝になったときに驚きがあった。
元々ゴンスイ皇帝が、老齢だから退位はするのは既定路線だ。
それでも、クロコノイドには他に強き将軍は多い。つまり野心家の皇帝候補は他にもいた。
あの名前の長い将軍イエン……なんたら、だったかしら。
「確かに、急な性格の変化はなりすましの可能性が高い」
「ヤマメも、気にしていたんでしょ」
「うん」チカは、タートリアのヤマメを見ていた。
タートリアとクロコノイドは、あまり関係が昔から悪い。
「そうだな、ヤマメ殿。彼女には、既に送ったのか?」
「送った?」チカは首をかしげた。
それでもクナシュアとヤマメは、会話を続けた。
いつの間に、この二人は仲が良くなっていたの。
前の大戦では、タートリアとタートリアを攻める半魚人の同盟スキュラの代表。
あの戦いでは、敵同士だったはずなのに。
「ええ彼女だけは、唯一信用できますから。
あの野蛮な軍でも最も真っ直ぐな人です」
ヤマメの言葉に合わせてか、部屋のドアが開いた。
「チカ様、来客が来られました。
ヤマメ様の知り合いが、こちらの会議室に来られるそうです」
「来たわね」タートリアのヤマメが、立ち上がった。
そして、兵士の後ろには一人のクロコノイドが姿を見せた。
深紅の赤い鱗で、黒いコートを纏う鰐頭の女性。ユナ・イエンツーユイ将軍が、姿を見せていた。




