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――イラーク城:王の間――
(YENTUYUI’S EYES)
イラーク城は、大きな岩を加工した通称『岩の城』。
この辺りは海底山脈が多くて、岩場が多い。
元々岩の山が多く、水岩石の宝庫だ。また鉱石が採れる海底鉱山も存在していた。
イラーク城の中、私がいたのは王の間。大きな王座に、私は座っていた。
半魚人は、下半身が魚なので椅子に座る習慣が無い。
よって、ルビアから王座を持ち込ませていた。
私の前には、老人クロコノイドのニギスが立っていた。
「イラーク城も、肥沃な土地なのだな」
「ええ、そうでございます。
北洋は、海神ポセイドンの加護を強く受けている地域が多いですのぅ」
「相変わらず、いい生活をしているな。半魚人共は」
黒い鱗のクロコノイドは、にこやかな顔で私を見ていた。
「後は、報告書の通りです」
「今、見ておる」海藻紙に書かれたイラーク海域の情報を、見ていた。
資源に、食料。兵士を預かる将軍は、常に占領地の状況に気を配らないといけない。
この町で、どの程度物資を補充できるのか。
「なるほど、この地は水岩石と珊瑚が採れるようだな」
「はい、後は珍しいところで『深海真珠』が大量に採れるそうです」
「深海真珠とは?」
「宝飾用の金属で、高値で取引がされています」
「なるほど」
「興味は無いのですか?」
手を広げて話すニギスに、私は冷静な顔を見せていた。
「何の興味だ?」
「女性なら、深海真珠のアクセサリーは大好物でしょう。
イヤリングに、ピアス、ネックレスも。
女性は、輝くアクセサリーにお金を出してでも欲しがるモノです」
「そうか、私は気にしたことが無いが……」
私は、アクセサリーに興味がない。
目の前のニギスは、ニヤニヤしながら私を見ていた。
「何がオカシイのだ?ニギス殿」
「いや、イエンツーユイ将軍も真珠が似合うと思って」
「そうか?」
「イエンツーユイには、真珠は似合わないぞ」
ニギスの後ろから、白い体のテンタルス……サハギーが姿を見せていた。
四つ足を器用に動かして、水岩石の床を歩いて現れた。
「サハギー将軍、真珠に興味があるのか?」
「いや。それより前回の相手は、なかなか楽しめたぜ。殺し」
「相変わらず、「殺し」が好きだな」
「おうよ・俺に殺しが無けりゃ、生きていく意味が無いからな」
サハギーの言葉は、私も少し理解ができた。
圧倒的な強さで「殺し」を求める軍人サハギー。
戦うことでしか、価値を見いだせない私。
私とサハギーは、似たもの同士だ。
「それより、イエンツーユイ将軍。
次の戦はどこだ?いよいよ半魚人軍の首都センブレルか?」
「そうだな、今ならセンブレルも考えていいだろう」
イラークの地理的に、北の大都市センブレルは隣接していた。
だが、センブレルは半魚人最大の都市。
敵軍も多く、かなり厳しい戦いが予想されていた。
前回は、運良く半魚人軍の仲間割れがあって危機を乗り越えた。
サハギー殿やニギス殿の援軍が無ければ、敵の数で押し切られていたかもしれない。
私の赤い鱗には、まだいくつもキズが残っていた。痛みも残っていた。
「だが、考えるのは私では無い」
「皇帝エツか?」
サハギーは、つまらなさそうに私を見ていた。
不満そうなサハギーは、私にあることを問いただした。
「お前は、クロコノイドの女王になろうとは思わないのか?」
意外な一言が、サハギーの口から飛び出してきた。




